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第二十一話 一方その頃超人は

「底の抜けた魔女の釜、今日は素晴らしき氾濫日」


 膨大な数の魔物は数えるのが馬鹿らしいほどの量、無尽蔵に顕現してくる彼奴らは点や線で戦線を形成せずに三次元的な進行を得意とする。


 陸空共同……いや共同という表現は些か適切ではないか、同時侵攻してくるのはそこらの雑草のような雑魚どもにとっては非常に手強いことだろう。


 航空戦力のエアカバー下にいる歩兵は脆弱なゴブリンであっても脅威になる。対空戦闘は魔神のほうが分があった、というのはよく話されることだ。


 ツェーリとは少し離れた最前線に俺は陣取り、荷台の上に仁王立ちしてわらわら沸き立つ敵を見る。今日も大変多いこと。空にも地にも、やたらと多い。


 いつものお気に入りのだんびらは置いてきて、今日は真面目にハルバードを一つ片手に参戦だ。そも俺の本分は魔術戦であり、接近戦は余技で趣味である。


「"讃えよ、これは我が血である。炎よ、あれ"」


 ハルバードの向けた先に豪炎が立ち上り周辺一帯を焼いていく。魔力で形成されたうすのろの魔物であっても、一部には肉があり、脂肪がある。それが炭化することで不快な匂いがぷうんと臭いを放つ。


「"讃えよ、これは我が血である。炎よ、あれ"」


 二度、三度と広い範囲に唱える。前線を形成する雑兵共は露骨に暇をしそうな雰囲気である。


 数十も繰り返せば、さすがの俺とて魔力が尽きる。ここで凡人であれば魔力ポーションでも飲んで、体を壊しながら魔法を撃って、お腹を壊すまでポーションをぐびぐびするローテションを繰り返すのだろうのだろう。


「雑魚ども、下がってろ」


 ぴょんとちゃんばらしている人間とシーゴブリンの頭を柵と一緒に飛び越えて、別の魔物に一掴みして呪言を唱える。シーゴブリンが必死につかむ手を振りほどこうとするが、下等生物ではそんな大層な真似はできない。


「"これは我が血、我が肉、我が骨なれば"」


 今日はこれをどれくらい言うことになるやら。溜息を吐いて呪言を無駄にしないように必死に堪える。


「"我が意に従いて、その形を変えるべし"」


 掴んだ魔物を握りしめ、ぎゅうと中身が飛び出るほどに強くする。



「"我が肢に、戻れ"」



 有象無象のシーゴブリンが崩れて溶けていく。ひりひりと手が痺れる。自分を拡張していく、自分ではなかったものが吸収して飲み込むのだから、接続部分が輪郭を失うのは当然である。


