和蝋燭
夜遅くまで
内職をする母
手縫いのポーチ
縫い目が細かく
目立たぬようにと
手間暇をかけて縫っていく
手間をかけても
1つでいくら
それならもう少し荒く縫っても
なんならミシンで縫ったとしても
いいんじゃないの?
そう思う
「長く使ってもらえるように」
私の疑問に母が答える
費用対効果なんて言葉をしらない
その頃の私
それでも理屈ではないと
それぐらいなら理解はできた
1つのことを細かく丁寧に
繰り返すことを細かく丁寧に
単純作業のようでいて
同じことは真似できない
1つのことを細かく丁寧に
繰り返すことを細かく丁寧に
積み重ねていく経験だけが
同じものを生み出せる
そうして生み出されたものは
最後の最後まで使えるものだ
どんなものも
どんな生き方も
朝早く起きて
散歩する母
横歩く飼い犬
歩幅は小さく
急がぬようにと
時間をかけて歩いてく
時間をかけても
距離はわずかで
それならもう少し短い距離でも
なんなら誰かに代わってもらっても
いいんじゃないの?
そう思う
「長く一緒に居られるように」
私の疑問に母が答える
健康長寿なんて言葉をしらない
その頃の私
それでも長くいられるのなら、と
それぐらいなら理解はできた
長い時間をかけて少しずつ
様子を見ながら細かく丁寧に
単純作業のようでいて
同じことは真似できない
そこに込める想いがあって
在りたい姿を描いているから
練り上げられた気持ちがあるから
描いたものを生み出せる
そうして生み出されたものは
綺麗に長く生きられるものだ
どんなものも
どんな生き方も
眠るようにして
亡くなった母
手を握る父
揺らめく命の灯は
いつも周りを癒やしてくれて
激しく燃えることもなく
弱々しく消えかけることなく
ただ続いてきた命の灯が
これで終わりと決めたように
ふっとその火を終えていた
まるで和ろうそくのように
私の疑問に母は答えない
母がなんと答えるかしらない
それでも私は
「確かにそうね」と母が笑う、と
きっとそうだと思いたかった
有り難い事に母はまだまだ健康です
そのため、最後の節はフィクションですが
普段の母の生き方を見ていると
多分こう生きていくんだろうなぁ
という気がします