第1023話 省みる試験の始まり②まとめ(前編)
マシュー先生は参加してみて、やっぱり詐欺だと思った。
なぜなら、主張の主語と述語をズラしていて、筋が通らないからだ。
何をもって世界の終焉が近づいているとしているのか、何があって終焉となるような制裁を受けることになるのか、尋ねても「感じませんか?」と問い返される。ただ、ふるまわれたグレーン酒を飲んだ人は、「感じませんか?」と問われれば「感じる」と答え、世界が終焉に近づいているのを〝みんな〟感じているようだった。そして自分もひと口勧められるままに飲むと、深く考えることができなくて、思考があやふやになり、言われたことに対して、ただ頷きたくなったという。
マシュー先生は元々、懐疑的な性格なので、とてもおかしなことが起こっているとぼやけた頭で思ったそうだ。それでグレーン酒は酔ったフリをして捨てた。その後、あのグレーン酒で人の思考をあやふやにしているのではと思い、それを立証するために、次は飲まずに参加したそうだ。
風邪気味だと口に布を覆い、ふるまわれたグレーン酒をその内側の布に含ませた。それでグレーン酒を飲まなければ、頭ははっきりしていて、やっぱりみんなの言ってることは、なんの根拠もないとスッキリしたそうだ。だからもう怪しげな集会には行かないからいいだろうと言ったそうだ。
混乱している時、それからうまくいって気が大きくなっているときに判断を狂わせやすいものね。先生は戦争が起こりそうなのかと思ったというのは新しい視点だ。でも正しいかもしれない。
プレリュード。前奏曲だ。集会としては小規模の域。頻繁に行われれば耳にすることもある。口止めされているはずだけど、新年会の事件は集会に通っていた令嬢が起こしたこと。小さく収められた出来事たち。
いずれユオブリアが外国から狙われていることがわかったら人々は混乱するだろう。何かにすがりたい人も出てくる。そんなとき思い出されるのは、以前からあった世界終焉説……。
今はほとんどの人が見向きしていないけれど、それがいつか振り向いたとき礎になっていく。
そういう効果もありそうだ。
バンプー殿下はこれからもマシュー教諭を監視していくが、他に怪しい点はなかったと結んだ。
それから市に出向いてチラシが配られないかを調べたが、それは初期の頃だけだったのか、今は口コミや知り合いを引き込む段階に入っているようだと述べた。
わかっている会場にしたのは幾人かの下級貴族の持ち家だが、よく調べるとそれは金銭問題で既に破綻していて、担保の差し押さえになっている家だそうだ。踏み込むと調べていることが知れてしまうので、わかっているのはそこまで。
よくないことをしていると向こうが感じていて、調べられたらそこを切ろうと思っているのなら、担保として預かっている者の目を盗み、使用していることにしているだろう。担保としているものもグルなのか、そういった情報を知ることのできるもっと上の者のしたことかは、現時点では判別がつかない。けれど、バンプー王子はもっと上の者が関係していると思っているのではないかと思えた。
バンプー王子からロサへとバトンタッチだ。
ロサは新年会であった、婚約者であるリノ・セローリア令嬢傷害未遂事件の話から始めた。
個々に挨拶をしている途中にいきなりセローリア令嬢に向けて刃物を振り上げたバルバラ・デルコーレ男爵令嬢。すぐに取り押さえられ、被害はなかったが、そのさい彼女はリディア・シュタイン嬢に脅されてやったと嘯いた。
それが嘘だとわかったのは、デルコーレはパーティの始まる前にリディア嬢に会って脅されセローリア嬢を傷つけるよう言われたというが、そのリディア嬢は当日穢れにあい、王宮に来ていなかった。彼女が王宮に訪れていないことは複数名から証明できることであった。
その際、詰所にリディア嬢を呼び、詳細を尋ねたところ、セローリア嬢のお付きとなっていた女性騎士、パメラ・ロンゴが規律違反をし、リディア嬢に罪をなすりつけようとする動きがあった。
改めてデルコーレとロンゴを調べたところ、二人とも集会に通っていたことが判明。
そこで2年生たちがザワっとした。
新年会の話が始まり、なんで、その話を?と思っていたんだろう。
ふたりは集会について口を割らなかった。
自分の犯した罪も認めようとしなかった。けれど罪は罪。
デルコーレは第二王子婚約者の傷害未遂で修道院に入り、成人したら強制労働所行きとなる。彼女は自分の処罰がわかったとき、うなだれることもなく、世界は後少しでいったん終わる。徳を積んだ自分は新しい世界で優遇されるからと言った。
ロンゴは規律違反があったため、騎士の位を剥奪。強制労働半年の後、王都より追放。養子だったため、その縁組も解かれた。
ロンゴは2年前の謀反事件でザクセン男爵から平民に落ちた、パーラ・ザクセン令嬢だった。そして悪いのはリディア嬢だと言った。たくさんの人を平民おちさせたから。
セローリア令嬢への強襲はデルコーレひとりで企てたこと、ロンゴはリディア嬢を陥れるために、突発的に協力したと思われる。
この二人の調書から垣間見える集会では……
・世界は後少しで一旦終わる
・世界はその後に復活する
・徳を積むと新しい世界で優遇される
・徳を積むとは、リディア・シュタインの悪事を晒すこと
それらがわかったのは年が明けてすぐのこと、第三王子から報告のあった生徒会への生徒からの報告はその後のこと。
シュタイン嬢が巻き添えを食いそうになったことを耳にして、バッカスから狙われていたことも知っていた生徒が、その思想にリディア・シュタインを悪くいうのを聞き、バッカスのことも思い出して生徒会へと話した。