第1039話 地道な調べ物⑦まだ繋がらない線
映像を見て話せることはそのあたりまで。
昨日調べたことは班長から報告がいくはずだけれども、せっかく直接話せる機会なので、ざっくばらんに話していく。
ブライはうちの下の双子と組んだのは初めてみたいで興奮していた。
「エトワール嬢とノエルはすごいな。親父も感心してた。教えることは何もないって。動きもだけどさ、戦闘魔法のセンスがスッゲーいいんだよなー」
ふたりの動きにも魔法にも心配なところはなく、個人での戦い方も団体での戦い方も、子供とは思えない身のこなしだと教えてくれた。
今度のメンバーで戦いやすいように、お互いの癖なんかを知るために演習しとくって感じだとか。
イザークとルシオは兄さまたちとグレーン酒を調べている。
グレーン酒は王都のお酒を下ろしているとこに聞いて回ったけれど、まだ新しい発見はないそうだ。
アラ兄はマシュー先生に動きはなかったといって、ダニエルはコリンさまはとても張り切っていると教えてくれた。ダニエルは、コリン殿下の秘書をやっている。
ロビ兄は後半の集会をあたっていて、目ぼしいことは見つけてないんだけどと、黙り込む。
ん、どうしたんだろう?
「どうした?」
アラ兄が尋ねる。
「アダムは何か思うことがあって、おれとロイター嬢を組ませた?」
え、なんでそんなことを聞くんだ?
みんなの視線がアダムに集まる。
「えっ、なんかあった? スタンガンくんは、変なところで勘ぐってきそうだから先手を打ってリディア嬢と組ませたんだ」
「そうか。ここでいうことじゃないかもしれないけど。
ロイター嬢は何かひっかかるんだ。何がって言われても言葉にできないけど。
突っかかってくるスタンガンの方が、嫌な感じはしない。
リー、ロイター嬢とふたりっきりになるな」
ロビ兄は真剣だ。
「……うん、なるべくそうする」
わたしはもふさまに視線を送る。
からかさちゃんに何かあるのかな? 変な子といえば変な子な気はするけど。
「ロイター嬢のこと、王室はもちろん調べているよな?」
アダムがロサに確かめる。
「バンプーの友達は、第四夫人が指定してきたんだ。もちろん陛下が調べさせたと思うけど……」
わたしとアダムとロビ兄で顔を合わせる。
「それなんだけど、どうやら友達ではないらしいよ」
「え?」
ロサがレアな間抜けな顔をしている。
「友達でないってどういうことだ?」
「スタンガンくんの言うことには、バンプー殿下のことをよく知らないって。バンプー殿下を支持している家門みたいだけど」
「……そういうことか。バンプーを王位につけるのに有利となる家門の子たちを呼んだんだな。としたら、バンプーはやりにくいな。友達は入れられなかったのか……」
わたしたちは再び目を合わせる。
「スタンガンのいうことだけど、バンプー殿下は学園で友達を作ってないみたいだよ」
ロビ兄が話せば、みんなうっすら口を開けて固まる。
バンプー殿下って誰にでもペラペラ臆さず話すもんね。そのイメージが強いせいか、友達の輪の中でもそうやって話しているんじゃないかと、学園生活を楽しんでいるのではないかと思っていた。
いや、ひとりが好きって人もいるから、ちゃんと楽しんでいるのかもしれないけどさ。
でもさ、上に立つ人となると、少し事情は違ってくる。指示や報告をするにしたってコミニュケーションは必要不可欠だからね。
話すこと自体に全く問題なさそうだけど、人を大切にしない人は、関わった時にすぐわかる。それが上司であれば余計にわかるし、人は離れていく。
わたしがバンプー殿下の資質を思うのはおこがましい。
けどさ、王子殿下だけど、知り合っちゃったから。バンプー殿下も。コリン殿下もアガサ王女も、もちろんロサもみんな幸せであって欲しいと思うわけだよ。
学園生活も楽しいものであって欲しい。学ぶ、知らないことを知るのはとても楽しい。それだけでも楽しけどさ。いろんな人がいて知り合う機会だから、あれだけベラベラ話せるんだから、やっぱりもったいないと思うな。
そうか、とロサは終わらせたけど、何か思いを巡らせていた。
「じゃあ、リディア嬢はスタンガンくんと組んでたのか。役所で調べたいってすぐに来たぞ」
「足が早くて、放っておいた。もふさま、わたし反対したよね?」
わふん。
もふさまが答えてくれる。
「地道な作業だから我慢ならなくなったみたい」
そう、彼は我慢づよいタイプではないらしい。
「でも戻ってきてからは、一緒に前半の3箇所目を調べ始めたよ」
「ってことは前の2箇所は何かわかったのか?」
「1箇所目は取り壊され、セレクタ商会になっていたの。ウッド家に引き続き調べてもらっていて、今わかっているのはまだ申請があったばかりの商会で、倒産したタールバッハ商会の従業員たちが共同経営しようと立ち上げたこと。
倒産したのは真珠を手に入れていた航路に魔物が住みつき、冒険者を雇ったみたいだけどうまくいかなかったみたい。産地の特有の花で香水を作っていて、従業員たちはその香水を持って、王都で一旗あげようときたみたいよ。
空き家の時もとにかく人が居つかないとかで、商業ギルドの所有だったみたい」
わたしはダニエルの入れてくれた紅茶を口に含む。
「2箇所目は事故物件だった」
「事故物件?」
「お家騒動で、死者8名、負傷者5名。おまけに加害者は自殺」
わたしはマハリス邸についてわかったことを伝えた。
「すごいな、リディア嬢は昨日の今日でそんなことまで調べあげたのかい?」
ダニエルに褒められると悪い気はしない。でも……。
「ま、これが全部意味あることに繋がりはしないだろうけどね」
そう、どんな場所だったかってことを調べたけど、それが使った人たちの何かに繋がるかは、また話が別のことだ。
でも、あそこでやろうと決めた人がいるはずだ。
空き家だけでなく、何か繋がりが。
決めた人を特定できる何かが。