41 本当の理由は
それから俺は、古炎龍アグニクスとミルラの会話を、みんなに通訳するのでめちゃくちゃ忙しかった。
『そうか、アンタら、この子をここまで連れて来てくれたんやな、すまんかったなあ』
古龍にお礼を言われた。
『しかも、ミルラ、なんていう立派な名前までつけてもろて。ウチはずっとこの子のことはボンって呼んでたんやけど、ええなあ、ミルラ。ええ名前や』
聞けば、古炎龍アグニクスにとって、ミルラは最後の子供。しかも、他の兄弟とはものすごく歳が離れてて、彼らはとっくに独立していなくなったんだけど、その後に生まれた末っ子だから可愛くて仕方がなく、過保護も過保護に育てて来たんだそうだ。
だが、ミルラにとってはそれが煩わしかったらしく、あまりに猫かわいがりするものだから、嫌気がさして家出したんだって。
まあ、長い家出だこと。
ただ、ドラゴンの寿命から考えたら、ほんのちょっとした家出くらいの感覚なのかもな。
「ミルラの名付け親は、このレイです。あと、ここに来るのを渋っていたミルラを無理矢理連れて来たのも、レイなんです」
『あぁ、そうやったんかいな。レイちゃん、小娘なんて言うてすまんかったなあ。うちの子がえらい世話になってしもて』
「アグニクスさんがお礼言ってるぞ、レイ」
「え、あ、はい!ミルラは私の数少ない大事な友達なんで!友達なら当たり前です!」
『そうか、そうか。ええ娘やなあ。ボンも、ええ友達できたやんか』
『ま、まあな』
おいおい、ミルラ。まるっきりオカンの前でいい格好してイキる中二の態度じゃねえか。ぷぷぷ。
「あ、それはそうと、お話を戻していいですか、古炎龍アグニクスよ」
そうだ。マーロンさん達の本題の解決がまだだったな。
「つい先ほどまで、断続的にあなたの呻き声のようなものが火山中に響き渡っていたのです。それによって魔物達が混乱しているようなのですが、なぜそのような声を?」
『呻き声?……あぁ、すまんすまん。あれはな、ちょっと背中が痛くてな』
……え?
『なんかなあ、背中にトゲが刺さってしもたんや。自分で取ろうにも、どうしても手が届かへん場所ってあるやろ? そこにちょうど刺さってしもててな。どうしても気になって気になって、ウンウン唸ってたんや』
……え? トゲ???
ミルラはそれを聞くと、飛んでアグニクスさんの背中を見に行った。
『おぉ、おぉ、おぉ。確かに、なんか刺さっとるな。これは、トゲっていうよりも、なんか、尖った岩やで』
「レイ、アグニクスさんの背中になんか刺さってるらしいんだ。ちょっと見て来て」
「オッケー」
レイは、一瞬のうちにジャンボマックスになった。そして、アグニクスさんの背中を見て「あー、ほんとだ」と言って、帰って来た。
「あれ? お前、抜いてあげなかったの?」
「無理だよー、自分を大きく見せることはできても、大きな力は出せないよ」
なんだよー、使えねえな!「見た目」だけ変えるこの能力は!
「アグニクスさん!少し、背中に登っても大丈夫ですか?」
『あ、アンタら、トゲ取ってくれるんかいな。ありがたいわあ、お願いするわ』
「マーロンさん、ホイッスルさん。アグニクスさんの背中に登りましょう」
「承知しました!」
「あははは、すごい体験だなあこれは」
俺たちは、少し屈んだアグニクスさんの体を尻尾の方から登り始めた。ちょっとした登山だ。
背中の真ん中あたりに到達すると、確かに大きな尖った岩がブッスリ刺さっている。
「ここは、私にお任せください」
そう言ってホイッスルさんは、岩に手を回すと、渾身の力で引き抜き始めた。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!どっせぇぇぇぇぇぇぇぇいいいい!!!!!」
大きな雄叫びを上げて、ホイッスルさんは岩を引き抜いた。出て来て分かったのだが、長い三角錐型の本当にトゲみたいな岩だった。これが刺さってたのか。痛そうだ。
岩が引き抜かれたと同時に、血が吹き出して来た。
慌ててマーロンさんとレイが回復魔法を施す。二人がかりでも、完全に血が止まるまで結構な時間がかかった。
『あぁー、取れた。あぁー、スッキリした。ケガの跡まで治療してくれて、ホンマにおおきにな』
「いやあ、人生でまさか古龍に回復魔法をかける事があるなんて、貴重な体験だった」
なんか、あの最初の竜圧にびびってたのはなんだったんだろうと思うほど、和やかな雰囲気になってきたな。
「これで、もう呻き声を上げることはありませんよね?」
一応、アグニクスさんに確認しておいた。
『あぁ、もう大丈夫や。なんか、迷惑かけてたみたいで、すまんかったなあ。ここらの魔物にはウチからもちゃんと言うとくわ。大人しくしとけって』
「ありがとうございます!」
よかった。これで万事解決じゃないだろうか。
俺はマーロンさんに指でOKサインを出した。
「マーロンさん、これで調査は終了ですね!」
「あぁ、そうだね。これも、シグマくんとレイさんのおかげだね」
「いやあ、それほどでも。なあ、レイ」
「はい、お役に立てたのならうれしいです!」
『あんちゃん、レイちゃん、なんやすっかり世話になったな。おおきにな』
ミルラからもお礼を言われた。
「何言ってんだよ、俺たち3人、友達だろ?」
「そうだよ、ミルラは大事な友達だよ?」
『たはははー!ようそんなくっさいセリフ言えるなあ、自分ら』
そう言って俺たちは笑いあった。
まあ、なんにせよ、無事に解決できてよかったよ。
「さて、じゃあ一旦ダスカに戻ろうか」
ひとしきり問題解決の余韻に浸った後、マーロンさんがそう言ってきた。
「そうですね、戻りましょうか。……あー、でもなんかこの道のりをもう一回戻るのは、憂鬱ですよね」
でも、仕方がない。ワープでもできない限り、来た道をもう一度歩いて帰るしか方法はないもんな。
『なんや、もう帰るんかいな。送っていったろか?』
古炎龍アグニクスがそう言った。
送っていったろか?? え? どうやって?
