第1021話 コリン殿下のお茶会⑦お披露目終わり?
そんな時、陛下が声をあげた。
「学園から来た者たちは昼を抜かせてしまったな。食事を用意させたからこちらに」
なるほど、そうやってお茶会から目的である王位継承者の試験に持ち込むわけね。
夫人たちに軽く会釈をし、アガサさまにも挨拶をして、移動開始だ。
ご飯が食べられるのは嬉しい。
それにしてもロサって試験何度目よ。幼い頃から資格があるかを問われてきて、謀反事件の時もだし、今も。それに勝って王太子になるわけでもなく、自分を省みるためだの。陛下なりに子供たちを守るための何かなんだろうけど。
……陛下は何から子供たちを守っているんだろう? 臣下だったり、外国からの何かだったりするのかな? 一回のことで全ての人から認めさせるのは難しい。だから角度を変えて試験をするのもわかるんだけど。
あ。兄弟同士の諍いをなくすためでもあるのかな。決定権は自分にあり、翻弄しているのも王である自分。兄弟ではなく自分が矛先になる……。
わたしはそんなことを思いながら、陛下を盗み見た。コリン殿下と何か話をしていた。
わたしたち制服組は入ってきた扉とは違うドアに案内される。お城の中への通路に繋がっていた。通された部屋は大きな広間に、長いテーブル。
あれ、本当に制服の子たちばかりだ。
兄さまとエリンとノエルがいない。
わたしはアダムとアラ兄の間の席についた。
サラダとパンとスープとお肉。スタンダードなランチ。
近くの人と軽く話をしながらお昼をいただく。
「シュタイン領で新たな事業を?」
聞こえたんだろう、アダムに尋ねられた。
「うーうん、業務提携している村の新事業ってとこかな」
「え? 君のとこの事業じゃないのに……だって全部お膳立てしてるんだろ?」
そんな不思議なことではないと思うんだけど。
「いやだって、あの布は欲しいもの。廃れられると困るの。だから軌道にのせるのにもちろん協力するよ」
「へー、リディア嬢のそういうところが、より人との絆を深めるんだね」
向かいのダニエルが大きく頷く。
え、わたしは利益を追求してるから人との絆って、ものすごくよく捉えられている。
「よく捉えられると、罪悪感が出てくるからやめて」
本心をいえば、周りの生徒会メンバーたちがケラケラ笑った。
ロサ枠の子供たちは仲良く談笑しながら食事をいただいている。
女子チームもアイリス嬢がおかしなことを言って、アイボリーさまが突っ込みながらも会話が弾んでいるようだ。
けれど、バンプー殿下枠のテーブルは、みんな黙々と食事を取っている。なんだかんだいってうちらは何度も王宮に来ているけれど、2年生の子たちは違うだろうから緊張しているのかな、と思った。
食事が終わると移動を促される。この場で説明されると思ったので気が抜けた。ただ腹ペコ少年少女にご飯をくれただけなのか?
来た通路を戻り、コンサバトリーへと導かれる。
反対側のドアのところに3夫人、そして陛下とコリン殿下にアガサさまと王族アーチの中をコリン殿下のお友達が一人ひとり帰っていくところだった。兄さま、エリン、ノエルはまだ残っていて……。
扉からでた子供たちをすかさず馬車に乗せて家に送り届けるようだ。残っているものを見せないようにするガッツが感じられる。
知らないお嬢さまたちも見送られ、ここからは制服組のお帰りラッシュかなと思わせて、扉は閉まる。
どうやらここで試験の話がされるらしい。
コリン殿下と陛下が何やら話され、そしてアガサさまも陛下と話され、陛下は静かに頷いた。
コリン殿下、アガサ王女、そして夫人たちはお茶会の終わりとともに出ていかれるのかと思いきや、皆さま残られるようだ。
陛下たちは主催者側の元々の席にお付きになった。
わたしたちは促されて、近くの席に腰掛ける。
陛下が合図をすると、メイドや侍従たちが下がっていった。
ひとりの執事を残して。
「さて。次代を担う、紳士淑女よ」
陛下がわたしたちに呼びかける。
ゴクリと誰かの唾を飲み込む音がする。
「現在、我がユオブリアで怪しげな思想集団がはびこっている。思想を持つのは自由だが、誰かに害を及ぼしたり、危険な思想だと話は違ってくる。そしてその団体の思想は危険だと余と国が判断をした。
ただまだわかっていないことが多いのも事実。
そこで第二王子・ブレドと第三王子・バンプーに、思想団体の究明を課することにした。次代を担う君たちには、それを手伝い協力し、見定める目となって欲しい。ここまでで、何か質問はあるか?」
手があがった。バンプーさまの友達だ。陛下が促す。
「見定めるとは、王太子にどちらの殿下が相応しいかを私たちが決めるということでしょうか?」
わーぉ、直球。
「皆に見定めてほしいのは、思想団体の思惑、それに対する王太子候補たちの考え、行動。片がついた時に皆から報告書をあげてもらう。
ちらほら知っている者もいるようだから伝えよう。
これは王太子候補たちの〝自分の力を省みるための試験〟である」
バンプー殿下枠の子が手をあげた。陛下が促す。
「自分の力を省みるとは、王太子を決めるとは違うってことですか?」
陛下は頷いた。
「そうだ。余はこの件で王太子候補の資格がふたりに備わっているかを判別する。報告書もまた然りだ。ただその結果がどちらを選ぶということと同じではない」
そして陛下はわたしたちになんでもいい、質問を許すと言われた。どうもこの件にかかわることに同意書にサインを書かされ、報告書の提出が義務付けられるそうだ。褒美は個々に後日陛下から直接贈られるとある。わたしは恐ろしくて鳥肌が立った。なんか取り込まれている気がする。けど今更だ。
このコンサバトリーに招かれた時から全ては決まっていた。