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黒髪のシグマ 〜ギターを担いで異世界ぶらり旅〜  作者: 蓮亭ぬら
第三章 モスフェリア王都編
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45 王都への誘い

◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 「それ」を見つけたのは、全くの偶然だった。


 たまたま通りかかった、森の街道。

 そこに停まる竜車。そして数人の人だかり。


 竜車の中から、見たことのある少年が降りてきた。

 そして、何かの拍子にその少年が頭に巻いているバンダナが外れた。

 バンダナの下には、世にも珍しい、黒髪が見えたのだ。


 その黒髪を見て、ピンときた。


 ……あいつは、レイダを始末した時に傍にいた少年だ。


 凶暴化させたレイダに真っ先に殺されたと思っていたのだが、生きていたのか。


 待てよ……なぜ、彼は生きのびることができた?


 そもそも、あの案件。収束した経緯がどうも腑に落ちない。

 結局最後は依頼主が王都に捕まり、更迭された事によって組織は手を引いた。

 もともと、あの落ちこぼれにさせていたような仕事だ。金を回収できないのならば、組織はもう興味はないのだ。

 そこまではいい。


 それまでレイダが凶暴化させていた森の動物たちは、どうやって元に戻ったのか。そこが腑に落ちなかったのだ。

 しかも、動物たちの襲撃に遭っていた筈の森の集落も、今ではすっかり復興している様子だ。

 相手が動物だったとはいえ、かなりのダメージを負ったにも関わらずだ。



 だが、あの黒髪、そしてそいつの傍で楽しそうにしている少女を見て、頭の中のモヤが晴れたような気がした。


「……あの、落ちこぼれ、生きていやがったのか、ククク」


 思わず、顔がにやけてしまう。そうだ、奴は子供に化ける事ができるんだ。


 レイダは、まだ生きていたのだ。


 この事は、組織には報告しない。

 組織にはレイダは死んだと報告済みだからだ。今更やっぱり生きてました、なんて言ったら確認不足の自分の立場が悪くなる。


 だが、どうやってレイダの凶暴化は解除されたのか。

 何らかの方法で解除したのは間違いない。動物もそうだ。


 俄然興味が湧いてきた。


 そしてなぜか無性に、あの黒髪の少年が関わっているように思えて仕方がなかった。


「少し、監視してみるか」


 幸い、今は特に大きな仕事はしていない。


 ちょうどいい暇つぶしになりそうだ。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「なるほど!そりゃあすごい!」


 通信器越しに聞こえてくるマーロンさんは興奮気味にそう言った。

 俺は今、ダズワルドさんの仕事場の通信器をお借りして、王都にいるマーロンさんと会話をしている。

 完成したギターが魔道具並みの性能になった事をダズワルドさんに相談したら、魔道具のことならマーロンさんに聞いた方がいいと言われたんだ。


「精霊神樹の本体に、アウラライト鉱石の弦。さらに魔石を嵌め込むことができるギターなんて。そんな魔道具、他に持ってる人いないよ?」


「そうですよね」


「あぁ、しかも、そうか。魔石を付け替える事によって、さまざまな魔法が発動できるんだよね? すごいな!シグマくん!」


「はい。一応、魔石を外せばただのギターなんですけどね。ただ、魔力は尽きる事はないです」


「そうかー。僕もあの時、遠慮しないで持って帰ってくれば良かったなあ。アウラライト」


 マーロンさんが後悔している。そりゃそうだろう。いくら古龍のウ○コだからって、こんなすごい鉱石は他にないだろうから。


「そのギター、一度見てみたいな。僕はしばらく王都にとどまる予定だから、シグマくん、ぜひ見せに来ておくれよ。それまでに、他の魔石もいくつか用意しておくからさ」


「え、本当ですか!」


「あぁ、遅くなったけれど火山の調査協力の謝礼さ」


 他の魔石!それはすごい!

 正直、いろんな魔石を用意するのってどうやっていいかわからなかったんだ。ありがたい!


