第1025話 省みる試験の始まり④子供たちの考え
「私も尊敬しておりますわ、心から」
短く言い切るリノさま。
リノさままで……。
「先輩たちが口を揃えるのだから、リディア・シュタイン先輩の人柄は良いものなんでしょう。それから王室からの信頼も厚い。
けれどあえて言わせていただきます。
人柄も過去あったことも、これからを判断する基準にすることはできても、それが正しく機能するとは限りません。人は変わっていくし、ひとつ判断が違えば物事はどう転ぶかわかりませんから。
だから僕はすべてのことを言葉通りに受け取らないことにしています。
思想団体の考える何かに含まれているのは事実。ですから、リディア・シュタイン先輩、僕だけでも先輩を何かしら関係があるかと疑わせていただきます」
「あんた何様よ!」
大声を上げて立ち上がったエリンの口を塞ぐ。
「妹が失礼いたしました。
この件にお声がけいただいたからでもありますが、わたし的にも思想団体の考えは引っかかっております。
一介の小娘であるわたしが、どうすると世界を終焉に導けたり、世界を終焉に追い込めるほどの制裁を受けることができるのか? それは具体的になにをしたのか。
見当もつかない世界の終焉への原因をわたしが認めると世界は復活する? バルコーレ嬢にしても元ロンゴ隊員にしても、わたしにあるという〝罪〟があやふやで違うものなのに、それがどこでひとつになるのか。
謀反を起こそうとしたから平民落ちしたことを、わたしが暴いた罪とし、そう知らしめたからと新しい世界で徳を積めることになるのか。
わたしには1ミリも、全く、ことごとく理解できません。
それらが一刻も早く解明されるよう、わたしも尽くしますし、調べていただきたく思っております」
話しているうちに腹が立ってきた。
「ですから、皆さま、わたしに対しての遠慮は無用です。しっかり調べてくださいませ」
わたしはエリンの肩を叩いて、同時に座る。
疑って調べてくれていいと思っているのは本心。
だってあの憑依者は、わたしを元凶と呼んだ。
あれと新興宗教の元が同じかどうかわからない。
けれど、世界の終焉説は誰がなぜ取り入れたんだろう?
アイリス嬢の未来視は、まだユオブリア国内でしか語っていない。というか、王族とその上級貴族、そして一部の人までしか知らされていない。それなのに世界終焉説が出てきたのが変だ。
アイリス嬢の他にも未来視ができる人がいるのかもしれない。ま、エリンも、そうだと言える。エリンは自分に近い人にまつわること限定みたいだけど。そういうスキルがあるってことだものね。
でもそうすると、新しい世界説が意味わからないのよね。アイリス嬢の未来視では半々になってきている。陛下が亡くなり瘴気があふれる未来と、なんとか切り抜け、ユオブリアが生き残る未来。世界が一旦終わって、新しい世界ってのは聞いたことのないバージョンだった。
未来視と言っているけれど、彼女の本当のスキルはアカシックレコード・リーディング。本来は世界の記憶を読める能力だ。だから誰かの未来視より、聖女アイリスのスキルが一番信憑性が高いと思っている。
あれと新興宗教の元が同じかはわからないけれど、新興宗教は世界終焉説を唱え、その元凶がわたしとしている。わたしに悪意があるという点が一緒だ。
「スタンガン侯爵家のキャムくん、いい着眼点だと思うよ。それに臆しないで自分の考えを言えるところも素晴らしい。どちらにしても決めつけることはせずに柔軟に当たって欲しい。リディア嬢も、それでいいね?」
ロサがまとめて、わたしは頷いた。スタンガン子息も頷いている。
ロサからの報告は続く。現時点でわかっていることを告げ、ではこれからどうしていくかの話へと移る。
あ、リノさまに迫る接触については言わないんだね。まだはっきりしていないし、新興宗教っぽいって感じるだけかもしれないもんな。それに絡めて名前が上がるのが、ここにいる関係者ばかりだから、はっきりしないうちは出さない方がいいのかも。
それにクラリベルのことも言わなかった。あちらもまだわかってないもんね。
ダニエルがスクッと手を挙げた。
「次の集会の噂を掴んでいます。ローブをかぶるといっても、我々は顔が知られているので、ある者に潜入してもらうことにしました」
「その方に、身の危険はありませんの?」
リノさまが心配そうにおっしゃる。
ダニエルはにこっと笑う。人を安心させる笑みだ。
「集会は〝初期〟の段階だと思われます。勧誘し人を集めているところ。デルコーレとロンゴというように個々で動く者がいることから、未発達の状態で統制が取れていないのがうかがえます。ですから今ならまだ危険は少ないと考えています」
そうね。今は人々を取り込んでいる最中。コトを起こすなら取り込んだ後だ。それに今調べが入っても、まだ何もしてないわけだから、どうにでも逃げられる。目をつけられたと知ったとき、もし悪いコトをしている自覚があるのなら逃げるはずだ。この集会を手放したとしても、派生した集会を作れば今までの人たちは引き込むことができる。思想は同じだけど言葉を少し変え、表向きは全く違う団体だといえばいいのだから。悪いコトをしていなければ、調べが入ってもドウゾドウゾと監査が入るほど大きい集会になっていたんだなと喜ぶかもしれない。
ま、グレーン酒といって薬かなんか混ぜてそうだから、悪いコトしていると思うし、自覚もあると思うけどね。クラリベルに芝居をさせ、扇動しようとしているんだから。
2年生から潜入者は誰だと質問があったけれど、知る人が少ないほど潜入者の安全性が高まるので言わないとダニエルはキッパリと言った。
どういった探りかたが他にあるだろうというロサからの呼びかけに、次々と案が上がる。2年生以外から。
するとそれまで機嫌良さげだった第四夫人の顔から表情が抜け、なんか冷気が漂ってくる。
これ以上、今思いつくことはないかな?と見渡した時点で、夫人がテーブルに手を置いた。
けっこういい音で、わたしたちは揃ってびくっとした。