第1034話 地道な調べ物②試験の課題に選ばれた意味
「先輩、急にいなくならないでくださいよ!」
「え? どっちかというといなくなったのはスタンガンくんだと思うんだけど」
自分の行動を思い出したみたいで、顔を赤くしている。
「すみません、僕思いつくと、いてもたってもいられなくなっちゃうんです」
うん、弾丸みたいだったよ。もふさまならまだしも、わたしじゃ絶対追いつけないと思って放っておいた。
……謝れる子なんだね。
図書室で焦ってわたしを探しまくっていたスタンガンくんは、当然司書のマッキー先生の目に留まった。何を探しているのか尋ねたところ、わたしがいなくなったと言ったようだ。
マッキー先生はわたしとスタンガンくんが資料を集めていたのも見ていたので、わたしはこっちにいると彼を連れてきてくれた。
「それはありがとうございました。わたしは読み終えたので、戻ろうと思っていたところです」
「では、戻りましょうか」
新聞の束を元の位置に戻して室を出る。
マッキー先生が鍵をかけ、廊下を通りバックヤードを通って、図書室だ。
「おふたりで課題をやっているんですね。人は少ないですが、静かにお願いしますね」
マッキーさんから注意を受けて、わたしたちは返事をした。
図書室の少し開けたスペースには机と椅子が置いてある。近くにそう人がいなければ話したりすることもできる。
周りに人がいないことはわかっていたけれど、一応もふさまに聞こえる範囲に人はいないよね?と確認をとった。
もふさまは目を伏せて、そうだと教えてくれる。
「10年前の新聞って、何を調べていたんですか?」
「2ヶ所目のマハリス邸が事故物件だったの」
「事故物件?」
「一家惨殺があったらしくて。それで当時の新聞をあたったの」
「ざ、惨殺?」
声が大きくなるスタンガンくんに指を立て、静かにのジェスチャーをする。
「なぜ、惨殺されるようなことが?」
「結局、加害者も自殺して亡くなったから推測の域を出ないのだけど。
マハリス邸には男爵のストレと夫人、そして3人の子供たち。
男爵の弟のマージが屋敷にやってくる。借金があり、取り立てにまいっていたことから、お金を借りにきたのではないかと。男爵家も鉱山から鉱石が出なくなってきて困窮していたそうよ。それでも何度も弟にお金を貸していて、ひとつも返ってこないと知人にこぼしていて。
ある日、尋ねてきた弟に、男爵、夫人、子供たち、止めに入ったメイドや執事など8人が死亡、怪我人が5人。
自宅に戻ったマージも自殺をして、真相は闇の中、みたい」
「そ、そんな曰くのある空き家で集会を……」
「君の方はどうだったの?」
「あ、生徒会に行き、殿下たちに頼んだら手配しておくと言ってくださいました」
「その前後に班長のアダムに相談、または報告した?」
スタンガンくんはあっと声をあげる。
「伝達魔法でいいから伝えた方がいいよ」
そう言うと、スタンガンくんはちょっとむくれる。
「僕と先輩ペアですよね? なら先輩が報告してくれたっていいじゃないですか?」
「あのねー、そんなの登記簿調べれば誰でもわかることでしょ? それじゃぁ、なんで今まで調べられてないの? それ以外のことを調べるためにわたしたちがいるわけ。それわかってる? わたしはあなたの意見に賛成していない。あなたが暴走した。その尻拭いをなぜわたしがしなければいけないの?」
突き放せばムッとしたようで、無言で手紙を書き始めた。
そう。集会のあった場所のことなんか、役所で調べてもらえば誰の持ち物か簡単にわかる。バレる危険性があるといっても、いくつかの場所一帯を丸ごと調べてもらえば特定されにくい。そんなふうに、いくらでも調べようはある。
要はこの案件は多くが学園に縛られている学生が調べるより、大人がやった方が解決が早く見込まれることだ。それなのになんだって試験の課題をこの案件にしたんだろう?
2年前にあった謀反事件。あれもある意味試験だと王子殿下たちは言っていた。あの場合結果的に謀反がわかったけれど、最初はそんな事件が隠れているとは思っていなかった。怪しい動きがあるにはあったけど、わたしが死んでいると思い込んでいたり、王家を馬鹿にするような動きであったりしただけ。
関係者がわたしとか、メロディー嬢とかロサとか子供がターゲットだったから。わたしたちが動いた方が情報を引き出せる案件だった。
それが謀反に繋がっていたとわかったときは驚いたけど、見事に殿下チームは敵の策略を突き止め阻止した。
見事解決したから、今度もできるって思ってるのかな?
なんでこのことの主導権を子供たちに持たせたんだろう?
「……ディア先輩」
ん?
「リディア先輩」
スタンガンくんに呼ばれていた。
「あの、勝手に振る舞って、勝手なこと言ってすみませんでした」
と頭を下げる。
ダンマリかと思ったけど、そうじゃなくて考えて反省してたのね。
「ペアなんだから、足並み揃えていきましょ。
2番目のマハリス邸のことはわかったから、次はロンナイ邸ね」
資料を見て、スタンガンくんが声をあげる。
「この住所って、僕わかります」
「9区に住んでるの?」
「いいえ、あの楽器のお店があるんです。近くに」
「スタンガンくんって楽器をやるの?」
「いえ、僕ではなく婚約者が」
そう言って誇らしそうに少しだけ胸を逸らした。