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浦川 日歌里ノジュウニシ【side:H】

和蝋燭

作者: 日浦海里

夜遅くまで

内職をする母


手縫いのポーチ


縫い目が細かく

目立たぬようにと

手間暇をかけて縫っていく


手間をかけても

1つでいくら


それならもう少し荒く縫っても

なんならミシンで縫ったとしても

いいんじゃないの?


そう思う


「長く使ってもらえるように」


私の疑問に母が答える

費用対効果なんて言葉をしらない

その頃の私

それでも理屈ではないと

それぐらいなら理解はできた



1つのことを細かく丁寧に

繰り返すことを細かく丁寧に


単純作業のようでいて

同じことは真似できない


1つのことを細かく丁寧に

繰り返すことを細かく丁寧に


積み重ねていく経験だけが

同じものを生み出せる


そうして生み出されたものは

最後の最後まで使えるものだ


どんなものも

どんな生き方も





朝早く起きて

散歩する母


横歩く飼い犬(ぽち)


歩幅は小さく

急がぬようにと

時間をかけて歩いてく


時間をかけても

距離はわずかで


それならもう少し短い距離でも

なんなら誰かに代わってもらっても

いいんじゃないの?


そう思う


「長く一緒に居られるように」


私の疑問に母が答える

健康長寿なんて言葉をしらない

その頃の私

それでも長くいられるのなら、と

それぐらいなら理解はできた



長い時間をかけて少しずつ

様子を見ながら細かく丁寧に


単純作業のようでいて

同じことは真似できない


そこに込める想いがあって

在りたい姿を描いているから


練り上げられた気持ちがあるから

描いたものを生み出せる


そうして生み出されたものは

綺麗に長く生きられるものだ


どんなものも

どんな生き方も





眠るようにして

亡くなった母


手を握る父


揺らめく命の灯は

いつも周りを癒やしてくれて

激しく燃えることもなく

弱々しく消えかけることなく

ただ続いてきた命の灯が

これで終わりと決めたように

ふっとその火を終えていた


まるで和ろうそくのように


私の疑問に母は答えない

母がなんと答えるかしらない

それでも私は

「確かにそうね」と母が笑う、と

きっとそうだと思いたかった




有り難い事に母はまだまだ健康です

そのため、最後の節はフィクションですが

普段の母の生き方を見ていると

多分こう生きていくんだろうなぁ

という気がします

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― 新着の感想 ―
[良い点]  丁寧な仕事、丁寧な時間の使い方というのは  丁寧な生き方につながっている、  と感じました。  丁寧な、ということは、いろいろな愛情でも   あるのかな? なんて。  日々、雑に生き…
[一言] お母様が元気でいらしてよかったです……。 つい日々の目まぐるしさに追われてしまって、バタバタと駆け抜けてしまうので、丁寧な生き方や暮らしをされている方は憧れです。 和蝋燭というタイトルが本当…
[一言]  うちの母の作業もとても丁寧で。『もっときらくにやれば?』と思ったものでした。  今、母と同じ立場の自分にそれができているのか?  色々便利になった反面、受け継げなかったものがあるのでし…
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