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夢いっぱい  作者: 水戸 夏
1/3

博司編 3部構成の1話目です

夢が無いなんて悲しい事は言わないで下さい。


何かしら夢を持つと希望が沸きませんか?


あっ、僕の名前は「橋口博司」。

ありふれた名前だけど、ありふれた夢を誰よりも強く思っている。


ありふれた僕の夢、それはミュージシャンです。

熊本県人吉市に生まれ、物心付いたときにはギターをオモチャにして育ちました。

親もミュージシャンを目指していたらしいのだが、何故か豆腐を作っています。

そう、音楽は。親の影響。

1曲でいいから世の中に僕の曲を残せたら・・・

それを実現する為に中学から作曲したり、高校時代は熊本のアーケード街で自作の曲を歌って、夢を友達と追いかけ語っていました。

『夢は手元に有る。』って自己満足な毎日を送っていました。

そんな楽しい学生生活も、高校卒業と共に仲間はバラバラになり。

仲間の一人は進学。

仲間の一人は就職。

僕は神奈川県宮前平に有る映像機器の部品メーカーに就職しました。

でも、夢は諦めて無い。

神奈川に就職を決めたのは自分の曲を売り込む為(笑)


想像通り、上手くいくわけがなく、

「悪くはない」とか、

「インパクトが弱い」とか、

結果は決まって同じで、

「また来てね」で終了。


神奈川に来て2ヶ月で自信は潰されました(笑)


現在は、会社の寮(宮前平)に住んでいる。

10月初旬で、半袖に軽い上着をはおりジーンズ姿で溝ノ口の遊歩道で歌っているのが精一杯です。


4月に入社して半年。

夢を追いかけて半年。

結果は何も出ないまま、ただ歌う場所が熊本から神奈川に変わっただけ。

いや、

仲間は一人出来たんだった。

鈴木祥子、一応女子。

男らしい女子、強い、頼りになる?

可愛いい女子。

容姿は凄く可愛く見えるけど、中身は・・・

会社の一つ先輩で、新人歓迎会で知り合いました。

鷺沼に住んでて、今歌っているこの場所も、祥子さんに教えてもらいました。

そう、二人でよく歌うんです。


でも、祥子さんは俺より男の子・・・性格がね。

見た目は可愛けど、性格が凄く残念な人です。

祥子さんには二つ年下の弟、鈴木裕太君が居ます。

何度か会ってますが、祥子さんの奴隷にしか思えません。

僕も祥子奴隷化が、調教が少しづつですが始まっています。

でも、キーボードは今まで知り合った中ではピカイチでして、歌も上手い。

ただ、残念な性格なんです。


現在、10月初めの土曜日、時間は夕方の4時。

溝ノ口駅を降り、西口ホームから改札口を出ると、デパート直通の遊歩道がある。

遊歩道をデパートの方に向かうと、左側に喫煙スペースがある。

ここの一角が俺のコンサートステージ。

ただの趣味、いや、ストレス発散ですね・・・


マイクは無し、クラシックギター片手に、ギターケースを広げ、遊歩道の壁を背中に、誰かに捧げる訳も無くただ唄うだけ。

それが俺のコンサート。

今日もそのはずだった。



歌うと数人は立ち止まって聴いててくれる。

内心、凄く嬉しい。

今日は左側に20代カップル?と、右側に高校生?男女5人が聴いててくれている。

もしかしたら待ち合わせかもしれないけど、僕の方を見てるからお客様でしょお。

そしてもう一人、確実に僕の曲、歌を目の前に座って聴いてくれている人がいる。

薄紫色の布製のショルダーバックに座り、薄緑のパーカをはおり、高級そうな水色のパジャマ?

を着た少年?中学生くらい?

