44 新ギター完成
集落に戻ってきて、俺はすぐにイサクさんの元を訪ねた。
さすがはフォーレン随一の木工職人。俺がいない間にギター本体のほとんどが出来上がっていた。
「イサクさん!すばらしいです!ありがとうございます!」
俺は、ダスカで製作してもらった金属部品をイサクさんに見せた。イサクさんはその1つ1つをじっくり見ながらこう言った。
「これは、いい仕事だ。腕のいい職人に出会えたんだな、シグマくん」
「はい、最高の鍛冶屋さんに作ってもらいました!」
「よし、これなら完璧に仕上げられそうだ」
俺は、最後の仕上げをイサクさんにお願いし、意気揚々と家路に着いた。
数日後。
とうとうギターが完成した。
イサクさん渾身の一本だ。
なんと、表面はちゃんと塗装もされている。ニスっぽいものでちゃんと仕上げてくれているのだ。
しかも、素材は精霊神樹。うっすらと光っている。
俺はその出来上がりを見て、うれしさのあまり思わずイサクさんに抱きついてしまった。
「イサクさん!ありがとうございます!想像以上の出来です!俺、めちゃくちゃ感動しています!」
「あははは、そんなに喜んでくれたら、職人冥利に尽きるよ。こちらこそ、こんなに楽しい仕事は久しぶりだった。礼を言うよ」
もともとの俺の相棒と比べてみたとしても、全然見劣りしない。
色は若干明るくなったけど、それもまたいい感じだ。
と、ヘッドの部分にすこし窪みのような意匠が施されているのを見つけた。
「あれ? ここ、なんか窪みがありますね」
「あぁ、そこかい。そこはちょっとした遊び心だ。今は持ち合わせがなかったんだけど、キレイな宝石でも嵌め込んだらかっこいいだろ?」
「おぉ、なるほど」
そうか、ヘッドに宝石。かっこいいかもな。
とにかく、早速弾いてみたい。俺はいても立ってもいられなくなり、急いで弦を張り始めた。
これも、カンベエさんの力作だ。
イサクさんの工房の片隅を借りて、弦を張る。
ギターの弦を張るなんて、久しぶりだ。なんだか、感慨深いな。
一通り弦を張り終わり、少し鳴らしてみた。
うん、うん。大丈夫そうだ。フレットの位置も完璧だ。音に狂いはない。
少し指慣らしをした後、俺は、神木の歌のアコギバージョンを弾いてみる。
これを弾いてると、祭りの日を思い出すなあ。
「あぁ、神木の歌だな」
イサクさんが鼻歌で乗ってきてくれる。
弾き終わると、イサクさんは拍手してくれた。
あぁ、気持ちいい。
「問題ないかい?」
「はい、大丈夫そうです!本当にありがとうございました!!」
俺はイサクさんと握手して感謝を伝え、預けていたギターケースにギターを入れて工房を出ると、走ってリィサさんの家に向かった。
「リィサさん!リィサさん!完成、しましたよ!ギター!……はぁ、はぁ」
「まあ、シグマくん、そんなに息を切らして、大丈夫かい」
リィサさんの家に着くと、テレサさんがびっくりした顔で出迎えてくれた。
「あれ、あれま!新しい楽器、完成したんだね!」
「はい!リ、リィサさんは、いますか?」
「ちょっと待っておくれ。リィサー!リィサー!シグマくんが来てるよー!」
テレサさんが、奥の方に声をかけると、リィサさんが奥から慌てて出てきてくれた。
「シグマくん!とうとう完成したのね!」
「はい、これ!見てください!」
俺はケースを開いて、イサクさんから受け取った新しいギターをリィサさんに見せた。
「わあ、すごい。これ、完璧じゃないの?」
「はい、ちょっと弾いてみましたけど、問題なさそうです!」
「よかったわね!……よ、よかった……」
リィサさんの目から涙がこぼれ落ちた。
え、リィサさん、泣いてくれてるのか?
全然泣かすつもりとかなかったので、俺は戸惑ってしまった。
「ほんとに……よかった……」
リィサさんは、ずっと気にしていたんだ。自分をかばって、俺のギターが壊れてしまったことを。
「リィサさん。……な、泣かないでください。ぎゃ、逆に!こんなに素晴らしいギターが手に入ったんです!良かったと思いましょう!」
「……う、うふふ。そうね。ごめんね、泣いちゃって」
リィサさんが涙を拭う。いやあ、女性の涙っていうのは、やっぱり破壊力すごいな。どうしていいかわかんないもんな。
あ、レイの涙は、よく泣きすぎるから慣れちゃったけど。
「ねえ、もうちょっと、よく見せて」
「あ、私にも見せておくれ」
「はい、どうぞ」
リィサさんは、改めて新しいギターを眺めはじめた。テレサさんも、一緒になってよく見ている。と、そこで、リィサさんがヘッドの窪みに気づいた。
「あれ? シグマくん、この窪みは何?」
「あぁ、それ、イサクさんの遊び心で。そこに何か、宝石でも嵌めてみたらかっこいいだろ? って」
「なるほどー。それ、いいかもね。……あ!」
そう言うと、リィサさんは何かを思いついたように立ち上がり、自分の部屋から何か持ってきた。
「この石、どうかしら」
そう言って、綺麗な緑色の石を見せてくれた。
「あ、良さそうですね。ちょっと嵌めてみますね」
俺は、ヘッドの部分の窪みに、その石を嵌めてみた。
意外な事に、まるで誂えたかのように、ぴったりとそれは嵌った。
「うわ、ぴったりです」
「うふふ、本当ね。その石、あげるわ」
「え!いいんですか!」
「ええ、いいわよ。これは私からの、完成祝い」
「うわあ、ありがとうございます!!」
「この石はね、回復魔法が込められてるの。仕事で作った試作品なんで、効果は大した事ないと思うけど、一応本物の魔石なのよ」
魔石!そうか、これは魔石なのか!…ってことは?
