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08 行商人、到着

 広場に着くと、そこには大勢の森の民たちが集まっていた。

 そして、木材や穀物が入っているであろう麻袋、農作物などが大量に積まれている。

 おそらくこれは、行商人に卸す品々だろう。

 と、いうことはここに集まっているのはうちの集落の商人の人たちなのかな。

 

 ただ、あきらかに見物客というか一般客というか、野次馬のような人たちもいる。

 そんな中に、カンジの姿を見つけた。


「おーい!カンジー!」


 俺たちはカンジに手を振りながら走っていく。それに気づいたカンジも、手を振って応えてくれた。

 カンジの隣には、紺色に近い青髪の青年が立っていた。かなりの長身だ。


「おお!リドリー先生たちも来てたんですか」


 ダズワルドさんが長身の青年に声をかける。この人がリドリー先生か。初対面だ。


「ええ、そうなんですよ。なにか新しい本がみつかればと思いましてね。今日はみなさんお揃いなんですね」


 リドリー先生は、穏やかにそう言うと、俺に気づきニッコリと微笑んだ。


「やあ、はじめまして。君がシグマくんだね。カンジから話は聞いてますよ。学者をやってます、リドリーです。よろしく」


「あ、はじめまして。シグマです」


 俺は、ペコリと頭を下げた。

 と、その瞬間、ガッと頭を掴まれ、バンダナをむしり取られてしまった。


「あ!」


 俺の頭が露わになる。


「ほほう。聞きしに勝る、見事な黒髪ですねえ。実に興味深い」


「せ、せ、せ、先生!いけませんよ!急に何をするんですか!!」


 カンジが慌ててリドリー先生の手からバンダナを取り返し、俺に返してくれた。

 おいおい、急に何するんだよ、この先生は。


 幸い、他の誰にも見られなかったらしく、騒ぎにはならなかったが、あんまり人が集まっているところで断りもなしにバンダナ引っぺがさないで欲しいなあ。


「すみません!シグマさん!先生は研究対象になりそうな物に対しては、節操がないと言いますか、遠慮がないと言いますか。決して悪気はないんです。ここはどうか穏便に……」


 カンジが先生に代わって平謝りしてくれたよ。その間も、リドリー先生はアゴに手を当てて独り言をブツブツ言っている。


 まあ、研究者ってのは変わり者が多いというしな。ここは、カンジの顔を立てて穏便に済ますのが大人ってもんだ。

 俺子供だけど。


「リドリー先生、研究熱心なのはいいけどねえ、子供にいきなりそれはないよ」


 アンナさんもチクリと言ってくれたし。


「ああ、申し訳ない。カンジから聞いていたんですが、どうしてもこの目で確かめたくなってしまってね。これは失礼をしました」


 リドリー先生も我にかえったのか、謝ってくれたし、まあいいか。

 特に研究対象にならんと思うよ? 俺、ただの一般人だし。ニッポン人はみんな黒髪なんだから。


「お詫びと言っては何ですが、もし何か困った事があったらカンジと一緒に私の家に来るといいですよ。いろんな本が揃っているし、私は王都の出身だから、何か君の助けになれるかもしれない。いろいろ面白い研究もしてますからね。歓迎しますよ」


 あ、俺が遠い異国の出身で、記憶も曖昧であるということはわかってるんだな。


「あ、ありがとうございます」


 やっぱこの人も変人なだけで悪い人じゃなさそうだ。そりゃそうか、カンジがこんなに懐いてるんだから。


 そんなこんなでしばらく談笑していると。


 遠くの方から、ごごごごごごごごご、という轟音が近づいてくるのが聞こえてきた。


「……ん? 何だこの音は?」


 俺がそう言うと、ミックが満面の笑みで俺にこう言ってきた。


「シグマ、いよいよだぜ。きたきた。くくくっ」


 いよいよって?

 さっき言ってた「ビックリ」ってやつか?


 徐々にその地鳴りのような音が大きくなるにつれ、街道の先の方に何やら大きな影が見えてきた。


 な、なんだありゃ?


 ものすごく大きな物体? なのか、動物なのか、俺の知識の中で表現するのならば、恐竜? のようなものが二体並んでこっちに向かってきている。ものすごい土埃を上げながら。


「お、おいミック、あれはなんだ?」


 思わず、ミックの腕を引っ張って聴いてしまった。でも、視線はその巨大な物体の方に釘付けだ。


「くくくっ。あれが行商人のキャラバンだよ」


「え!キャラバン? すげえ!」


 だんだんと認識できるようになってきた。まさに恐竜といった方がしっくり来るような二体の動物の頭には、それを操っている御者のような人が乗っている。そしてその後ろには、どでかい荷車。まるで鉄道なんかでよく見るコンテナみたいな荷車が繋がれている。


「あの引っ張っているどデカい動物はなんていうんだ?」


「あれは、ダロンゴンという、ドラゴンの一種です。非常に人懐っこい竜で、ああいった大規模な荷物の運搬などによく使われているドラゴンなんです。ちなみに、あの頭の上で操縦しているのは、ドラゴンテイマーという特殊な訓練を受けた専門職の方々です」


 今度はカンジが解説してくれた。

 おおー、なるほど。ドラゴンか!すげえな!ファンタジーっぽい!


