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プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
3章 弱さと強さと冬ごもり
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第100話 ファーストコンタクト⑪交渉(前編)

「少し話せるか?」


 昼食の後、王子がそう切り出してきた。

 気落ちしたように肩を落としている。いつかは話をつけなくてはならない。だったら先延ばしにするより、とっとと終わらせた方がいい。わたしは頷いた。


 居間にお茶とクッキーを用意してもらった。

 向かい合わせに座る。部屋にはふたりきりだが、みんなメインルームから食い入るように見ていることだろう。


「怖い思いをさせた。すまなかった」


 王子だけど、謝ることができる人なんだね。同じ子供同士でも、ちゃんと5歳児に筋を通してくるところは好感が持てる。


「あの人、勝手したこと。そこは、ロサ悪くない」


 そういうとフッと笑った。


「これからも、そう普通に話してくれ。わざと年相応にしなくていい」


「いつも、普通」


「領地の子から聞いた。ビリーとカールはリディア嬢が賢いことを出さないように言葉を選んでいた。トロットマン伯が君をバカにするようなことを言ったら、君の友達のミニーが激怒した」


 ミニー……。胸がジーンとする。


「歩くのも遅いし、重いものも持てないし、不器用だし、うまくできないと癇癪を起こすけど、君はいろんなことを知っていて、教えてくれるって」


 ………………ミニー。


「毎日がお腹いっぱいで楽しくなったって。冬のことが心配で秋は気が重たくなるのに、リディアが領地に来てから明日は何しようって毎日ワクワクするようになったって。領地の子にそれだけ慕われ愛される、これは上に立つのに相応しい素質だ。私の婚約者なら、歩くのが遅くても、重いものが持てなくても、別に大丈夫だ。うまくいかなくて癇癪を起こすのは直してもらうことになるけれどね」


「わたし、婚約済み」


「わかってると思うけど、そんなのどうとでもできるから」


 そう断言されると、真実味が強くなる。


「貴族、いっぱいいる。候補者も、いっぱい。なのに、なんでわたし?」


「光の使い手の血を引いている。君が光魔法を使えなくても、君の子供は光魔法が使えるかもしれない。だからだ」


 嫌な選び方だ。血筋だと逃れようがない。

 それにしても光属性はそんなに少ないの?


「でもそれだけじゃないよ」


 王子は付け加えた。


「光の属性があるか、光属性の家族がいるか。それが1番の条件で探していたけれど、君を見て決めた。伸び伸びと暮らしていて、いいと思った。誰の顔色を伺うでもなく、気ままに自由にいて、愛情をたっぷり注がれているから、きっと君なら愛情とか、家族のあり方とか、人間的なことを教えてくれると思った。私は国を支える。責務のことは私が教えるから、家族のことについては君から教えてもらえばいいと思ったんだ。

 君が危険な目にあった物盗りが入ったときの調書をみたよ。みんな君が怖がって怯えていたと、そう記されていたけれど、会話をそのまま書き留めた記述を見ればすぐにわかる。君の子供っぽい問いかけや、合いの手でいれる言葉でずいぶん話がわかるようになっていた。

 何から何まで、いつも君が中心だ。だからとても頭がいいんだと思ったよ。それなのに、ここではただの子供のフリがとてもうまかった」


 いい話チックに言ってるけど、そう思ったなら、昨日までに話が出ているはずだ。スルーしていったん出て行ったぐらいなのに、よく後付けでそこまで話が作れるもんだ。

 冷めてやっと飲めるようになったお茶を一口含む。


「調書も、勘で君がいいなと思ったことも、買いかぶったのかと思った。まるで小さい子のように泣きじゃくったり、気ままに振る舞うから。もう少し自我が出てから決めようかと思ったけど、君の屋敷に向かって子供が一生懸命走っていくのを見たときに、確かめたら答えが出る気がしたんだ。君の演技に騙されるところだった。子供たちの話を聞いて、君の印象が間違っていないと思った。だから、婚約者を君に決めた」


 勝手に決められてもね。それに泣いたのも、気ままなのもいつものことだ。演じたのは人形遊びの時だけなのに。


「わたし、婚約してる。ロサの婚約者、無理」


 ロサは含み笑いだ。


「まあ、いい。君を危険な目に合わせるところだったから、今回は私がひこう」


 ロサもお茶を一口飲んだ。わたしは繰り返す。


「わたし、婚約済み」


「おじいさまや母上が君に決めたら、簡単に覆せるよ。一番簡単なのは、婚約者がいなくなることだね」


 !