 自分が魔力で嵩増しされるのを感じる。体積ではなく形而上の領域が広がっていく。これほどまでに悍ましい感覚はない。そしてこれほど気持ちが良いことはない。


 世界を鳥瞰するような錯覚に包まれる。半分固まっていない溶けた腕を振り回す。びちゃりと周りの雑魚にあたって音が鳴る。


「"再び告げる、戻れ"」


 溶けた腕に当たった魔物がまた溶ける。どろどろとなったそれが俺の一部へと変換される。


「"繰り返す、戻れ"」


 あたり一帯に自身が拡散していく、視界が虹色に染まっていく、氾濫を飲み干していく。


 魔物を魔力に変換して、自身のものとして再解釈し、それを拡散させることでさらなる範囲を魔力へと変換する。次第に辺り一帯が枯渇するように魔物が消える。


 魔力で水増しした分、自分の存在が希薄化するのを感じる。脳ではなく四肢が物事を考える感覚、なるほどこれが魔族の世界かと理解させられる。


 ふっと意識が遠のくその直前で切断処理を行う。ぶつんと飲み込んで一部にした部分を切り離す。自らだったものを燃料に魔術を使う。


「"爆ぜろ"」


 ぼーんと間抜けな音がしたかと思うと、俺を中心に衝撃が吹き荒れる。オーガやシーゴブリン、雑魚の一部が土砂と一緒にぶち飛んでいく。


「あー、くっせぇ!」


 土砂が舞う中、周りを見る。腐った内臓のような匂いが立ち込める。


「まあ挨拶にしてはこんなもんか」


 周辺一帯はすっきりと魔物がいなくなっている。爆心地の地面は削れて爆破の影響範囲が分かる。


 それでも奥からぞろぞろと、魔物が進んでくる。当然である。敵方向を見れば奥までびっしり詰まって敵がいる。


 綺麗さっぱりした領域にもぞろぞろ誰の許可を得たわけでもないやつらが土足で入り込む。


 魔杖代わりのハルバードを敵に向ける。


「"讃えよ、これは我が血である。炎よ、あれ"」


 俺は魔物がいる限り無限に魔術が撃てるのである。



 さてさて、そんなわけで現在今は氾濫である。


 氾濫というのは見ての通り、大量の魔物がうぞうぞ沸き立つ楽しいボーナスタイムだ。


 シーゴブリンのような雑魚であれば数万数十万の単位で湧き出し、辺り一帯を埋め尽くす。河が大増水してあふれるように迷宮のマナが溢れて地上に出てきてしまうそれ。


 終わらせるには地表魔力構造物、氾濫核の破壊あるべしなのだが、流石にこの量の魔物の群れを突っ切って破壊しに行くのは自殺願望が強いと見られてしまう。


 そんなわけでかったるいとどんだけ思っても、ひたすら数を減らしてピークをやり過ごさなければならない。


 一応は数波やり過ごせば比較的少ない――と言っても数千程度の化け物の中を突っ込んでやらねばならんのだが――数の敵に突っ込むだけで済むのだが。それまでひたすら殺し続けるのが面倒で面倒で仕方ない。しかし命儚い雑魚どもを見捨てるのは強者の義務に反する。はあと溜息を一度だけ吐いた。


「大体むかしっから疑わしいんだよなあ」


 てきとうに魔法をぼんぼこ撃っているだけで敵が粉砕されていく。やることは単調だ。まったく暇だ。


 疑わしい。疑わしいというのは、カイネである。カイネ家太祖の"踏破者"エーンが迷宮核を破壊してなお、ここは大量の迷宮が産まれる土地である。


 確かに、かつての四大迷宮の一つはそれは大量の魔力を呼び込んだであろう。しかし、中心となる迷宮核を破壊した以上、時代と共に減じていかなければおかしい話だ。


 魔石掘りの卑しいモグラが大量に魔石を持っていき、インスタントの量産型迷宮魔石が回収されてヨーデル運河に乗って消えていくはず……。


 俺の天才的な計算で叩き出している数値が当たるあたり、常々の研究が間違っているわけではないのがおかしい。過去のデータがあればもっと想定出来るが、実際八十四年前のことは難しい。


 空から落ちてくる爆卵を炸裂する前に魔力変換し、空に向かって魔術を放つ。穢れた魔神の徒がくたばって塵となる。


 自然の摂理として、死体が上から降ってくる。服が汚れる。こつんと頭の上に魔石が落ちてきた。腹が立つ。


 これ、落穂拾いの連中が儲けるんだよな。


 この戦いの後どうするか。落穂広いの利益が分配される形で冒険者に恩給が支払われるわけだが、今回も爆益で働く必要がまた薄くなる。ただでさえ商会経営など副業にも手を出しているのだ、本気で冒険者を引退するのも一つの手かもしれない。


 商会もポーションを捌いて好景気だし、落ちている数十万の魔石が莫大な利益を都市全体に流し込み、豊かになっていくのだ。


 モルンネン伯が新興の貴族であるのに、北部諸侯の中でも頭一つ飛び抜けた発展をしているのはこれが原因である。


 ツェーリなどの変なスノウエルフは放って、金だけ持ってどっかに逃げるか。などと考えてはたとあのスノウエルフがどうしているか気になった。


 死なれていては管理責任の問題になる。俺の沽券に関わる話だ。


Q.お腹が空いたら~~~!!

A.根性論!!!!!

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