「ドラゴンって、頭がいい魔物っていうイメージだったんだけど、ああやって人間のために働いてくれるんだな」


「よくご存知ですね、シグマくん。そうです。一言でドラゴンといっても、様々な種族があります。押し並べてドラゴンは知能が高いため、人間とは相容れない種族も多く存在するのですが、ダロンゴンのようなおとなしい種族は、ドラゴンテイマーが契約を結ぶことによって、人と共に生きてくれるようになるんですよ」


 リドリー先生が詳しく教えてくれた。そうかー、ドラゴンテイマー、かっこいいな。


「もし、ドラゴンをはじめとするこの国の生物たちに興味があるなら、いつでも教えて差し上げますよ」


 おおー、ちょっと興味深いな。マジで今度、カンジと一緒にリドリー先生の家を訪ねるか。

 ドラゴンがいる世界なら、他にもいろんなファンタジーな生き物や魔物なんかもいるかもしれないしな。


 そういえば、海の〈外側〉には凶悪な魔物に邪魔されて誰もいけないっていう話だったよな。


 魔物かあ。まだ、遭遇した事ないな。いや、ドラゴンも魔物か? ん? まあどっちでもいいか。


 そんなことを考えているうちに、行商人のキャラバンは俺たちのいる広場に到着した。


 あらためて目の前で見ると、ものすごい巨大な荷車だ。しかも、着くまでわからなかったが、荷車は2つ縦に連結されていた。


「どうだ? シグマ。ビックリしただろ?」


「お、おう。ものすごくビックリした」


「初めて見たら驚きますよね、この大きさは」


「おっきい、おっきい!すごいよね!」


 と、子供たちで盛り上がっていると、ダズワルドさんがアンナさんに言った。


「じゃあ、アンナ。私は商会の人たちにあいさつしてくるから、ちょっと子供たちを頼むな」


「あいよ」


 そう言うと、ダズワルドさんは前の方の荷車に向かって歩き出していった。


 荷車からは数人の商人らしき人たちが既に降りてきていて、後ろの方の荷車で作業を始めている。

 後ろの方の荷車は、側面がパカっと取り外せるようになっているようで、それがそのまま屋根になる構造みたいだ。


 数人がかりで側面を外し、組み立てていると、中にはたくさんの商品が並んでいた。まるで即席商店だ。よくできてんなあ。


「前の車は商人さんたちの居住スペースと倉庫、後ろの車は、ああやって屋台になるんだぜ、おもしろいだろ?」


 ミックが得意げに言う。確かに面白い。でも、ミック。なぜ君が得意げなのか。


「ああやって、うちの商人たちが行商人たちと取引するんだ」


 アンナさんが後ろの車で始まった取引の様子を見に連れて行ってくれた。

 商人同士が和やかに取引しているのがわかる。


 気がつけば、リドリー先生の姿がない。


「あれ? カンジ、先生は?」


「ああ、先生は、書物専門の商人の方に直接話を伺いに行ってます」


 なかなかのマイペースだなあ、リドリー先生は。一声かけていけばいいのに。


「あの、アンナさん、売りに来た商品とか、見せてもらうことはできますか?」


「ああ、多分大丈夫だと思うよ、行商の人に声かけて見せてもらおうか」


 やったぜ。どんな珍しいものがあるのか、楽しみだ。

 俺たちが、屋台のほうに向かって進んでいくと、忙しく動き回っている行商人のうちの一人が、こっちに向かってブンブン手を振っているのが見えた。


 ん? 知り合いか?


「おお〜〜〜い!みんな〜〜〜〜!」


 見たところ年齢は若く、おそらく行商人の中ではまだ下っ端であろう茶髪の青年が、こっちに向かって走ってきた。


「おや、ピピン!ピピンじゃないか!久しぶりだねえ!」


「ピピンさん!ピピンさんだ!」


「ピピンおにーちゃんだあ!」


 アンナさん、カンジ、ロロが嬉しそうにそう言う。

 俺とミックは、「え? 誰?」と、顔を見合わせた。


「アンナ母さ〜〜〜ん!お久しぶりッス〜〜〜!!!」


「どうしたんだい、行商に出られるようになったんなら、一報おくれよ!」


「いや〜商会の修行がなかなか厳しくって、今回の同行も急に決まったもんでうっかりしてました!サーセン!」


「ほんとにもう、あんたは変わらないねえ」


 聞けば、この人はピピンさんといって、ダズワルド家にいた孤児の先輩だそうだ。

 2年前、15歳になったと同時に独立し、王都のレンベルト商会という最大手の商人ギルドにダズワルドさんの口利きで就職したらしい。

 レンベルト商会というのは、〈モスフェリア〉国内の商業を取り仕切っている歴史ある商会で、ほぼ全ての物資の物流なども担っている。


 幼い頃から、商人になることを夢見ていたピピンさんは、就職してから2年、王都でのきびしい修行に励み、今回はじめて行商に同行させてもらったということだ。

 故郷に凱旋ってわけだな。すげえよ、ピピンさん。


「あ、ピピン、あんたが王都へ行ってから新しくうちに入った子達だよ。ミックと、シグマだ。あんたの弟たちだよ」


「あ、ミックです、どうも」


「シグマです。よろしくお願いします」


「おおお!!!そうか、そうか!ミックに、シグマか!よろしく!ピピンッス!兄貴だと思ってくれて構わないッスよ!まあ、滅多に会えないけどな!あははは!」


 ピピンさんはそう言って、握手してきた。なかなか明るい人だ。まさに商人向きなのかもしれない。


「カンジも、ロロも、大きくなったッスねえ〜。感慨深いッス」


 カンジもロロも、嬉しそうだ。


「それはそうと、ピピン。ちょっとこの子達に商品見せておくれよ」


「ああ、そういうことなら、お安い御用ッス。ついてきてください。……あ、ロロとカンジにお土産あるッスよ」


「本当ですか!」


「やったー!」


 まあ、俺とミックにお土産がないのはしょうがない。


 俺たちはピピンさんに連れられて、商品が並ぶ屋台の方に歩き出した。


 と、そこで、ピピンさんがアンナさんに小声で耳打ちしているのが聞こえてきてしまった。




「ところで、アンナ母さん。この森のことで、良くない噂を耳にしたッスよ」

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