第1011話 分担?
昨日クラリベルを見送った後「ベアとクイはどうしちゃったの?」と部屋を出ていったふたりのことを、慌てて尋ねたわたしにアリが言った。
『話、聞いてたよ』
「おいらたちも動くでちよ」
アリとアオが胸を張る。ベアとクイはクラリベルを見守る。レオとアオは明日からリノさまにつくという。
リノさまは今のところお城にいくことが多いと思うよ、と言えば、リノさまの家にいてもいいし、いつもより小さくなればお城でも感知に引っかからないから大丈夫とのことだ。
アリがみんなの連絡係になるという。
みんないつの間にそんな相談を……とわたしは驚いた。
わたしが「でも」と渋ろうとすると、もふさまが笑う。
わたしが動くより、もふもふ軍団に任せた方が心配はないと。
みんなわたしより素早いから見つかることはないし、万が一何かあっても強いから問題ないというのだ。
まぁ、みんなの方がわたしより素早くて強いのは認めるけどさ。
でもヴェルナーの映像を見ていたとき、みんながビクついていたのを思い出す。あの雰囲気だけでもおどろおどろしかったしね。
ヴェルナーと実際会っていたとき、あの部屋は録画されていたから、もふもふ軍団には出てきちゃダメだと注意しておいたんだけど、よく出てこなかったなーと言ったら、あの時リュックの中でも大変だったんだという。
ヴェルナーが呪文を繰り返した後、ピンポン玉の中に入った精霊が膜の中で体を縮こめて怖がっているようだったと。それなのに動くからリュックの中で玉が転がって大変だったんだって。
外が鎮まりかえった時、精霊も気を失ったようになり、静かになったと。
精霊には1日に1回光魔法をかけ、そして話かけているけれど、今まで答えがあったことはない。空な目で玉の中で丸まっているだけだった。
そんな子がヤツに怯えていた。それが何かを知る材料にならないかといろいろ考えてみたけれど、時間がすぎただけで何も思い浮かばなかった。
そしたら明け方で、慌てて眠ろうとしたんだ。
みんなにもそのことを話すと、精霊の球を出してみてくれないかと言われて、アリに出してきてもらう。
精霊は球の中で体を丸め、たゆられているように見える。
なんとなく聖樹さまが注視しているような気がした。
「凄いな」
精霊が? 起きているけど聞こえないフリしてるのが?
見上げると、ダニエルはつけたした。
「いや、リディア嬢のところには聖獣、神獣、魔物、精霊が集まっていると思うと」
「ほんとだな。精霊と話すことができたら〝コンプリート〟だったのにな!」
ブライがにかっと笑った。
あはは。確かに!
「あ、話逸らしちゃったね。クラリベルにはレオとアオがついていて、今日消灯後に彼女がわたしの部屋に来ることになっているから、そこでこれからのことを話したい。ぜひ、知恵を貸して」
アダムがロサを窺う。
「ブレドの婚約者との件もあるんだよな。分担するか?」
「リノ・セローリア嬢に何か?」
イザークは驚いたみたいだ。
「リノさまはロサには自分で話すって。聞いてるよね?」
一応確認すると、ロサは頷く。
「リノさまからみんなに話す許可はもらっているわ。どうも、リノさまを孤立させつつ、わたしを叩こうとしている動きがあってね」
「増殖」
ロビ兄が端的に言い当てる。
本当にそうだよね。宗教派といい、リノさま方面から来る人たちといい。なんて、出どころ同じなら笑うけど。
いや、笑ごとじゃないんだけど。
「リノさまの親しい人を使ってささやき続けてきたみたい。バンプー殿下の婚約者候補にエリンがあがっていて、ウチは断った。それがね、姉妹喧嘩をしないためなんですって」
「姉妹喧嘩?」
ルシオが首を傾げる。
そうよね、それが正しい反応だと思う!
「わたしがロサの側室を狙っているから、第三王子殿下の婚約者になると、第二王子殿下と第三王子殿下の側室と妃とでバトルになるって」
「はぁ?」
イザークが素っ頓狂な声を上げてくれたので、わたしは満足した。
「そうならないためにウチは、エリンをバンプー殿下の婚約者にしないんですって」
「それまたなかなか趣向を凝らした言いがかりだな!」
なんかブライ笑ってる。
「問題は、それをあっさり公爵さまが現実視していて、ウチを敵視しだしているみたいなの。それでリノさまが心を痛めていらして……」
「リーを絡めてくるあたり、宗教と同じだな」
「うん。短期間で噂が回ったこと。疑問を抱かずにそれを信じさせるのも、同じような感じがするよね。実際はわからないけど。だからね、それを知るために、わたしたち敵が思い描いているように喧嘩することにしたの」
「け、喧嘩って」
「リノさまは噂が本当になりそうだって怯えて、周りを観察してもらう。わたしの方は……特に何もしなくてもあちらから来てくれるでしょう。わたしにおっかぶせたくてしょうがないみたいだから」
「……それが見習いの神さまなのかな」
ロビ兄がボソッと呟く。
「見習い神さまは本式の神さまに封印されたはず。それが解けるようなことはないとも思えるんだけど。でも、人に憑依できる能力を持った〝何か〟ではあるでしょうね。誰かの器を使っているから、これくらいのことで済んでいるのなら、〝合う器〟をみつける前に片をつけたいわ」
「そうだな。素早く一気に片をつけたいところに申し訳ないが、もうひとつ、厄介ごとが舞い込む」
ロサが珍しくため息をついた。
「陛下か?」
アダムが鋭く尋ねた。
ロサは曖昧に何度か頷く。
「第四夫人がバンプーに婚約者をつけてくれないのは圧倒的に不利だと騒……抗議があってな」
ああ、王位を継承するのに婚約者の有無は重視されるところって言ってたもんね。
「それで王位を継承したいものを名乗りをあげさせ、結局、私とバンプーだった。
結果、自分の力を省みるための試験が行われることになった」
「王位継承者を決める試験ではないのか?」
「ああ、陛下は自分の力を省みるための試験とおっしゃった」
アダムが考えだす。
「それじゃあロサ殿下はそちらに集中ってことですね?」
アラ兄が確認するように尋ねた。