が、嬉しい事にかぶり付きで僕の曲を聞いている。

歌っている最中だったがどうしても気になってしまい意識してしまう。

「プロ失格かな」なんて頭のなかで思いながら、プロ意識を楽しむ自分がいた(笑)


4曲目が歌い終わると、目の前に座っていた少年?が立ち上がり、拍手しながら

「お兄さんの声、大好きです」と、いきなり話しかけてきた。

いきなりの事に焦りました。

照れ隠しなのかギターを無意識で調整する振りをしながら、

「あ、ありがとう」

「まだ歌いますよね?、今日は一人ですか?」

この言葉には驚いた、祥子さんと歌って要るときも聞いてたんだと。

「う、歌うけど」

「良かった、実はお願いがあるんですよ」

満面の笑顔でお願いが来た。

「実は歌って欲しい曲が有るんです。」

今度は可愛くモジモジしながらお願いが来た。

「リクエスト?誰の何て曲?」

少年はショルダーバックから、5枚ぐらいの二つ折にしたA4サイズの紙を取り出し、俺に差し出してきた。

「見て良いの?」

少年は早く受け取れと言わんばかりに俺の胸に押し付けてきた。

紙は楽譜で、曲と歌詞が鉛筆で書かれている。

少し読んで見たが、聞いたことの無い曲、凄くカッコいい良い曲。

「これ誰の曲?」

「えへへ」

と少年は右手で後頭部を触りながら、照れながら

「僕の書いたうたです」

胸を撃たれるってよく聞くけど、今まさに撃たれた気分を味わった

「君が?」

出た言葉は「嘘だ!」ではなく、初対面を意識していたのか、疑いの言葉にしては優しい言葉だと思う。

疑いが出るほどこの曲は完成していた。

凄く、良い曲で今の僕には書けないと思ったからだ。

少年は軽くうなずき

「歌ってくれます?」と、可愛い笑顔で訪ねてきた。

歌うでしょお、

歌いたくなるぐらい凄い曲だもん。

「勿論」

体が、喉がこの歌を欲しがっているのを感じていた。

それぐらい凄く良い曲なんだって、

経験無いですか?

初めて聞く曲でも、聞きながらも無意識にハミングしてまう。

そんな曲を、目の前にいる可愛い少年が書いたと言って、リクエストしてくるこの現実。

無くなり掛けた自信は今、消滅しましたよ。

でも少し、しぶとく残ってますよ「この少年が書いたなんて、嘘でしょう」という気持ちが。


折り畳み式の楽譜立てを、ギターケースから取り出し、少年から渡された5枚の楽譜をセットした。

セットしなくても、頭の中にすんなり入ってしまうほどの凄い曲だったけど、

伴奏部分を弾いてるだけで体が浮いてきた。

歌い始めるといつしかこの曲のイメージが膨らみ、周りの雑音が消え、人も景色も消え、この歌の世界に体が吸い込まれてしまう。

高校時代に熊本の祭りでコンサートをしました。

応募すれば殆ど出演することが出来るんですけど・・・

大勢の仲間が集まり、盛り上げてくれて気持ち良かった思い出。

そこで歌った時よりも、今の方が何故か気持ちいい。

今、この曲にどっぷりとはまっているんです。


歌い終わった。

少しずつ、周りの雑音が耳に入ってきた。

回りにいつの間にか人だかりが出来ていた。

「あ・・・ル」

「アン・・ル」

「アンコール」、「また歌って!」

拍手の中に、

今まで見向きもしなかった、

帰宅に急ぐ通行人達が、

立ち止まって、

僕の歌を聞いてくれている。

僕も歌いたい!

伴奏を始める、

一気に5回も立て続けに歌ってしまいました。

ギターケースの中には今まで見た事の無いほどの、お捻りが入っていた。



博司(マスター、ヤバい事が起こりました(ФωФ))

祥子(痴漢で捕まったか(>_<)(笑))

博司(ご祝儀が2万越えた!(ФωФ))

祥子(AV女優と一緒に歌ったんだろ(*´ω`*)嘘なら殺すよ(笑))

博司(詳しく話します。とにかく合流して下さい。)

祥子(マジなのね(ФωФ)、分け前くれる?(>_<))

博司(渡しますから、合って話しましょう。)

祥子(溝ノ口なら、居酒屋・芳でスペシャル焼鳥セットが食べたい。(・д・)ノ)

博司(了解です(>_<))

祥子(30分で着く!生も、頼んどいて(・д・)ノ)

博司(了解です(^_^ゞ)