『ダスカって、あの麓の壁に囲まれた街やろ? 送っていったるわ』
いやいや、お母さんが家に遊びに来た友達を車で送っていく、みたいなテンションで言ってますけど、どうやって?
すると、アグニクスさんは首を真上に持ち上げ、天井に向かってブレスを吐いた。
ごおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
うっそーん。古龍、やること、常識はずれー!
俺たちは、開いた口が塞がらなくて、ポカーンとしている。
天井には、古龍のブレスによって、ポッカリと巨大な穴が空いていた。
『さあ、ウチの背中に乗りや』
えぇぇぇぇ!!マジですか!!いや、もうわけわかんないけど、これは従うしかないですね!
俺たちは恐る恐る、先ほどと同じように尻尾の方からアグニクスさんの背中に登った。
『よう掴まっときや。いくで!!』
そう言うと、古炎龍アグニクスは、その大きな翼を広げ、天井の大穴を通り抜けて大空へと飛び出した。
ミルラも、飛んでついて来ている。
「う、うわぁ」
外は、ちょうど朝日が登って来たところだった。眼下に、朝日に照らされたニルダスカ山脈の山々が見える。
「すげぇ」
こんな景色、この世界の誰も見た事がないんじゃないだろうか。
飛行機も、ドローンもないようなこの世界。
上空からこの雄大な大自然を、こうやって見る事ができた。
それだけでも、十分なご褒美だと、俺は思った。
「あ、馬車を取りにいかなければ!」
ホイッスルさんが思い出したようにそう言う。
そうだ、鉱夫の詰所に馬車を預けたままだ。御者さんもそこで待ってくれているはずだ。
「アグニクスさーん、すみません!ダスカの街じゃなくて、あそこに見える詰所で降ろしてもらえますかー!」
俺はアグニクスさんの頭の方に向かって大声でそう言った。
『あいよー』
アグニクスさんは頷くと、ぐるっと旋回して鉱夫の詰所の前に着陸してくれた。
詰所の中から竜人の鉱夫さん達が、「何事だ」とばかりに飛び出してくる。そして、目の前に現れた巨大なドラゴンに畏れおののいていた。
「ありがとうございました。送っていただいて」
『いやいや、ええねん、ええねん。世話になったお礼や。また、遊びに来てや』
いやあ、なかなか気軽に遊びにいける場所ではないですけどね。
「ミルラ、親孝行しろよ」
『あんちゃん、わかっとるがな。今までの分、取り戻すわ』
俺はミルラとグータッチした。
「ふ、ぐ、ぐぐ、えーーん。ミルラー。お別れなのー。やだー。ぶえーん」
レイが号泣している。
「レイ、またいつでも会えるって」
『せやで、レイちゃん。すぐに会いに行くさかい。泣かんとってーな』
「ミルラも、すぐに会えるって言ってるぞ」
「ぶえーん」
レイの泣き虫は当分直らないな。まあでも、気持ちはわかるけどな。
「では、古炎龍アグニクスよ。ありがとうございました」
マーロンさんが深々と頭を下げる。それにつられて、俺たちも頭を下げた。
『ほな。優しき人間達。またな』
そう言って、古龍とその息子は、火山に向かって飛び立っていったのだった。
帰りの馬車の車中で、マーロンさんとホイッスルさんは早速王都に報告するために今回の調査の経過についてまとめていた。
「ふむ。結局あの魔物の混乱の原因は、古龍の呻き声によるものだと結論づけていいよね」
「はい、それで間違いないと思います」
「で、その呻き声の原因は、背中に刺さった岩だった、と」
「はい、そうです」
「なんか、結果だけ見てると嘘みたいに単純な事件だったなあ、結構苦労したのに」
マーロンさんが伸びをしながら、残念そうにそう言った。
まあ、確かに結果だけ見ればそうだよな。
「まあまあ、マーロンさん。解決したんですから、良しとしましょうよ」
「そうだねえ」
「あ、でもひとつだけ」
「ん?」
「最後に一番近づいて呻き声を聞いた時、俺、確信した事があるんですが」
「え、なんだい?」
「アグニクスさんは、背中に刺さったトゲが痛くて呻いてたって言ってましたけど、あれ、半分本当で半分嘘ですよ」
「どうしてそう思うんだい?」
「だって、「ボーーーーン」って呻いてたんですよ、アグニクスさんは」
「ぼーーーん??……あ!!」
「そう、「ボン」。アグニクスさんは、背中に岩が刺さってから、ずっと家出しているミルラの名前を呼んでたんですよ」
「ああ、そういうこと?」
レイも俺の話に食いついてきた。
「確かに。古龍ともあろうものがあれっぽっちの岩が刺さったところで我慢できないとは思えないしね」
「なあんだ、お母さんはずっと息子、ミルラを呼んでたんだね。理由つけて。なんか親子どっちもどっちだね、うふふふ」
「まあ、これはあくまで推測ですけどね」
「いや、面白いね。……うん、面白い。報告書にも書いておこう。まあ、これはあくまで…」
「推測だけどね」
「推測ですけどね」




