第1017話 コリン殿下のお茶会③シャーベット
「ご機嫌よう。楽にしてください」
人当たりは悪くないよね、バンプーさま。
「ユオブリアの小さき太陽にご挨拶申し上げます」
「バイエルン侯爵、やっとお会いできました。嬉しいです」
無邪気そうな声をあげた殿下に、兄さまは礼で応えた。
「ユオブリアの小さき太陽にご挨拶申し上げます」
「ユオブリアの小さき太陽にご挨拶申し上げます」
立て続けにアラ兄とロビ兄が挨拶を述べる。
「先輩たちと城で会うと変な感じがしますね」
「ユオブリアの小さき太陽にご挨拶申し上げます」
わたしの番となったのでカーテシー。
「姉ぎみはアガサとも親しいのですね」
姉じゃねーと言ってしまいたかったけれど、ここでわたしが熱くなるとエリンもヒートアップするのがわかるので我慢だ。
「初めまして、婚約者どの」
「初めまして、第三王子のバンプーさま。お断りしましたので、あたしは婚約者じゃありません」
近衛兵の一番前の人が手を置いた柄を、より強く握るのが見えた。
「それに関しては後日話させてくれ。今日はコリンのお披露目だから」
へー、わきまえているね。それに弟のことも妹のことも目をかけているようだ。
エリンが何かをいう前に、立ち去っていった。
おお、近衛兵先頭集団に睨まれたぞ。
お茶会にもいろいろな形がある。主催者の権限で何もかも違ってくる。
ほとんどのお茶会は主催者本人か、主催者の女主人が手掛けることになる。
王宮のお茶会はロサの婚約者候補の顔合わせのものにしか行ったことがない。場所も王宮じゃなかったし、あの日は……とんでもないことになったから、終わりの方も見ていない。
お披露目だからなのか、第三夫人が主催というわけでなく、王宮が取り仕切っているみたいだ。黒子に徹しているのは王宮の上級執事とメイドさんたちだ。
みんなが席についていくので、間も無く始まるのだろう。
わたしたちも席に案内された。
シュタイン家と兄さまでひとテーブルだ。その隣は生徒会男子メンバーとアダム。
もうひとつにアイボリーさま、マーヤさま、リノさまとアイリス嬢、あと知らないお嬢さまが3人。バンプー殿下よりずっと年上に見えるけれど、お友達かしら?
それからバンプー殿下の同級生だと思えるテーブルが2つ。
コリン殿下のお友達と思えるのが1テーブルだ。
なんとはなしに観察していると、テーブルを優雅に回っているメイドさんにお茶を聞かれて、ハーブティーを頼んでみた。
「ご歓談中失礼いたします。陛下、第三夫人、コリン殿下のご入場です」
披露宴チックだなと思ってしまった。
みんな立ち上がり礼をとる。
最初に入ってきたのは陛下だ。その次が第三夫人。それに続くのが、コリン殿下。正装している。ちょっと緊張していらっしゃるのが、アガサさまをテーブルに見つけて笑顔になった。
陛下と夫人は正装ではなかった。慶事の華やかな服装ではあるけどね。
陛下は席にいき立ったまま、楽にしてくれと言った。
「今日は第四王子のために集まってくれてありがとう。ユオブリアを担っていく小さな紳士と淑女よ、我が王子を覚え、仲良くしてやってくれ」
夫人は手を胸に当て、軽く目を瞑る。
陛下はコリン殿下の肩に優しく手を置いた。
「コリン・リンゼイ・フウ・ケ・ユオブリアだ。来年からフォルガードに留学が決まっている。他国で学び、それをユオブリアで生かせられるよう、励もうと思う。こちらにもまだまだいるから、よろしく頼む」
と片手を胸に置き礼をとった。さすがロサたちの弟。キラキラだね。
パチパチと拍手がおき、わたしも拍手した。
整った顔をしてる。陛下、ロサ、バンプー殿下。見事に自ら輝くような金髪。確かに陛下たちより茶色がかった金髪だ。
メイドさんたちがくるくると動きまわり、オーダーどおりのお茶とお菓子を運んでくれた。少しすると、氷が配られる。食用のお花を閉じ込めたシャーベットで、見た目から楽しめる。
合図が、あった。ロサの友だちから、コリン殿下に挨拶できるようだ。
最初はアイリス嬢。リノさまがサポートだ。リノさまはコリン殿下と交流があっただろうからね。アイボリーさま、マーヤさま。ふたりとも知り合いみたいだ。テーブルが同じだった3人の令嬢は、王位継承権を持つどこぞの公爵家の方たちみたいだ。夫人も丁寧に挨拶を交わしている。生徒会男子グループとアダム。生徒会メンバーとはやはり顔馴染みなようだ。幼い頃からロサとの交流でお城に来ていただろうしね。アダムが挨拶をするとき、少し複雑な表情をしていらした。バンプーさまは今学園でアダムに会っても普通だけど、やはり自分の実の兄の〝影〟がいたこと。そして自分が兄と慕っていたのが恐らくその影だったと気づいて今のコリンさまみたいに複雑な顔をしていた。
ロサ枠なので、わたしたちもご挨拶だ。
まず、兄さまが。土地活用、それから魔力の属性遺伝についての論文を読みました。属性遺伝についてはとだだーっと感動したところを述べて、書かれたご本人にお会いできて嬉しいと結んだ。
土地活用の論文読んだんだ……。わたしも謀反事件の後に読んだけど。なんていうか、へーそうなんだーって、思ったけど、それがどれくらい凄いことで、それをどうしていくのがいいことなのか。さっぱりわからなかった。
こういう活用法もできるのかもしれないねとは読めたけど、他国との比較がどの部分だとか、これを読んで何を思いつけるの?というところが全くわからなかった。なので、読んだこと自体を特に伝えていない。
魔力の属性遺伝の論文は最初の3ページで眠れる……。
兄さまの言い回しって、美しい表現なんだけど、読み解くのにすっごく頭を使うのよ。それでよくわからないうちに眠くなる。
あの言い回しを読み解いているうえに、意見もできるなんて、コリン殿下、できる人ねっ!