喉がからからで休憩を取ることにした。

少年の名前は山田登と教えてもらった、

「登くん、お茶ご馳走するよ」

登くんは嬉しそうに俺に着いてきた。

デパートに入ると入口に喫茶店があり、ギターが荷物になるんで壁際の4人席に腰かけた。

俺はアイスコーヒーで登くんはホットレモンティーを頼んだ。


「この曲は本当に、登くんが書いたの?」

「はい」

キラキラした目が、

真っ直ぐな目が、

僕のプライドを押し潰してきた。

「あっ、そうそう、あと3曲有るんですが見てもらえますか?」

口に含んだコーヒーを吹き出すとこだった。

口回りを右手の袖で拭きながら、

「3曲も!」

可愛い顔で、

あどけない顔して、

魔法のショルダーバッグから10数枚の楽譜を取り出し、

「気に入ったら遣って下さい。」

ラブレターでも渡すか様に、両手で持って差し出してきた。

「これも登くんが書いたの?」

照れながら頷いていた。

本当の、

本物の天才、神童が目の前にいた。

僕って天才かなって思った時が少し有りました。

本当に恥ずかしい、バカだったと反省しています。

登くん、マジで天才。

渡された3曲は、

今、ここで歌いたい。

心から歌いたいと思いたく成る程の出来映えだった。

登くんは二子玉川に住んでる14才の中学生と聞いた。

家とか、両親の事は話したく無いとのことで、

驚いた事に、この曲を、

4曲全て俺に歌って欲しいらしく、

また、僕の為に書いたと登くんは話して来た。

明日の日曜日、渋谷で歌って欲しいと、

これが登くんの夢なんだと、

??????????

僕がこの曲を歌うのが夢?、

この少年んは、

僕をどれだけ喜ばせれば気がすむのか、

マジ、可愛い。

登くんと別れたのは6時前で、なんか門限が6時で帰らないと母親に殺されるらしく、足早に駅の中に去っていった。


祥子マスターにメールする事にした。




「で、明日は何時だ?」

背中に、ミッキーマウスのプリントされた灰色のトレーナーを着て、右手に生ビールを持ち、左手には焼鳥を持つ祥子マスターと話していた。

「渋谷のハチ公前に10時で約束しました。」

「で、俺にも付き合えと」

2杯目の生ビールを平らげると、空ジョッキを右手で、

高々と持ち上げ、

「おかわり」と叫びながら、

店員が受け取るまで、ジョッキをブラブラさせて待っている。

祥子さんことマスターは俺の路上ライブの師匠でして、

マスターいわく、俺の歌にはフォースが足りないらしく、

自分がフォースを教える事から、マスター呼びが義務付けられたのだ。

因みに祥子さんは、スターウォーズの大ファンなのである。

フォースが少ないと人は立ち止まってくれないらしい。

確かにマスターが歌うと人は立ち止まって聴いてくれる。

ELT の持田香織に少し似てるかな?。

僕の身長は168と、男にしては残念な背丈だと思う。

マスターは167でモデル並みの高さで、合気道の有段者でもある。

この辺では少し名前も通っていて、電車内での痴漢逮捕も数え切れないらしい。

路上ライブ中に族風な人が挨拶して来るのは珍しくない。

最初の頃は驚いたけど、そんな事情からか、ライブ中に茶々を受ける事は、ここ溝ノ口では1度もない。


「マスターのフォースがないと始まりませんよ、渋谷では」

「上手いなヒロ、触るか?」

胸元を人差し指で広げ胸を寄せ付けてくる、体は女子でも中身は男である。

これで調子に乗って触れば半殺し確定だから怖い。

「マスター、どう思います?この曲、盗作ですかね?、洋楽に日本語の歌詞付けたとか」

「それはないな!、この曲は歌詞から作られたと思うんだ。それと、この歌詞は中学生には書けないと思うんだが・・・」

「マスターもそう思いましたか・・・」

そう、この最初に預かった曲、ここで歌ったこの曲、HOPEには切ない恋心が書かれている。

「大人の失恋を経験しないと書け無いだろ・・・この詞は・・・

まっ、良い曲だから歌うけど、ハハハ」

楽天的なマスターらしい解答が帰って来た。

疑いと不安が有ったが「まっ、路上ライブですしね」と話を合わせ気持ちを切り替える事にした。

10時過ぎ迄マスターとばか騒ぎしました。

鷺沼駅にマスターを送ると裕太くんがホームで待っていた。

マスターのお迎えである。

感心するほどに忠実な奴隷にしか見えない。

「明日はここに9時な、朝食にサンド忘れんなよ、じゃあな、ゆう帰るぞ!」

裕太くんは俺に軽く会釈をすると、マスターの後ろを付いて歩いていった。

向かえに来た裕太くんはマスターの護衛ではない!

