第1032話 後輩の真面目な質問(後編)
意外だ。
ロビ兄とアダムと顔を合わせてしまう。
ロサは気づくと人に囲まれている。
バンプー殿下とは数回しか会ったことないけど、気軽に話しかけてきたので、人馴れしているというか、ロサと同じで人が集まってくる中心の人なんだと勝手に思っていた。試験に集められた子はバンプー殿下の、そういう仲間だと思っていたんだ。
違うのか……。
友達枠とはバンプー殿下の、ではなく、保護者同士の繋がりの枠だったのかもしれない。
それにさ、クラスメイトから友達いないと思われるってことは、クラスで打ち解けてないんだろうな。13歳。遊び盛りだよね。王子殿下であるわけだから一線を引くのもわかるけど……。学園内でそう見せているだけかもしれないけれど、全寮制の学園だけにバンプー殿下のことが少し心配になった。
わたしでこうなんだもん、アダムはもっとだろうな。
ちらりとアダムに目をやれば、ほんの少し目を細めている。
アダムは第一王子殿下のふりをして、王族のご家族と過ごしてきた。
本物ではないこと、体が弱いとしていることから、一線も二線も引いていたみたいだけど、愛情があったのをわたしは知っている。
立ち入り禁止区域でバンプーさまと遭遇したとき、陛下からの指示を破っていることの怒りながら、同時にすっごく殿下のことを心配していたもの。
アダムのここではない場所を見ていた目がふと戻ってきて、わたしを見てから微笑んだ。
「私は幼い頃よりブレド殿下を見てきた。
有能で情けもあり、何より公平に物事を見られるお方だ。
私はブレド殿下が作る国を見たいし、支えていきたいと思っている」
「おれもそうだな。ロサ殿下とお会いしてから9年?が経ったかな。
尊敬している。いざというときの行動力もあるし。おれもロサ殿下の作る国を見たいし、協力したいって思ってる」
「わたしもロサ殿下を尊敬してる。子供時代も苦労されているから、これからいっぱい幸せを感じて欲しいと思ってる」
「……そうなんですね。先輩方ははっきりしているんですね」
スタンガンくんはちょっとうつむく。
「私たちが見定めるのは、思想団体の思惑、それに対する王太子候補たちの考え、行動。それを後から報告するだけだ。決してどちらが王太子にふさわしいとか、そう思いを巡らせることではない」
キッパリアダムが言い切ると、スタンガンくんとからかさちゃんがアダムをみた。
「先輩たちの考えはわかりました。質問に答えてくださってありがとうございます」
スタンガンくんの表情が明るくなっている。
「よし、では具体的な話し合いに移ろう」
アダムは潜入してもらう人の窓口には自分がなるといい、得た情報はみんなに話すけれど、潜入者の情報は広げたくないから話さないと言った。
するとスタンガンくんは見た目でわかるほど、ガックリとしている。
「私たちは集会からの情報を集める班だと思いますが、潜入者からの情報はアダム先輩が受け持つのですよね。ということは、私たちは何をすれば?」
からかさちゃんが首を傾げる。
「集会の情報は潜入者から得るだけではないだろう? 今まであった集会から探っていくんだ。探っていることは気づかれないようにね」
「スタンガンくんと、ロイターさんは、過去の集会場のことから拾える情報をつぶさにあたってほしい。その統率はロビン、君に任せていいかい?」
「わかった」
ロビ兄は小さく頷く。
「リディア嬢は、私と行動だ」
「わかったわ」
わたしの担当はクラリベルだ。
こちらは秘密裏だから、アダムとわたしがペアになり、ホーキンスさんとクラリベルからの情報を合わせて伝えていく。そして逆にホーキンスさんたちに指示を出すようにしていくのだろう。
「リディア先輩は潜入者を知っているんですか?」
「いいや、彼女も知らない。潜入者の安全のためだからね」
確かにアダムからホーキンスさんとは聞いてない。クラリベルからの情報で知ったけど。
「お茶会後の試験説明の時も言いましたけど、僕は思想団体とリディア先輩に何かかかわりがあると思っています。
リディア先輩は情報を操作するかもしれません」
「……潜入者と話すのは私、だよ? それをリディア嬢と共有して探っていくけれど。大元のことは私が知っているのに、リディア嬢が情報をどうやって操作すると?」
「話の持って行き方で、全く逆に思わせる話術を使うかもしれないじゃないですか」
ある意味、わたしをかいかぶっている。
アダムを出し抜けるわけないじゃない。
「……君はリディア嬢の話術に惑わされない自信があるから、彼女と一緒に行動したいってことかな?」
アダムは後半からからかうような口調になった。
顔を真っ赤にするスタンガンくん。
「そーゆーことでは! ……に、なりますね」
おお、認めた。わたし怪しまれてるなぁ。
「では、過去の集会場のことから拾える情報を4人に任す。集会が開かれたのがわかっている6回のうち、後半の3回をロビン、ロイターさん組に。前半の3回をリディア嬢、スタンガンくんに。何があっても絶対に学園から出ないこと。そこは約束してくれ」
後輩ふたりはええ?っという顔をしている。
探るために外に行けると思っていたのかもしれない。
アダムが資料を渡してくれた。私には前半3回の会った場所と参加したとわかっている人。ちらりとロビ兄の持つ資料に目を走らせれば情報が多い。後からの方がわかったことが多いからね。
前半ではわかることは少ないかもしれない。
「ロビ兄、何から調べる?」
「そうだな、こっちは先に人から探っていくから、リーは場所からにしてくれるか?」
こちらの方が情報が少ないからだろう。先に図書館で調べる方を譲ってくれるみたいだ。
「ありがとう、そうする。じゃあ、スタンガンくん行こうか」
「登記簿って図書室にはありませんよね?」
「王都の記録はあるでしょ。そこから探すのよ」
スタンガンくんはゾッとした顔をしている。
そうよ、こういうのって、めっちゃ地道で大変な作業なんだから。
「それじゃあ、お先に」
スタンガンくんを連れ、別棟を出て図書室に向かった。