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37 ドラゴンの弱点

 それから俺たちは、結構な時間、火山地帯を歩き回った。


 その間も、何度かあの不気味な音は聞こえてきた。

 だが、その音が何なのか、結局分からなかった。


 ただ少し気になったのは、不気味な音が聞こえるたびに、ミルラが小刻みに震えているように思えたことだ。


 調査中、何度か魔物にも遭遇した。火蜥蜴にも遭遇したし、グルルや、火蛇という大きな火を吐くヘビみたいな魔物とも戦闘になった。


 何度か戦闘をしてみて思ったのだが、ホイッスルさんの防御力はすごい。


 王都の騎士さんにもいろんなタイプがいるんだろうけど、シェイナさんはどちらかというと攻撃役タイプだった。対して、ホイッスルさんは防御特化タイプだ。おそらく、普段からそういう訓練を重ねてきているのだろう。

 戦闘になると、真っ先に自分が先頭に立ち、盾を構えて相手からの攻撃を一身に受けてくれる。その間に、他のメンバーは攻撃態勢に入ることができる。集団での戦闘を行う時には欠かせない役割だ。

 そしてホイッスルさんは、その盾役のエキスパートなんだということを実感している。


「ホイッスルさん、すごいですよね。防御力なら、王都一じゃないですか?」


「いえいえ!私などはまだまだです!日々、鍛錬です!」


 真面目だし、実直だし、防御力ナンバーワンだし。ちょっとホイッスルさんの見方が変わったな。


 あとは、ミルラだ。空中を飛び回ることができるというのは、やはりとんでもなくアドバンテージで、魔物の手の届かない場所から急降下して攻撃できる。また、さすがはドラゴンとでも言うべきか、炎のブレスを吐く事もできる。ただ、炎のブレスに関してはやはり火山の魔物にはあんまり効かなかったけれど。