痴漢の護衛だと確信している。



7時にセットした目覚ましの音が、いつもより不快に感じなかった。

昨晩セットした、ライブ用ギターを再度確認する。

スピーカーのバッテリーヨシ!

接続コードヨシ!

指先確認。

工場に勤めると確認動作も教え込まれ、生活のなかに浸透する。

いつもより洗面時間が長くなる、渋谷を意識している為でして

衣装選びにも時間が掛かる

溝ノ口で歌うのとは何かが違う、そんな気がするのです。


宮前平から待ち合わせの鷺沼駅には8時50分に着いた。

渋谷とは方向が逆なんですが、マスターとの待ち合わせ。

渋谷方向に移動して約束のベンチに座る。

2分も待たない内にマスターが来るのが見えた。

「ヒロ、お待たせ!」

後ろから裕太くんがキーボードをかついでついてくる。

「ゆう、有り難うね、後はこいつが持つから帰って良いぞ」

残念な性格だと裕太くんとアイコンタクト。


渋谷に着いたのは9時46分、ハチ公前に着いたのは50分を少しまわっていた。

この荷物じゃ早くは歩けない。

日曜日のこの時間にしては人通りが少なく感じていた。

「ヒロさーん」

可愛い少年が手を降りながら小走りで向かって来た、登くんである。

少し息を弾ませながら、

「祥子さん、初めまして、山田登です。」

あれ、祥子さんを知ってるんだ?

「祥子でーす」

と、二人は握手している。

「登は、ヒロに俺の事はどう聞いたのかな?」

「良いパートナーだと聞きましたけど」

こっちを向いたマスターの顔が不機嫌、鬼!?

