第1024話 省みる試験の始まり③まとめ(後編)
話が移り変わりそうになると2年生から手が挙がる。
「リディア・シュタイン先輩は、バッカスやその思想団体からどうして目をつけられているんですか?」
ありゃりゃ。
みんなの視線がわたしに集まる。
わたしが一番知りたいよってところだけど、まぁ普通、一番気になるところよね。
「それはなぜだかわかっていない」
「あの、そんな人をこの試験のメンバーにいて大丈夫なんですか?」
やっぱり2年生でもしっかりした考えを持っている子たちだ。
同学年や幼なじみたちは今までのわたしとの思い出があるゆえに、わたしを敵視しないけれど。
何かことが起きている。被害者にも見えるけれど、それは同時にかかわっているともいえる。上級生たちは〝仲間〟と見ているようだし、王室にも信頼があるようだ。けれど、それこそ危険じゃないか? そんな意見が出ても驚くことではない。
エリンが質問した子をキッと睨みつけている。
わたしはエリンの手の上に手を置いて、首を横に振る。
これが一般的な反応なのだから。
「大丈夫というのはどういう意味かな?」
ロサが優しく尋ねた。
「被害者ではなくて、何かしらのことをしていて、それで思想団体に危険視されているかもしれないですよね? それとも……言いたくないですが、敵の一味ってことも考えられませんか?」
ああ、だからか。
顔をあげると陛下と目が合う。陛下としてもこれは通過点でこんな話が出ることは予想済みだったんだ。だからわたしの家族から、下の双子まで組み込まれているんだ。わたしの味方が。
わたしをメンバーに入れない方がサクサクいっただろうけど、思想団体から名前が挙がっている以上、わたしは渦中の人となる。だから、好き勝手に詮索されないようメンバーの方に入れたんだ。
王室はわたしを被害者だと見ていると知らしめるために。いや、敵だとして監視もできるだろうというところかもしれない。でもそれで監視しながらわたしが敵でないとわかれば、それほど強みになることはないのだから。
守られる子供たちにわたしも含まれていたわけだ。なるほど。
「彼女を知らない人からすると、そう思うこともあるかもしれないね。ただ彼女が陛下の集めた者のひとりということを思い出して欲しい。王室は彼女をユオブリアに害する者だとは思っていない。ましてや世界終焉の元凶だとはね。
……彼女は2年前の謀反事件で自分が着せられる汚名も顧みず、真摯に事に尽くしてくれた。その結果……ロンゴのように、暴き出した一旦を担うリディア嬢が全て悪いかのように思っているものも出た。けれど、罪を犯したのは間違いなくロンゴの親であるザクセン男爵だ。
リディア嬢は小さい頃から何かにつけて名前の挙がっていた令嬢だ。そしてシュタイン領は発展目覚しい領であり、後見人となる親族も名のある方たちばかりだ。それが槍玉にあげられた原因のひとつであると、私は思っている」
勢いよく手を挙げたアイリス嬢をロサが促す。
「あたくしはリディアさまの魂が裏切るような方ではない色だと断言できます。聖女として」
場がシーンとする。聖女って魂の色が見えるの? でも誰もそこは突っ込まなかった。アイリス嬢が楚々とした外見とは裏腹に、拳を握り締め片手でガッツポーズをしているのがどこか異様に見えたのかもしれない。
「あたくしが聖女候補と言われていた頃、誘拐されたことがあります。リディアさまもとばっちりで一緒に。あたくしは怖くて恐ろしくてただ泣いてばかりいました。けれどひとつ下のリディアさまは同じく誘拐されたあたしたちふたりを小さな手をいっぱいに広げて守ろうとしてくださりました。知恵を使い、そこにある物で脱出方法を考え、助けを求めに行動しましたわ。リディアさまはあたくしと違って勇気があって、怖くないのかと思いました。だって情報を取るために誘拐犯に果敢に挑んでいくんですもの。でもそれはあたくしの勘違いでした。手を繋ぐと、リディアさまは震えていらした。とても怖いのを我慢して我慢して、怖い気持ちと戦って、あたくしたちと逃げてくださったんです」
アイリス嬢……。
「リディアさまはそんな方です。優しくて正義感が強くて。荒唐無稽のようなあたくしのスキルから得た情報を信じてくれました。そして一緒に考えてくださいました。笑い飛ばしたり疑ったりせず、支えてくださいました!」
「私もリディアさまに救っていただきました!」
大きな声をあげたのは、いつも物静かなマーヤ令嬢だ。
「商人の娘でありながら、私の落ち度でシュタイン家の登録前の商品が盗まれて先に登録されてしまうことが起きました。私の商人としての未来が絶たれるだけでなく、ウチの商会自体潰すこともできました。でもリディアさまは、もっといい商品を作るからあれはくれてやってもいいのだと言って、……本当にその後からもっと良い商品をシリーズで立ち上げられました。リディアさまは慈悲深く、けれどそれを重荷にしないように新しいことに挑んでいく方です。その凄さにあやかろうと、いく人もの人が絡んでいくのを私は見てきました」
「私からもよろしいですか?」
今度はアイボリーさま。
「フォルガードに商談に行ったときですわ。最初からうまくいくとは思っていませんでしたが、他国ではウチの権威は効かない。暗礁に乗り上げていました。そのときに、私が学園生だと知ると、リディアさまの話が出ました。
リディアさまはフォルガードには行かれたことはありません。けれど、店舗を持たれています。自分の店舗だけでなく、周りの方々とも関係は良好で。
リディアさまが一言私と親しいと言ってくださったことで、私の話を聞いてもらえました。私より2つも下でありながらも、リディアさまはもう仕事で成功されているレディーでもあり、私も尊敬しております。リディアさまはそんな方です」
……皆さま……。