「これを嵌めて、演奏したら魔法が発動するとか、そんなことはないですよね?」
「え、わからない。ひょっとしたら、そういう事も可能かも。だってこれ、精霊神樹でしょ?」
そうだった。魔力を増幅する効果があるという精霊神樹。そんなすごい素材で、このギターはできているのだ。
「ちょっと弾いてみますね」
俺はそういうと、ギターを構えて神木の歌を弾きはじめた。
だけど、何も変わらない。
あれ? 何も変わらないのか?
じゃあ、試しにバンダナを外して、自分の魔力を循環させてと。それをギターに注ぎ込むイメージで。
うーん、これで、どうだ!
すると、次の瞬間。ヘッドに嵌め込まれた魔石が光りはじめた。
「おぉ!すごい!」
そして、俺とリィサさんとテレサさんを緑色の光が優しく包み込んでいく。
お、なんか体の疲労感が取れた気がする。
「すごい!すごいわ!シグマくん!回復魔法が発動したわ!」
「あぁ、肩こりがすっきりしたよ!」
なんてこった!これはすごいぞ!ギターが魔道具になっちゃった!
「あの、これってすごい事じゃないですか?」
ギターを置いて、俺は興奮気味にリィサさんに言った。
「すごいことよ!これ、魔石を付け替えて使えば、いろんな魔法が使えるってことじゃない?」
なるほど!そうか!やばいな!
俺、無属性魔法しか使えなかったけど、これで可能性が一気に広がったんじゃないか?
今、演奏してわかったことは、魔力を注ぎ込まないと魔法は発動しない、つまり普通のギターと同じって事だ。
でも、魔力を注ぎ込んで演奏すると、魔石に込められた魔法が発動してくれる、そういうことなんだろう。
「ちょ、これ、どうしたらいいんでしょう」
「そうね。まずはやっぱり、ダズワルドさんに相談よね」
「そうですね、それが一番ですよね」
俺は、ひとまず興奮がおさまるまでリィサさんの家で休憩させてもらい、落ち着いたところで家に帰った。
家に着くと、俺宛てに一つの荷物が届いていた。
差出人は……カンベエさんだ。
「ん? カンベエさんから荷物? なんだろう。俺、なんか忘れ物でもしたかな」
俺は、ギターケースを下ろし、届いた荷物を開封してみることにした。
「え、なになに? カンベエさんから荷物?」
レイとミルラが興味を示して見に来る。
開けてみると、まず一通の手紙が入っていた。なになに?
「シグマくんへ。先日はありがたいお土産、ありがとう。せっかくもらった貴重な素材なので、早速、一番ふさわしいものを作ってみた。どうか、使ってみてくれ。カンベエより。……だって」
「一番ふさわしいもの?」
『なんやろな』
俺は、包装紙を破り、中の木箱の蓋を開けた。
おいおいおい、なんてこった!
そこには、七色に輝く、6本の弦が入っていた。
「おぉ!弦だ。ギターの弦だよこれ。カンベエさん、アウラライトで弦を作ってくれたんだ!」
「すごーい!きれー!」
キラキラと輝く6本の弦。こんなの見たことない。
「ちょっともったいない気もするなあ」
『大丈夫や、オカンのウ◯コやろ?それ』
言うな、言うな。
「ミルラ、お前たちドラゴンから見ればそうかもしれないけど、俺たち人間にとってはこれはめちゃくちゃ貴重な金属なんだぞ」
『ふぅーん。まあ、どっちゃでもええけど』
「ねえ、ねえ、シグマ!それよりさ、ミルラにギターの演奏、聞かせてあげなよ!」
あ、そうか。レイはミックとして何度も俺の演奏聞いてるけど、ミルラは知らないもんな。
「じゃあ、せっかくだから、このアウラライト弦、使ってみよっか」
「あ!そうだね!それいいかも!」
俺は早速、カンベエさんの贈り物であるアウラライト弦に張り替えてみた。
七色に輝く弦。見た目のインパクトもすごい。
「じゃあ、早速」
ポロロン、っと弾いてみる。
いや、俺もなんとなくは予想してたんだ。なにしろ、アウラライトという金属は半永久的に魔力を発すると聞いていたから。
俺が、神木の歌のイントロを弾き始めると……。
魔力を込めていないのに、魔石が光り出し、回復魔法が発動されたのである。