「おっと、睨むなよ。私が何かするわけではない。おじいさまや母上の考えそうなことを言ったまでだ」


「ごねなよ」


 率直に提案すると、彼はプッと吹き出した。


「私は君が気にいっているんだよ。それなのになんでごねなくちゃいけないのさ……。例えばごねたとして、……ごねて、なんの旨味があるんだ?」


 お、そっちにのってきた。

 なんでごねる必要が?と聞かれると思っていたから〝答え〟を用意していた。でも、そう反応するということは、やっぱりロサもわたしとの婚約はどうでもいいことなんだね。確信を持つ。わたしの予想は大きく外れてはいないだろう。それなら取引ができる。


「どんな旨味なら、ごねる?」


 王子は笑った。愉快そうに。それから挑発的にわたしを見た。


「……そうだな。私が学園に入学するまで6年ある。その前の5年以内に、成果を出さないといけないんだ」


「成果?」


「陛下から課題を出されている。継承者たちと競っているんだ。詳しいことは明かしてはいけないから、省くけど。シュタイン領が発展したら、私の旨味になる。そうしたら、ごねてもいい。母上たちに、君を婚約者にするより、領地を発展させた方がいいと大義名分にもなるしね」


「具体的には?」


「領地の利益を毎年倍以上に」


「無茶苦茶」


「……5年後、栄えている領地として10位までに入ることができたら、ごねてあげてもいいよ」


「横暴。都合よすぎ」


「王族に目をつけられたんだ。それを切り抜けるには無茶しないとならないことぐらい最初からわかっていただろう?」


 一部の隙もない完璧な笑顔だ。


「5年までは待ってあげるよ。おじいさまや母上が、君の婚約者に何かしないように止めよう。時々私はここにやってくる。そして見合った成果を出したら、ごねてあげる。君とだけは婚約したくないって」


 心を鎮めるために、お茶を一口含む。糖分補給にクッキーをひとつ。もう一度お茶を飲んで心を落ち着ける。


 向こうのペースに乗ったら負けだ。たとえこちらが勝負に勝ったとしても、ペースにのせられた感覚はいつまでもつきまとう。身分は圧倒的に向こうが上。権力も何もかも向こうが上。けれど、対等に持ち込まなくてはいけない。同じ土俵でなければ交渉は始まらないのだから。


 何もかも向こうが上だけど、たったひとつわたしの方が勝っていることがある。それは、経験値。新しく生を受け5年しか経っていないけれど、前の生の記憶を引き継いでいる。

 よく女の勘は当たるというけれど、半分正しくて、半分は正しくない。直感、第六感のこともあるけれど、ほとんどは〝違い〟を感じる能力が高いんだと思う。観察力が優れている。なぜなら、生物学的に物理的に弱い構造だから。本能で弱さをカバーするためによく見て記憶しているのだと思っている。その記憶と何かしらの違いがあると、違和感を感じたり、おかしいと思うのだ。警戒するのだ。そうして身を守っているのだ。


 わたしには普通の5歳より記憶していることが多い。王子と少しの間過ごしていて違和感がいくつかあった。

 その違和感を突き詰めて考えると、涼しげな顔をしているけれど、彼は熱いタイプの人間だ。そう感じるのに、さらりとした無気力気味で、〝言われたことをやっている〟お子様の態度を取られると、わたしはざわりとする。そうして導き出した結論は……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「おじいさまや母上が君に決めたら、簡単に覆せるよ。一番簡単なのは、婚約者がいなくなることだね」 一番簡単なのは、王子が死んでくれること、と言いたいね。
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