第1018話 コリン殿下のお茶会④顔合わせ
ロビ兄には、学園祭を見に行ったそうで、演目が凄かったと目をキラキラさせて語った。
アラ兄には、アラ兄発案の魔具を買ったりもしているようで、魔具のことでこれからもお話がしたいと話した。
次はわたしの番だ。といっても、わたしはご挨拶程度なら何度か話したことがある。
「ユオブリアの小さき太陽にご挨拶申しあげます」
「ご無事に帰ってこられて何よりです」
!
「ありがとうございます」
慈しみ深い笑み。老成された感じだ。12歳のはずだけど。
「アガサにもよくしてくださってありがとう。これからも妹と仲良くしてやってください」
と小さい声で告げた。
「光栄です」
エリンとノエルもご挨拶。エトワール将軍とノエル将軍にぜひ会いたかったと言われ、鼻がヒクヒクしている。すごい、ウチの双子を手懐けている、初対面なのに!
バンプー殿下のお友達との顔合わせになり。やっとコリン殿下のお友達との対面になったけれど、殿下ははしゃぐこともなく、わたしたちとの対応と同じ感じで相手を喜ばせながら挨拶をしていった。
「リディア姉さま」
声をかけられて振り向けば、アガサさまと第三夫人だ。
「リディア嬢、お久しぶりですね。ご無事で何よりです」
「ユオブリアの陽に照らされし月の君にご挨拶申しあげます」
わたしは夫人にご挨拶させていただく。
「コリンのことだけでなく、アガサに素敵なものを貸していただいて、ありがとう」
すっごい微笑まれているけど、わたしは慌てた。
やっぱり格下が貸すってマズかったか。
「もったいないお言葉でございます。出過ぎたことを致しました」
「まぁ、とんでもない。言葉通りの意味でしてよ。アガサは振る舞いを身につけましたが、本来の引っ込み思案な性格から表に立つのが苦手ですの。それがリディアさまにお借りしたものがあると心強くいられると、この通り堂々としておりますわ」
夫人は嬉しそうにアガサさまの頭を撫でた。
「娘から聞いたのですが、優美なのに華奢。そして控え目ながらも輝きは一級品。ライラック家のデザインにウッド家が素材を調達されたものなんですの?」
「ライラック家? ウッド家?」
聞こえたのか知らないご令嬢3人組が声をあげた。
耳でそれを拾った少女たちが惹きつけられるように集まってくる。
「あ、そうです。母の母の実家と、父の母の実家ですので、みんなが考えてくれて」
あはは。
「素敵なネックレス……」
うっとりとした声があがってる。
「羨ましいですわ。特にライラック家のレースや刺繍は本当に見事で何時間でも見ていられます。子供心にあのレースや刺繍のドレスを纏いたいと思っていました。評判がよくて予約待ちが常になってしまってから、紹介制になってしまって、とても残念でしたわ」
「……柄織をご存知ですか?」
急に話題を変えたように思えただろうけど、第三夫人は答えてくれる。
「柄織ですか? ええ、無地ではない多様な物が売られるようになったんですのよね。商会の方に持ってきて欲しいと頼んだのですが、まだ実物を見られていないのです」
コホン。わたしは喉を整える。
そして持ち込みを許されたポシェットから一枚の布を出す。
「まぁ、これはどんどん色が変わっている布ですわね。縫い目がない?」
さすが第三夫人。布をつなぎ合わせていないけれどグラデーションががっていることに気づいた。
「柄織はこういうこともできるんです。今、お試しで柄織の布からドレスを作ってみようと予約を取ってまして。このドレスにはライラック家のものとは違いますが、刺繍とレースをふんだんにつけたドレスとなるのです」
ウチの商会は女性や成人してない子もできる仕事がある方だと思うけど、世間的には力仕事がまだまだ多く、支援団体の子供たちに任せられる仕事の間口はどうしても狭くなる。
けれど柄織だったり、刺繍だったり、ドレスの裁縫などはそんな子たちにピッタリだ。山崩れの後にお世話になった村、布も売れるようになってきたので、その一歩先の話を持ち込んだ。
それがその柄織布で作る服やドレスだ。
同時期にライラックのおばあさまとひいおばあさまに、刺繍とレース編みの図案の相談をしにいった。わたしは不器用なので、図柄は思いつくけれど、実際にやるのは難しい。それで図柄を記号を使った図案にしてもらえないかと思ったんだ。こちらには図案の記号書がないので、基本的な編み方の記号を書いたものと、その通りに編んだものを持ってきた。編んだ実物と図案を見せるとふたりはすぐに記号を理解した。
そして描いてきた図案を記号におこしてもらうことは可能かを尋ねた。もちろん報酬は支払うと。ふたりはそれをレースで編んで欲しいのとは違うのかとちょっとがっかりしてらした。
けれどわたしの意図は伝わっている。わたしの絵柄は四次元だ。つまりいくら曲線であったとしても例えば大きな花と小さな花を合わせているのにそれが6つの鎖編みスペースに収まるわけはないのだ。けれど編み物のスペシャリストであるおばあさまたちなら、四次元を現実に引き落としつつ、奇数と偶数の編み目の厄介なところもクリアして、誰もが記号を覚えれば編める図案に落とし込んでくれると思ったのだ。報酬はもちろんそれこみで考えている。
おばあさまたちはクスッと笑われる。孫に頼られるのは悪くないものだと。
そして報酬は自分たちで決めたいと言われた。
おばあさまはわたしの小物入れを指さした。その刺繍は何?と。
布製の小物入れはわたしが作ったものだ。
はた織りの村でヌガーっていうちょっと硬めの糸で特別な織り方をしてもらった。だから値段はちょっと高め。
というのも、母さまはわたしに刺繍を嗜ませたいみたいで、ライラック家の血をひいているのだからと課題を出してくる。わたしは何かこしらえるのは好きだけど、やっぱり不器用で見るに耐えるものに仕上がらないのよね。