第1022話 省みる試験の始まり①誓約書or同意書
びっくりするぐらい質問の嵐となる。
すげーなみんな、話があってすぐになんで質問することが出てくるの?
っていうか、わたしなんて事前にロサから聞いていたんだけど、質問なんて浮かばないよ。
溌剌と質問しているのは主にバンプー殿下のお友達。
食事の時もほぼ友達同士では話していなかったのに、質問は山ほどだ。
なぜかわからないけど、第四夫人がめちゃくちゃ笑顔。なんか怖い。
危険思想団体のことはどれだけわかっているのか。
ーー参加者の同意が得られてから、現時点でわかっていることを王子から報告させる。
権限は持てるのか。
ーー王子たちに〝任せる〟ことになる。
報告書は誰が見るのか。
ーー陛下と宰相のみ。
守秘の有無。
ーー王子たちから話させる。
同意しないとどうなるのか。
ーー強制はしない。そのかわりこんな話があった件を黙っている誓約書にサインをもらう。
参加者、選別の基準。
ーーそれぞれの王子たちから親しい者、この件にすでにかかわっている者からの選別。
学園を休むことになるのか。
ーー基本、学業優先だが、そのあたりは王子たちと決めていくように。
途中で辞めたくなったら?
ーーこのことを一切口外しない誓約書にサインすれば自由。
第二王子と第三王子の協力者の人数にひらきがあるが、この意図は?
ーー協力者として選出しているが、全ては民に危険思想による被害を出さないためのチームとして選出している。
最初は危険思想団体について、いつどこで誰がそう感じるもので、どれくらいの規模でという細々した質問が出たけれど、後に説明すると言われ、それ系の質問は落ち着いた。
今度は自分たちはどの位置かを確かめるもので、2年生からそういった質問が次々と出るのはさすが貴族としかいえない。
揶揄ってないよ。小さいうちから立場を弁えるってすごいなと本気で感動したのだ。
5、4、3年生からはひとつも質問が出なかったのでは?
挙がる手が落ち着くと、陛下が一度だけ聞くと言った。
「では参加するか、不参加か決めよ。参加する気のないものには、黙っている誓約書にサインをもらうがそれだけだ。これからの人生でこの不参加のことで余が何を思うこともない」
陛下は感知しないってところよね。ただそれは陛下だけ。陛下がそう仰っている記憶とともに、今いる人たちから何かしらの評価はされるだろう。
貴族だもの、それも当たり前なのかしら。
「参加する気のないもの、挙手を」
おう、ふたり。バンプー殿下枠で顔色を悪くしている。
前に招かれて、陛下が誓約書を見せた。読んでサインをと。
顔色は悪いし震えている。2年生だと無理もないというか気の毒だ。
サインを入れた誓約書に陛下もサインして、青い光が一瞬跳ねた。
横から見ていると、青いイルカが書面の海の魔法陣から跳ね上がったイルカのように見えた。へー、誓約書の魔法って角度が違うとこんなふうに見えるんだ。
サインが終わると引き連れられてコンサバトリーから出て行き、馬車に乗せられたんじゃないかと思う。
残ったわたしたちは王子殿下たちから同意書が配られた。
目を走らせ、しっかり読んで、そしてサインする。その用紙は集められ、ロサたちがチェックしている。それを整えて陛下に渡している。
陛下は頷いた。
「同意を得たところで、試験を始める。全てが終わった時に、報告書を提出のこと。途中で抜ける、それも構わない。口外無用の誓約のため王子に伝え、誓約書を交わすように。では、まず現時点でわかっていることを、王子たち、それぞれから報告しなさい」
おお、いきなり始まるのだね。
先にバンプー殿下から報告が行われるようだ。
バンプーさまは今までにあった集会で、確認が取れたものの詳細を話された。
大体30人〜50人の規模だった。思っていたのより人数が多くて驚いた。
細かいことまでわかっているのはリュク・オードラン先輩が話してくれた、あの集会で得た情報のようだ。ロサ、生徒会で得た情報をバンプーさまに譲ったんだ。
・一回の集まりで30人〜50人集まる
・白い布を被る
・通う回数で位が上がる
・位は色で表し、黒から始まり明るい色になっていく
・15回以上通うと公けの場で罪を告白する機会を得られる
・グレーン酒がふるまわれ、それを飲むと考えることが難しくなる(推測)
・青以上の位につくと、世界が制裁を受け終焉を迎えても、新たな世界で生きる権利を得られる
・世界はもう少しで終焉を迎えると思われている
・人は罪深いので、罪を清算しないと新しい世界で生きていけない
・皆の前で罪を告白することが、罪を清算することになる
・世界を終焉に追い込むほど制裁を受けることになった原因は、リディア・シュタイン嬢である
・リディア嬢に罪を認めさせれば、新しい世界でその徳を認められる
これは親族の付き添いで集会に出席した学園の生徒が、リディア嬢を心配して生徒会に相談してきたことだとバンプーさまは明かした。
そしてその時にマシュー教諭を見たそうで、それからマシュー先生の動向を探っていた。探るようになってから、先生は一度だけ集会に参加した。繋がっている人がいれば知りたかったので泳がせていた。慎重に見ていたけれど、個人で集会に参加していたようだ。それで理事長から、〝教諭〟という立場で怪しげな集会に通っていないか?と問いただしてもらったそうだ。
もしマシュー先生が主催者と懇意にしていたら、こちらが調べようとしていることがわかり隠れられてしまったらと思ったから。
マシュー先生はその集会が何やら掴んでいるのか調べていただけだという。
教鞭はしっかりと取っているのだから、プライベートのことまで言われる筋合いはないと言い切ったとか。
その集会をどうやって知ったかという質問には、休息日に市へ行った時に、チラシをもらった。世界は終焉を迎えようとしている。けれど罪深きことを省みれば新たな世界で生きていける。それを伝えるための集会のようで、参加者にはグレーン酒をふるまうとあった。
マシュー先生は思想については本気にしなかった。ただ戦争が始まる前にはそういった思想が入り乱れ、結局お金の力でなんとかなるものだと流れ、そういった詐欺が行われることがあることは聞いたことがあった。
だからどちらかと言えば、ユオブリアが戦争を起こすのか? まさか。とそう思った。グレーン酒がふるまわれるのなら、もう少し聞いてもいいかなと思って参加してみたそうだ。