「ヒロ、俺はお前の何だ?パートナー?、何時からそんなに偉くなった?」

小刻みな膝蹴りがお尻に降って来る。

「マスターの事は何も話して無いですよ、これから紹介しようと思ってたんですけど・・・」

登くんの方を見ると、軽く失敗したような顔で謝っているように見えた。

「祥子さんのキーボードは僕が持ちますよ」

マスターのキーボードを俺の左手から奪うと、嬉しそうに抱えて歩き出した。

マスターは登くんが何故か気に入ったらしく、

「登、こら、登」とじゃれあいながら歩いていった。

裕太くんより登くんがマスターの弟に見えた。


行き先はモヤイ像、

マスターと飲んでいてその場所に決めていたのである。

マスターの友達がそこで売店を出していて、その一部を貸して貰ったのである。

登くんは、その場所が良く分かったな?と、不思議に思ったが問い質すことはしなかった。


マスターはクレープを登くんと美味しそうに食べていた。

俺はギターケース広げ、キーボードをセッティング、

アンプ内臓の小型スピーカーに足を付け、キーボードとギターに連結、小型マイクは無線でスーピーカーに連結される。

頭に引っ掛けて口元にマイクが伸びる、

「あ、あ、あ、マイク、テス、テス」

感度、音量共に問題無し。

準備が整ったのを察したマスターはキーボードを引き始めた。

この時のマスターには見ているだけで惚れてしまいそうなるくらい綺麗です。

これで性格が女子なら・・・と、本当に残念です。

登くんは約3メートルぐらい離れた斜め前方に、折り畳み式の椅子に座りながら手拍子をしている。


キーボードに合わせギターを引き始める。

曲名はHOPE、

溝ノ口で歌った素晴らしいこの曲。

何度か伴奏部分をリピートさせていると、数名が立ち止まり聴いていた。

マスターの合図が俺の目に入った、伴奏に酔しれてた俺に気合いが入る。

この曲は歌うだけで不思議な感覚が身体中に駆け巡ってくる。

凄く気持ちがいい。

センス有る抜群なコーラス、強弱の有るキーボード、

マスター最高。


1曲目が歌い終わった。

拍手と歓声が耳に、身体中に響いて来た。

立ち止まって聴いてくれている人が目の前で埋まっていた。

今まで何度も、数え切れない程、路上ライブをしたけど、

こんなに大勢の人を止めたのは初めてだった。

気持ちが高まるのを実感している。

歌うだけでこんなに気持ちが良くなる曲はなかなか無い。

2曲目の伴奏が、この曲はマスターがメインで歌う。

透き通った声が回りを包み込んだ、

思わずギター演奏を中断してしまいそうになる程、聞き惚れてしまう。

登くんの作った曲。

全てが最高だった。


演奏が終わると、声援と拍手が地鳴りのように響き渡る。

そう、クレープ屋の回りには大勢の人で埋まっている

「祥子、凄いよ!」

クレープ屋の店主はクレープ焼く手を止めて、拍手していた。

登くんは椅子から立ち上がり、

「もっと歌って!」と、

素敵な声援を飛ばしていた。

4曲目が歌い終わると、回りは凄い事になっていた。

立ち止まる人々が多すぎて、通行が出来なくなってしまったのである。


「祥子、祥子、ゴメン」

クレープ屋の店主からストップがかかった。

通行が出来ないとJRから苦情が有ったと、クレープ屋の店主がマスターに説明している。

マスターは笑いながら店主の肩を叩き「休憩にします」と言うと、マイクを外し登くんを手招きしている。

立ち止まっていた人達が、「ええ・・・」っと嘆いていた。

すかさず「聴いてくれて有り難うございました。昼過ぎにもう一度唄いますから良ければ聴いて下さい。お願いします。」

深々と頭を下げていた。

気持ち良かった。

謝っているけど最高な気分。



道具を片付け、クレープ屋の店主に預け休憩を取る。

ハチ公前の交差点を丸井の方に向かうと、喫茶フルーツパーラがある。

昼食も兼ねて僕らはそこに入った。


4人用のテーブルに、登君と祥子さんは並んで座り、

僕は2人の向かいに座った。

「登、好きなの頼め遠慮したら殺すぞ!」

「死にたくはないので、ミックスピザとホットレモンティーで」

「おっ、なかなかセンス良いじゃねー、俺はツナサンドとホットレモンティーで」

「僕は、アイスコーヒーとミックスサンドをお願いします。」

「やっぱりお前はセンスねーなー、ここはレモンティーじゃないの?」と師匠が睨んできた。

「博司さんは紅茶が苦手なんですよ」

「登、良く知ってるな、もしかしてヒロの追っかけか?、祥子ちゃんは焼いちゃうぞー」

師匠は登君に抱きつき、くすぐり攻撃をしている。

無邪気に笑う登くんと、師匠が可愛いく見える。


食事をしながら今後の事を話しました。

「どうする?昼からもう一度歌うか?」

「歌って下さい。お願いします。」

「昼過ぎにもう一度歌うって言いましたからね」

「しょうがねーな、歌ってやるか、ハハハ」

歌う気満々なのが、師匠、隠せてませんよ。

「こうやって、2人が有名になるのが僕の夢なんですよ」

「生意気な事を言うじゃないか」

「ハハハ、止めて下さい、くすぐり禁止です」

「じゃー白状しろ!この歌は誰が書いたんだ!」

師匠は相変わらずストレートで、男らしい・・・見習はなければと反省。

登君が少し困った顔をしたが、

「僕が2人の為に書いた曲です。この4曲を元にメジャーデビューさせるのが僕の夢なんで。お願いします。」

涙だ目で師匠に頭を下げていた。

師匠が真剣な顔で登君を見つめて、

「登るの気持ちは解ったけど、無理じゃね?、この世界そんなに甘くないぞ・・・」

「無理じゃないです!、博司さんも祥子さんも凄いじゃないですか。お願いします。時間が・・・」

「時間?」

「いや、もうすぐ13時かなーって」


確かにこの4曲は凄く良い、もしかしてなんて思う気持ちも合った。

路上で歌うのは問題は無いとしても、デビュー作になるのは色々と考えてしまう。

気が早いけど、

盗作で罵られるのは勘弁して貰いたい。

まっ、スカウトされたらの話しなのだが(笑)

