42 すごいお土産
火山地帯の調査も無事終わり、残るはギターの金属部品を手に入れるだけとなった。
マーロンさん達は、一足お先に王都へ帰っていったが、俺たちが帰るときにはスピードの速い竜車を手配してくれると言っていた。帰る準備ができたら、市役所に届け出ればいいらしい。ありがたい話だ。
鉱山の詰所付近に古龍が現れたという噂は、結構な勢いで広まり、そこから降りてきたということで、俺もレイもちょっとした有名人になってしまった。嫌だなあ。街を歩きづらい。
でも、どちらかというと、鉱夫の皆さんには感謝される事が多い。どうやら、王都からの調査隊と俺たちが問題を解決たおかげで、鉱山付近に魔物が出なくなった、という噂が広まっているみたいだ。
まあ、大枠間違いではないし、古龍に乗って帰ってきたのも目撃されてるんだから、否定しようはないんだけれど。なんか、面と向かってお礼とか言われると、ちょっと恥ずかしいよな。
あと、約束だった監視魔法を緩くするという件、レイは断ったみたいだ。自分がやましいことをする気はもちろんないのだが、自分に何かあった時に逆に助けになるかもしれないから、と言っていた。マーロンさんもそれで納得していたから、まあいいんじゃないかと思う。
「そろそろ、キンカン工房に行ってみるか」
あれから2、3日ゆっくり過ごし、すっかり疲れも取れた俺たちは、鍛冶屋のキンベエさんカンベエさんの元へ向かう準備を始めた。
部品製作をお願いしてから、優に1週間以上は経っている。多分、もう出来上がっているだろう。
乗合馬車に乗って南地区まで移動した俺たちは、いつもの裏路地を通ってキンカン工房までやってきた。
レイはいつもの如くミランダに姿を変えて、一緒に中に入る。
「こんにちはー!」
元気よく声をかけると、奥からキンベエさんとカンベエさんが一緒に出てきてくれた。
「おぉ、ミランダちゃん。シグマくん。待っとったぞ」
「シグマくん、部品ならできとるぞ。ちょいと見てくれ」
お二人は俺たちを歓迎してくれた。早速俺はカンベエさんが取り出した大きな木箱を開けて、その中身を見た。
「お、おぉぉぉ!すごい!完璧だ!」
出来上がった部品達は、そのオーダー通り、完璧に仕上がっていた。
「一応、預かっとった見本の通りに仕上げたつもりじゃがな。ちなみに弦はこれじゃ」
輪の形に纏められている6本の弦を見てみる。すごい。細い弦から太い弦まで、完璧に仕上がっている。ちゃんと太い弦はコイル状に綺麗に巻いてある。
「素材もな、柔軟性と硬さのバランスを取るために、コパ鉱80%にズム鉱20%の割合で配合しといた。それから、錆びにくいようにコーティングもしておいたぞい」
なんてこった!こちらがお願いしていない金属の配合やコーティングまで考えて作ってくれたのか!すごい!すごいよカンベエさん!
「す、す、す、すごいです!カンベエさん!俺、感動しました!ここまで完璧に仕上げてもらって!お礼のしようがありません!」
「ほっほっほっほ。ちょっと職人魂に火がついてしもうただけじゃ。喜んでもらえて儂も嬉しいわい」
カンベエさんがにこやかに笑う。俺は本当に感動して、しばらくその惚れ惚れするような完璧な部品達を、1つ1つ眺めていた。
「おや、ミランダちゃん、この刀、少し刃こぼれしとるな」
隣でキンベエさんとミランダ、というかレイは譲ってもらった刀を見せていた。
「ちょっと待っとれ。調整してくるわい。シグマくん、君の短剣は大丈夫かい?」
「あ、俺の短剣は一度もまだ使ってません」
「ほ、そうかいそうかい。じゃあ、ミランダちゃん、ちょっとこれを預かるぞ」
キンベエさんはそういうと、レイの刀を持って、奥の工房に引っ込んでいった。
あ、そうだそうだ。忘れるところだった。
「カンベエさん、実はですね、お土産があるんです」
「そう、カンベエさんビックリするわよ!」
俺は、カバンの中から麻袋を取り出した。そしてそれをカンベエさんの目の前に、ドン!っと置いた。
「なんじゃ? 開けていいかの?」
「はい、ぜひ!」
カンベエさんが麻袋を開く。するとその中身を見たカンベエさんの目が、これでもかというくらい見開かれた。
その中には、20センチほどの七色に光る石が、ごろごろ入っている。
「お、おい、これはひょっとして!」
「はい、アウラライト鉱石です」
実は、火山の最奥部で、アグニクスさんの背中のトゲを抜いた後。
和やかな雰囲気になって落ち着いたときに、ふとアグニクスさんの傍に光るモノを見つけたんだ。
「なあ、レイ。あそこ、なんか光ってない?」
「え、どこ? ……あ、あぁ、ほんとだ。なんか光ってるね」
俺は、少し興味本位で、その光るモノのほうへ近づいていった。
そこには、七色に光る石ころみたいなものがいくつも落ちていた。
なんだろう、これ。きれいだなあ。
すると、その様子に気づいたアグニクスさんが、アワアワしはじめた。
『ちょ、ちょ、ちょっと!何してるんや!それ!恥ずかしいやん!』
え、恥ずかしい?
『そんな恥ずかしいもん、拾わんとってーな』
「これ、恥ずかしいモノなんですか? すごくキレイですけど」
『いやーん、もう、それは私の、……排泄物やで』
……排、泄、物?
ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!
排泄物ってことは、ウ○コってこと?
