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プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
18章 権威に群がる者たちの輪舞曲
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第1002話 ヴェルナーの持ち情報④すり替える

「まずはやり込めたくて、あなたの一番傷つく言葉を検討したんだと思います」


 わたしは淡々と話す。


「負けが見えてもあなたは引かなかった。そこで引けばそれ以上の被害が出なかったのに。引けないのは負けを認められないから。負ける自分を許せないから。

負けたとしても、未来は何かに続きます。違う未来を許せれば、そんな自分を許してあげられれば、あなたの未来は違っていた。

 わたしはそう言いたかったのではないかと推測します」


 憐むを〝負ける〟にすり替えた。

 彼にとってあわれまれるのは、何よりも禁忌なことのようだから。


「ふぅん、そぉかい。

 じゃあ、あんたも気をつけるんだな」


 気をつける? わたしが?


「あんたも負ける自分が許せないだろ? あんたも決して引かない。負けを認めない。だからあんたは突っ走る」


「……わたしは負けることも多々あると思いますが?」


「わかってないからタチが悪い。記憶が戻ったら、まずそこを悔め。あんたは突っ走りすぎた。私の人生をぐちゃぐちゃにしておいて、自分は涼しい顔だ」


「あなたの人生がぐちゃぐちゃになったのなら、もしきっかけがわたしだとしても、実際そうしたのはあなたご自身でしょう?」


 ヴェルナーは一瞬詰まる。


「あんたにとってはそうだろう。けどなー、お前とかかわらなければこんなことにはならなかった!」


「わたしとかかわってきたのは、そちらじゃありませんの?」


 わたしはヴェルナーのことなんか知らなかった。そっちが勝手にかかわってきて、それを……。


「あんたにかかわったばっかりに、私は目をつけられたんだ!」


 椅子に縛りつけられているのに、立ち上がろうとしたのか、後ろの騎士が椅子を押さえつける。


「誰に目をつけられたんです?」


 兄さまが冷静に問いかける。

 答えようとしたヴェルナーが急にもがき苦しんだ。

 大きく肩で息をする。そして思い当たったように、苦しみながらも笑おうとする。


「そういうことか!」


 ど、どういうこと?


「私はお前に人生を無茶苦茶にされた。お前を絶対許さないが、記憶のないお前の答えだけは気に入った。要するにお前は私に恐怖したのだな」


 は?


「だから私に打撃を与えようとポーズをとったのだ」


 違うが、そう思い込ませた方がいいし、訂正してギャンギャン吠えられるのも面倒なのでそのままにした。


「気に入ったから、お前の壊したものを教えてやる」


 苦しみながらもにやら〜と笑う。

 一瞬わたしは恐怖した。

 腰がひけて、背もたれに背中が当たる。


「いいから、組織をどうやって知ったか、それを言え。そのためにお前の望む通り、シュタイン嬢を連れてきたんだ」


 バンパーさんが大声を出す。


「お前が悪いんだ、リディア・シュタイン。お前が壊した。お前が一番大切なものを壊した。お前がめちゃくちゃにした。お前が悪い。お前が悪だ。お前が悪い。お前のせいだ。お前が悪い。お前が悪だ。お前が悪い」


 呪詛みたいに繰り返し呟く。視線はわたしにまっすぐに。


「おい、やめろ」


「やめろ!」


 バンパーさんに促され、後ろの騎士が怒鳴ったけど、ヴェルナーはやめなかった。

 ブツブツと繰り返す。視線はわたしに合わせたままで。


「お前が悪い。お前が悪だ。お前が悪い。お前が悪だ。お前が悪い。お前が悪だ。お前が悪い。お前が悪だ。お前が悪い。お前が悪だ。お前が悪い。お前が悪だ。お前が悪い。お前が悪だ。お前が悪い。お前が悪だ。お前が悪い。お前が悪だ。お前が悪い。お前が悪だ。お前が悪い。お前が悪だ。お前が悪い。お前が悪だ。お前が悪い。お前が悪だ。お前が悪い。お前が悪だ。お前が悪い。お前が悪だ。お前が悪い。お前が悪だ。お前が悪い。お前が悪だ。お前が悪い。お前が悪だ。お前が悪い。お前が悪だ」


「おい、やめろ!」


 バンパーさんが怒った歩調でヴェルナーに近づいた途端、バンパーさんが吹っ飛んだ。

 後ろの騎士も壁に当たって跳ねた。

 なっ!


 ヴェルナーから白い湯気のようなものがあがっている。

 わたしを見たまま、呪文のようにヴェルナーは「お前が悪い。お前が悪だ」と繰り返している。

 兄さまがわたしを抱え込む。もふさまもわたしの前に立って虎サイズへと大きくなった。

 バンパーさんも騎士も気を失っている。

 瘴気ではない何かがヴェルナーを覆っていた。

 唐突に呪詛のような呟きがやむ。


「この〝気〟はリディア・シュタイン。元凶、だな」


 声はヴェルナーだ。でも、話し方に何か違和感が。それに、目がどこか虚ろで、言ってることもなんだか……。

 ミミの姿をした〝何か〟を思い出していた。でもあの人ともまた違う。

 これはまた別の〝憑依〟?


「ヴェルナーに〝憑依〟しているあなたは誰?」


 尋ねたわたしを驚いて見る、兄さまともふさま。


「……フフフ、知らない祝福を山ほど持つ……なるほど手強いわけだ」


 ぶちぶちぶちと縄がちぎれる。

 ヴェルナーに取り憑いたそいつは軽く手を振る。すると肘より下が落ちた。

 悲鳴を飲み込む。

 兄さまは位置を調整してわたしから〝ヴェルナー〟を見えなくした。


「この器はダメだ。合わない。長くは持たないな。見えないし。まあ、時だけはある。いい器を見つければいい」


 兄さまの背中からこっそり覗き込む。

〝ヴェルナー〟はゆっくり顔をあげる。


「忌々しい。引き戻される。短すぎる。

 この〝気〟はクラウス・バイエルン。もうひとつは聖獣? どちらも手懐けているのか。……リディア・シュタイン、お前が壊してきたように、我もお前の愛するものを壊してやろう」


 少しズレた方向を見てそう言い、いきなりそのまま前に倒れた。物になったみたいに。ひとつも神経が通ってないみたいに。


 わたしは今度こそ悲鳴をあげた。

 外で警備をしていた騎士たちが、バンパーさんに呼びかけてから入ってきた。

 拘束されていたはずのヴェルナーは縄を引きちぎり、けれどうつむけで倒れている。しかも片方の肘から下が、少し離れた場所に落ちている。


 騎士も、バンパーさんも倒れたまま。

 倒れたヴェルナーの前には、虎サイズのもふさま。わたしは兄さまに支えられていた。


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― 新着の感想 ―
リディアの負け云々の話、終焉に抗おうとしてるリディアにも言えそうで自分にも返ってくるんかなぁ… 組織をどうやって知ったか、リディアと関わったせいでバッカスとその背後の上位存在に目をつけられたからっぽ…
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