「登の夢は解った。俺とヒロならやれるかもしれないが、期待するなよ(笑)」

「大丈夫ですよ、この渋谷で歌えば必ずデビュー出来ますよ。」

登君の自信溢れる眼差しが嬉しく感じてしまう。

師匠が立ち上がり、「歌いに行くか」と、

登君を引っ張って店を出て行った。

支払いを済ませ、モヤイ像に戻ると、クレープ屋の周りに30人位の人が、午前中のライブから引き続き待って居たのである。

何人か師匠に話し掛けていた。

「今から歌ってくれますか?」

「グループ名は何ですか?」

師匠には珍しく、照れていた。

登君が師匠に何か耳打ちしている。

師匠は登君に抱きつき「グループ名は、フル・ドリームです、宜しく」

楽器をセットしていたら、グループ名が決まっていた。

師匠はドヤ顔で僕を見ている。

その横で登君がゴメンねのポーズをするもんだから、思わず笑ってしまった。

そうして午後の部の演奏は始まった。


勿論、JRからのクレームから始まり、警察からの注意まで受ける事となってしまったのである。


デビューしてない素人芸なので、問題にはならなかったが、

ここでの路上演奏は2度と出来なくなってしまったのである。


後、警察からの注意を受けてる最中に、パシフィクプロダクションの上田聡さんが仲介に入ってくれてスムーズに話しが進み解放された。

そう、僕らはこの上田さんにスカウトされたのである。


なんと、登君はこの上田さんを知っていて、

「上田さんなら大丈夫です。上田さんを頼って行けばデビュー出来ますよ。僕が、僕が、作ったんだ!」

と、祥子さんに泣きながら抱きついていた。


それから2ヶ月後僕らは、会社を退職し、パシフィックプロダクションからデビューすることとなった。


前に居た会社のCMソングで、HOPEが使われ、フル・ドリームは瞬く間に有名になったのである。

そう、僕に夢はかなったのである。

それから半年後、僕の持ち歌と、祥子さんの持ち歌と、登君の4曲合わせて12曲でファーストアルバムを販売する事になった。


「怖いくらい順調だな(笑)」

「ですね、登君の歌がなかったら今頃は工場で部品組んでたんでしょうね(笑)」

「つうか、登とは連絡取れねーのかよ?」

「上田さんに相談してるんですが見つからなくて・・・」

「見つけ無いと、お金渡せねーだろが」

「二子玉川に住んでるって聞いてたんで、すぐに見つかると思ったんですが・・・」

「上田の知り合いじゃ無かったのか?」

「登君が上田さんを知ってただけらしく、上田さんは山田登君とは、渋谷で合ったのが初対面らしくて・・・」

「良くそれで登の歌を使うよな!」

「相当調べたらしいですよ、盗作等の疑惑は一切無くて、作詞作曲には山田登と載せてますし、いずれ合いに来てくれますよ。」

「お前も俺もいい加減だな(笑)」

「僕らの歌も、登君の歌が無かったら世の中には出て無かったでしょうね・・・」

ファーストアルバムを発売記念コンサート待合室で、僕と祥子さんは登君の話しをしていたのである。

そう、渋谷の路上ライブ以来、登君とは合ってはいなかった。


コンサートは無事終わり、待合室に戻ってきた。

「このアルバムは、売れるよ!」と、

上田さんからお褒めの言葉を頂き、

僕らは達成感の余韻に浸っていた。


「プルプル・プルプル」

内線の呼び出しがなり、僕が受話器を取ると、受付の警備員から

「登と名乗る少年が合わせて欲しいと、博司さんか祥子さんに取り次いで欲しいと言ってますがどうしますか?」

突然の出来事だった。

側で聞いていた祥子さんが受話器を取り上げて、

「直ぐにここに連れて来て、逃がしたら殺すよ!」

「はっ、ハイ。直ちに連行します。」

「丁寧に連行しなかったら殺すよ!」

「かしここまるまじた。」


それから直ぐのことだった。

ドアのノックが鳴った瞬間、祥子さんがドアを手前に引いて開けると、警備員に抱っこされた登くんがいた。

祥子さんは警備員から登君を引き剥がすと、部屋に連れ込んだ。

警備員は疲れた表情でこちらを伺っていたので、

「有り難う、御苦労様です。」

と声をかけ、静かにドアを閉めた。

祥子さんは登君を椅子に座らせると、登君の腰に手を当てた状態で座り込み、

「何で連絡しないんだ、心配したんだぞ」

涙ぐんだ声で登君に問い質した。