「ちょっと、待って!シグマくん!それ、それってアウラライト鉱石じゃないか?」
「あ、そうよ、シグマ、それ!私が昔探してた、アウラライト鉱石よ!」
『なんや、レイちゃん。探してた石ってこれのことなん?』
待て待て待て待て。いろんな所からいろんな情報が錯綜している。ちょっと整理させてくれよ。
「マーロンさん、レイ、ごめん。ちょっと混乱してる。これ、これがあの、幻と言われてる鉱石なの?」
「あぁ、多分そうだ。ちょっと見せて」
マーロンさんに、1つ渡す。レイにも。ホイッスルさんにも。
「……ま、間違いなさそうですね、マーロン様」
「あぁ、これは、すごいな」
みんながそう言うんならそうなんだろうけど。
うーん。アグニクスさんのさっきの言葉、言ったほうがいいよね。
「あ、あのですね、その、それ、アグニクスさんの……排泄物、だそうです」
「……!!!」
全員が絶句する。
そして、全員がゆっくりと、その石を地面に置いた。
アグニクスさんの説明によると。
ドラゴンは基本的に食事を摂らない。それは、ミルラを見ていて知っていたのだが、それは厳密に言うとちょっと間違いで。
普段、ドラゴンは空気中に漂っているエネルギー、そう、俺たち人間が精霊魔法の根源として使っているあのエネルギーを、皮膚から吸収して糧としているそうだ。
だから、口からの食事を摂らなくても、生きていける。
ただ、たまーに、本当にまれに、口からモノを食べる事もあるそうなのだ。それは、石だったり、草だったり、いろいろ食べるんだそうだが。
でも、口からの食事を滅多にしないため、排泄も滅多にしない。それこそ、何十年何百年に一度、するかしないからしい。若いドラゴンなんかは、生まれてから一度も排泄をしていないのが普通だそうだ。
そんな長い年月、ドラゴンの体の中で、口から摂取したものと精霊エネルギーが蓄積されていって、まあ、どんな科学変化を起こしてるのかはわからないけど、排泄されるのが、このキレイに光る石なのだそうだ。しかし、どんな体の構造してるんだろうな、ドラゴンって。
「そりゃあ、貴重なはずだわ」
俺はそう言ってまた、そのキレイに光る石、アウラライト鉱石と人間が呼んでいる貴重な石を拾い上げた。するとそこから魔力が溢れ出してくるような感覚に見舞われた。そうか、半永久的に魔力が溢れてくるっていうのは、古龍の魔力が凝縮されているからか。
『ワイも、生まれてこの方、一回も排泄したことないで』
ミルラがそう言う。へえー、やっぱりそういうもんなのか。
「でも、じゃあいずれ、ミルラもアウラライト鉱石を生み出す可能性はあるんだな」
『まあ、そういうこっちゃろうな、だいぶ先の話やろうけど。あ、でもドラゴン全部がそうってわけやないで。ワイらの種族だけや』
あぁ、古龍と言われている彼らだからこそ生み出せるお宝なんだな。
「あの!アグニクスさん!これ、持って帰ってもいいですか?」
『え!そんなもんで良ければ、別にええけど。あんたも物好きやな』
いやいやいや、これが人間の間でどれだけ重宝されているのか、あなたは知らないだけですよ。
「マーロンさん!これ、持って帰ってもいいらしいですよ!すごい大発見じゃないですか!」
「あ、あぁ。そうなの?……僕は、いらないや。シグマくん、どうぞ」
「わ、私も、遠慮しておきます」
え、なんで? 変なの。ウ○コだって言っても、こんなにキレイな鉱石なんだよ? そこ、そんなに気になるかねえ。
「じゃあ、レイ。持てるだけ持って帰ろうぜ。キンベエさん達にお土産だ」
「あぁ、そうだね!キンベエさん達、喜んでくれるよね!」
こうして俺とレイは、アウラライト鉱石を持てるだけカバンに詰め込んで、持って帰ってきたのだった。
「おいおいおい、アウラライトじゃと? お前さん達、これをどこで!」
カンベエさんは鉱石をひとつひとつ手に取りながら、不思議そうにそう尋ねる。
「それは、ナイショです!でもこれ、間違いなくアウラライト鉱石ですよね?」
「ああ、間違いない。この輝き、ツヤ、どこからどう見ても正真正銘のアウラライトじゃ。しかも、これほど純度の高いものが、まだ存在してたとはな」
腕利きの鍛冶屋カンベエさんがそう言うんなら、間違いないな。
「おーい、おーいキンベエ!ちょっと来てみろ!すごいぞ!」
カンベエさんに呼ばれて、キンベエさんが奥から出てきた。そして、机に並べられた鉱石を見るやいなや、それにガバッと飛びついた。
「おぉぉぉぉぉ。これは、これは。久しぶりに見たのう。アウラライト。これはすごい。こんなに大量に、どこで手に入れたんじゃ?」
「うふふふ、それはナイショよ」
レイも一緒になってうれしそうにそう言った。
「で、これ、今回部品製作のお代もサービスしてもらいましたし、武器も格安で譲っていただいたんで、俺たちからの気持ちです。お二人、受け取ってください!」
「な、なんと!」
「本当かい!」
「うん、遠慮せずに受け取って!」
「それは、それは。ありがたい話じゃ。こりゃあ、儂らもまだまだしばらくは引退できんのう!」
「ああ、こんなにいい素材が手に入ったんじゃ!腕がなるわい!」
やっぱり、職人さんだなあ。いい素材が手に入る事が一番うれしいんだと思う。イサクさんもそうだったし。
そうして、キンカン兄弟と和やかに談笑してると、頭上から聞き慣れた声が聞こえてきた。
『おいおいおい、自分ら話長いんちゃうか? いつになったらワイの存在に気づくんや?』
……え? ミ、ミルラ?




