第1033話 地道な調べ物①マハリス邸
役所で調べてもらえば1発だけど、一介の学園生が調べるとなると、家の遍歴を探っていくしかない。それも記録書から。
どれも空き家に無断で入ったって感じだね。
1回目に使用された空き家は、2週間後に壊されて新しく商会が立ち上げられている。セレクタ商会。聞いたことないな。
一応セレクタ商会のことも調べておくか。
これは商会などから聞いた方が早そうだ。前の家の持ち主についても、聞いた方が早い。
わたしは2回目のマハリス邸跡地、スタンガンくんには3回目のロンナイ邸跡地について資料をあたっていくことにした。
わかることが少なくて嫌になってくる。
「先輩、登記簿を見せてもらうのが一番早くないですか?」
「当然、そうね。でも、目的はなんて言うの? 同意書で一切合切を口外しないことになってるでしょ?」
「どうにでも申請できるじゃないですか」
「もし役所に関係者がいたら? 調べられているって気づかれるわ」
そこが一番気をつける点なのだ。
「そうだとしても効率が悪すぎます。ここだけは役所から聞いた方がいい」
「だとしても、それは上が判断することだわ。どうしてもそう思うのなら殿下たちに申請をあげないと」
「では、そうします」
え。
彼は図書室を小走りに走って行ってしまった。足、早いな。
『追いかけないのか?』
もふさまは図書室の床にお腹をペタっとつけている。
「ロサたちの判断に任せるわ」
小声でいって、わたしは本をめくる。
場所の所有者は確かに登記簿で調べる方が早い。わたしたちが役所に行って手続きを踏んだら目立つけど、ロサたちだったらピンポイントの場所だけでなく、このあたり一体の価値を調べたいとかなんとかいって、集会の行われた場所の周辺丸ごといくつかを調べるはずだ。そうすれば勝手に店でも出す気で調べているのか?と深くは考えられないで、集会のことを調べているとは気取られないだろう。
それにしてもスタンガンくん、わたしを監視する勢いだったのに、早々にでてっちゃった。いいのかしら?
マハリス邸跡地。
う、事故物件か。
っていうか、お家騒動があり、この地でかなり血が流されたらしい。
それで買い手もつかなくて10年か。
お家断絶ね。貴族名鑑を見てみるか。10年前。
貴族名鑑の本が置いてあるところまで移動。
マハリス、マハリス。あった。男爵家ね。
5代目で途切れている。ストレ・マハリス。
10年前の新聞はっと。
今度は新聞を束ねてファイリングしてあるところに。
おっと残念、3年前までのものしかない。
どうしようかなと思っていると、後ろから声をかけられた。
「ご機嫌よう、シュタイン嬢」
「ご機嫌よう、マッキー先生」
司書のマッキー先生は優しい茶色の瞳を和ませる。
「調べ物ですか?」
「はい。あ、先生、新聞は3年前までのものしかありませんか?」
「ここにはそうですね。いつのが見たいのですか?」
「10年前です」
「10年前ですか、保管庫にはありますよ」
すごい10年前のものもとってあるなんて!
「わたしの閲覧は可能ですか?」
「はい、大丈夫ですよ。保管庫内の特別なスペースで、1時間単位の申請で見ることにはなりますが」
「はい、お願いします!」
ノートを胸に抱きしめて、もふさまと一緒に先生の後についていく。司書さんたちのバックヤードを抜け、並んでいる保管庫。
こんなふうになっていたんだ!
マッキーさんはバックヤードで手にした鍵を、3と書かれた部屋を開ける。
少しだけ埃の匂い。
「こちらです」
促されて入る。
中は教室くらいに広い。ほとんどが本棚で、その間は人がひとり通るのがやっと。
「10年前の新聞はこちらですね」
と棚から新聞をファイルしたものを取り出してきて、少し開かれたスペースになっているところに置いてくれた。
「ありがとうございます」
「終わったら、私に声をかけてください。1時間ごとに私の方もこちらを尋ねます」
「ありがとうございます」
もふさまは陽のあたっているところに寝そべる。
わたしは机の上に新聞を広げながら、マハリスお家騒動の記事を探した。
1月からめくっていく。
やっと7月に入り、その27日に事件は起こっていた。
5代目マハリス男爵、ストレ32歳。夫人27歳と子供が3人。嫡男6歳、長女5歳、次女3歳。
男爵には弟が一人いた。お金の無心にきた弟マージ。彼は断られてキレる。ストレ男爵を撲殺。執事には部屋に入らないようにいって、夫人の部屋に。そこで夫人の部屋にあったと思われるナイフで夫人を刺殺。メイドが悲鳴をあげ、メイドふたり、止めに入った執事も刺されている。そのまま子供部屋に行き、甥や姪を次々と刺した。メイドふたりと執事ひとりが死亡。他怪我人が5人。
その後、自分の家にて自殺。
マージには借金があり、取り立て屋に追われる毎日。兄にお金を借りようとしたが今までも幾度も借りていて、返したことがないと男爵が周りに言っていたことから、申し入れを断られ、殺害されたのではないかと思われている。
ストレ家も鉱山から鉱石が出なくなったことで困窮していた。使用人をグッと減らしていたのもその証拠で、貸せるようなお金がなかったと思われる。
念のため、数日後まで何か新たにわかったことはないかと読んでみたけれど、目新しいことはなく。主のいないお屋敷で夜に女性の泣くような声が聞こえたとか。長女がピアノの練習をするような音が聞こえたとか。怪談の走りのようなゴシップが載っているだけだった。
一家惨殺。それも弟が兄の一家を。そんな曰くのある家を集会場に選んだ。
ただ長いこと空き家だったからか、それとも曰くを知ってのことか。
これ以上、わかりそうもないね。
と思った時にノック。
入ってきたのはマシューさんとスタンガンくんだった。