「ダズワルドさん、行ってもいいですか?」


 俺は、傍で会話を聞いていたダズワルドさんに、王都に行っていいか聞いてみた。


「いいですかって、シグマ。この間、帰ってきたばかりじゃないか。そんなにすぐにまた出かけなくても……」


「あ、そうですよね」


「……いや、でも、……その他の魔石を付け替えるというのは興味があるな」


 ダズワルドさんがいたずらっ子のようにニヤリと笑う。

 お、やっぱ男子はそういうの、好きだよね。いくつになっても。


「まぁ、シグマも一度、王都を見ておいたほうがいいだろう。なにせ、この国の中心だしな!いいぞ。行ってくるといい」


「わぁ、うれしいです!ありがとうございます!」


「よし、じゃあ決まりだね。……うーん、と。どこか、駐在騎士の交代のタイミングで、一緒に連れてきてもらうといい。騎士団には僕のほうから話ししておくよ」


「はい!わかりました!」


「マーロン殿、今回もよろしくお願いします」


「はいはい!じゃあねー!」


 通信が切れた。


「ダズワルドさん、またご心配をおかけする事になります。すみません!」


「あぁ、心配は心配だが。正直、ダスカ行きよりは心配していないよ。王都はそれほど遠くないし、なにせ、マーロン殿やシェイナ殿がいる場所だからな」


 森の異変を解決してくれた恩人ふたりには、ダズワルドさんも全幅の信頼をよせているみたいだ。


「まあ、用心するに越した事はない。気をつけて行ってくるんだぞ」


「はい!」


 王都か。この国の中心ってことは、大都会ってことだよな。楽しみだ。



 現在、フォーレンの森の集落に駐在しているのは若いフィオレさんという男性の騎士さんだ。先日シェイナさんと入れ替わりでやって来た。初めて見る顔だ。


 フィオレさんが王都に戻るのは5日後だそうで、その時に一緒に連れて行ってもらう事になっている。


「フィオレさん、その時はよろしくお願いします!」


 俺は、フィオレさんに挨拶するために騎士の駐在所に来ていた。


「はい、マーロン様から聞いております。シグマくん、よろしくお願いします!」


 なんか、爽やかで真面目そうな騎士さんだ。青い短髪が、また爽やかさを引き立てている。

 俺が挨拶をすませて帰ろうとした時、フィオレさんから呼び止められた。


「あ、あの!シグマくん!ちょっと聞きたいことがあるんですが」


「はい、何でしょう?」


「ちょっと小耳に挟んだのですが、シグマくんの髪が、その……珍しい色だと」


「あ、あぁ、そのことですか。そうですよ、俺の髪、黒いんです」


「…ほ、本当ですか!……あの、少し見せていただいてもいいですか?」


「いいですよ」


 俺はバンダナを外して見せた。もうこの集落の中では周知の事だし、俺自身特に抵抗はない。


「お、おぉ、おぉぉ。……本当だ。真っ黒だ!」


 フィオレさんが物珍しそうに俺の髪を観察している。

 このリアクションも久しぶりだな。


「あ、ありがとうございました!」


「いえいえ。じゃあ、5日後、よろしくお願いします」


 俺はそう言って、駐在所を後にした。



 その時は、この若い騎士の過剰な反応を特に気にも止めていなかった。だいたい、俺の黒髪を初めて見た人の反応はあんなもんだからだ。

 だが、俺はのちのち、それがとんでもない出来事に発展していく前触れだったと、知る事になる。



 その日の夜。


「えぇー!なんでー!何でついて行っちゃダメなのー!」


 寝室のベッドに腰掛けて、レイがぶんむくれて俺に文句を言う。


 夕食後、本当に久しぶりに家族のみんなの前でギターを弾いた。もちろん、魔石は外して。

 みんな、久しぶりに聞いた俺の演奏を大変喜んでくれた。


 そんなミニコンサートを楽しんだ後、寝室で俺はレイや他のみんなに、王都に行く事を話したのだった。


「しょうがないだろ? 今回はお前が王都に行く理由がないじゃないか。ダスカに行けたのは特別だったんだからな」


「ぶー。シグマばっかりいろんなところに行けて、ずるいよー。ねー、ミルラ」


『せやなあ。まあ、ワイは飛んで勝手について行くこともできるんやけどな』


「ミルラ、お前は残ってレイについててやってくれよ」


『おう。そういうことならワイに任せとけ』


「私も行きたーいー!」


「今回はすぐに帰ってくるから。な、お土産も買ってきてやるから」


「ぶー」


 レイの機嫌はなおらない。どうしたもんかなあ、と困っていると。


 先にベッドに入って寝ていると思っていたロロが、こちらに向き直ってこう言ってきた。


「ロロは、レイおねーちゃんが行っちゃったら、さみしいよ?」


 目にはうっすらと涙を浮かべている。

 それを聞いたカンジが、ロロの頭をそっと撫でて、付け足すように口を開いた。


「ロロは、シグマさんとレイさんがいない間、……やはり寂しかったんだと思います。子供部屋は僕と二人っきりでしたから」


 見ると、カンジも泣くのを我慢しているように見えた。俺たちは、ハッとした。


「あ、そっか。ごめんね、カンジ、ロロ。寂しかったんだね。長い間留守にしてごめんね」


 レイは、ロロを抱きしめて、そう言った。レイの表情が優しいお姉さんになっている。


「これから、いっぱいいっぱい一緒に遊ぼうね」


 そうか、なんかカンジとロロには悪いことしちゃったな。この二人は俺たちと違って、まだ本当の子供なんだ。

 年上の俺たちが長期間いなくて、幼い二人だけで不安もあっただろう。


「カンジ、ロロ。長い間、家を空けてごめんな。今回は、本当にすぐに帰ってくるから。また、留守を頼むな」


「シグマ、私、……今回はやっぱりいいや。ロロと一緒にいてあげたい」


「そうだな。頼む」




 俺は、今回はなるべく急いで帰ってこようと決心し、その日は、1つのベッドで4人で一緒に眠りについたのだった。

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