「ごめんなさい、直ぐに合いに行きたかったんだけど、都合が合わなくて今になったんです・・・」

「登に話したい事が沢山ある。聞きたい事もだ!」

「取り敢えず、おめでとうって言いたくて・・・」

祥子さんは登君に抱きつき泣きながら、

「ありがとう、ありがとう、登るのおかげで夢が叶ったじゃねーかよ!わーん」

見てる僕が気持ちいい位に、祥子さんは真っ直ぐだった。

盗作とか不安な気持ちも合ったけど、登君の事が心配だったんだと。

僕達に遠慮してたのか、又は最悪のケースを祥子さんは考えてたのかもしれない、本当に良いパートナーだと実感した。


泣き止んだ祥子さんは少し拗ねてて、登君に質問をしなくなった。

僕は登君に素直な気持ちでお礼を言った。

そして、今後の事を話そうと登君に伝えると、

「僕は、フル・ドリームを結成しただけで満足なんです。そして2人にはもうお礼は頂いてます」

「「何もしてないよ」ねーよ!」

「祥子さん、博司さん、僕のした事なんて本当に些細な事なんです。この成功は2人の実力なんですから。」

「それは違うよ登君。君の歌が無かったら俺達は・・」

登君は首を左右に振りながら、

「2人の実力なら、遅かれ速かれ、デビューしてますよ。そこに僕が割り込んだだけなんで・・・そう、利用しただけかも(笑)

ただ、お礼がしたかった2人に・・・それが僕の夢なんです」

「「??」」

そう言うと登君は、椅子から立ち上がり、抱きついていた祥子さんから離れると僕の側に来て手を差し伸べてきた。

僕の手を掴むと、

「本当に有り難う御座いました。」

と言いながら頭を深く下げてきた。

「おい、おい、お礼を言うのは僕らの方だよ、顔を上げなよ・・」

僕がそう言うと、登君は笑顔で僕に応えた。

手を離すと祥子さんに近寄り、耳元で何か囁いた用に見えた。

真っ赤な顔で祥子さんが登君を捕まえようとしたが、登君はスルリと交わしドアに手を掛け、

「僕の事は気にしないで良いですよ!フル・ドリームで頑張って下さい。お願いします。後、博司さんお幸せに。祥子さんを泣かせたら駄目ですよ!」

イタズラげな笑いを見せるとドアを開けて、逃げるように出ていってしまった。

「祥子さん、登君に何言われたんですか?」

「ご婚約おめでとう・・・」

いや、いや、この事は2人だけしか知らないはずだった。

このコンサートが終わったら上田さんに、2人で話そうと思っていたはずなのに・・・

何で登君はその事を知っていたのか・・・

ふと、視線を感じた。

祥子さんが僕を睨んでいた。

「誰かに自慢した?」

「いや、いや、いや、殺されるから、いたたたたたた」

問答無用でコブラツイストを決められていた、怨むよ登君・・・



1年後、祥子さんと無事結婚しました。


その翌年、元気な男の子を授かりました。

橋口博人と名付けました。


登君とはファーストコンサート待合室以来、会う事は無かった。

現在は携帯電話で写真に撮る事が出来たが、あの時代ではメールするのがやっとだったのである。

色々と手を尽くして捜してみたが今でも見つかる事は無かった。

登君の手掛かりをと思うばかり、二子玉川に2世帯の家を購入した。

そう祥子さんの両親と鈴木裕太夫妻。

裕太君とこは5歳の照美ちゃんと8歳の裕司君がいる。

僕ら夫婦は忙しく博人の面倒は、裕太君と義理の父さんと母さんが良く見てくれていた。


現在は7枚目のアルバムをレコディング中です。

ソロで祥子さんのパートを録音中です。

何とかフル・ドリーム16周年のアルバムには間に合いそうでして。

レコディングが終わり、休憩所で祥子さんとお茶しながら打ち合わせをしています。

相変わらず主導権は祥子さんですが・・・

「知ってた、博人に彼女出来たの!!」

「あああこの前連れてきてた澄子ちゃんね、明日も来るよ」

「私は許さないよ!早すぎじゃね!」

「ハハハ、博人に嫌われちゃうよ」

「殺されたいの!」

相変わらずのコブラツイストが僕を責めてくる。

胸ポケットに入れてた携帯が振るえながら落ちても、祥子さんのコブラツイストが僕を責め続けていた。

次は夢いっぱい 博人です。

3部構成で書いてます、是非つぎも読んで下さい、お願いします。

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