「さて。そろそろ、今日の調査はこれくらいにしておこうか」


 一日中歩き回って、魔物の相手もして、疲れが溜まってきた所だった。マーロンさんが今日は帰ろうと提案してきた。


 俺たちは、来た道を戻って行き、馬車を預けている鉱夫の詰所まで帰ってきた。

 こういう時って、行く時は遠く感じるのに、帰りは近く感じるのはなんなんだろうな。


 詰所で待っていてくれた御者さんに声をかけ、俺たちは馬車に乗り込んだ。



 それから数日間、俺たちは毎日火山地帯に入り、中を調査して回った。

 だが、特にこれといった収穫もないまま、いたずらに時間は流れていった。



 とある日の調査帰り、マーロンさんが俺に話しかけてきた。


「シグマくん、これまで火山地帯に入ってみて、何かわかったことはあるかい?」


「うーん、そうですね。……やっぱり、気になるのは、あの音ですね」


「ああ、やっぱり君もそうかい。あの音は何なんだろうね」


「ええ、何の音かも気になるんですが……」


 俺は、この数日で感じたことをマーロンさんに言ってみた。


「なんとなくなんですけど。あの音が聞こえた直後に、よく魔物と遭遇していた気がするんです」


「ああ、……そう言われてみれば、そうかもしれない」


 そうなのだ。初めは偶然かもしれないと思っていたのだが、どうも、あの奇妙な音が聞こえた後に、魔物が異常行動を起こしているように感じたのだ。


「なんらかの因果関係があるかもしれないな」


「はい、明日はその辺をもうちょっと意識して調査してみましょう」


「……念のため、再度聞くが、ミルラくん。あの音に心当たりはないんだね?」


 マーロンさんにそう聞かれて、ミルラはビクッと反応し、明らかに動揺した感じでこう言った。


『ちょ、ちょ、ちょ、言いましたやん。知りませんって。知らん知らん』


 んー、怪しいなあ。これは何か隠してるな、こいつ。


「知らないそうです」


「そうか。まあ、何か思い出したら教えて欲しい」


 これは、マーロンさんもミルラの様子が変だと気づいてるな。

 俺は、マーロンさんに目配せして頷いてみせた。何とか、ミルラから隠していることを聞き出せないか、やってみます、という意味だ。

 マーロンさんも、少し微笑んで頷き返してくれた。


 馬車は俺たちを青空亭の目の前まで送ってくれる。

 そして次の朝またここまで迎えにきてくれるのだ。毎日毎日ありがたいことである。


 マーロンさん達に別れを告げて馬車を降りた時には、すっかり日は落ちて夜になっていた。


 部屋に戻った後、俺はレイとミルラを残して少し出かけることにした。

 レイは、一緒についていくと言ったのだが、ミルラを見張っておいて欲しいと耳打ちし、そそくさと出かけた。


 目的地は、行商キャラバンだ。


 グルルの襲撃でダメージを受けた車両を修理すると言っていたので、まだダスカに滞在しているはずだ。


 俺は早足で、キャラバンが駐留している広場に急いだ。


 案の定、行商キャラバンはまだそこにいた。中から明かりが漏れている。

 ダメージを受けていた車体の外壁も随分と修理されて復活してきているように見えた。

 あれからまだそんなに時間は経っていないのに少し懐かしい気分だ。俺は、勢いよく扉を開けて中に声をかけた。


「こんばんは!」


 中では、みなさんが勢揃いで夕食の真っ最中みたいだった。

 真っ先にこちらに気がついたのは、ピピンさんだ。


「おぉ!シグマじゃねえッスか!どうした!よく来たッスね!」


 ピピンさんがそう言うと、一斉に他の皆さんも、「おお!シグマ!」「入れ入れ!」「飯食っていくか?」などと次々に声をかけてくれる。

 最後にバーソロンさんが、ゆっくりと満面の笑みで俺に尋ねてきた。


「シグマ、どうした。何か困りごとか?」


 俺は、皆さんの温かさにちょっと泣きそうになりながら、中に入れてもらった。


「実は、ケルコフさんとドルコフさんに相談がありまして」


 そう。行商キャラバンを訪ねたのはドラゴンテイマーのお二人に相談したかったからだ。

 なにしろ、ドラゴンとのコミュニケーションに関しては、このお二人はプロだ。困った時にはプロに話を聞くに限る。


 俺は、「お食事中すみません」と言いながら、ケルコフさんとドルコフさんの間に座らせてもらった。


「ドラゴンテイマーであるお二人にお伺いしたいことがあるんです」


「おう、何でも聞いてくれよ」


 ケルコフさんが骨つき肉を頬張りながらそう答える。


「あのですね、最近小さなドラゴンの仲間ができたんですよ、俺」


 ケルコフさんがブフッとに肉を吹き出してこちらを見た。


「な、なんだって!ドラゴンの仲間?」


 あれ? まずかったかな。普通、ドラゴンってそう簡単には仲間にならないのかな。


「がっはっはっは。シグマならあり得るんじゃないか? この常識はずれ坊主なら!」


 バーソロンさんが笑いながらそう言う。え、俺ってそんな印象なの?


「あ、すみません。違うんです。レイの!そう、レイの元々の友達で!」


 俺は必死に言い訳を考えたが、レイの特殊なキャラクターに頼ることにした。あいつだったら、ドラゴンの友達がいても不思議じゃないだろう。何しろ、みんなの前で巨大化して見せたんだし。それに、嘘じゃないもんな。実際そうだもんな。


「あ、そうか。レイちゃんの!なるほどな!」


 完璧に納得してくれた。


「それでですね、あのー、ドラゴンとコミュニケーションを取りたいんですけど、どうもうまくいかないんです。なんか、向こうが警戒してると言うか」


 これは嘘だ。


「そこで、ドラゴンが好みそうな物とか、逆に苦手な物とか、教えていただけないかなと思いまして」


 要するに、物で釣る作戦だ。

 ミルラはドラゴンは食事をほとんど取らないと言っていたので、食べ物で気を引くことは難しい。

 だったら、何かドラゴンが好みそうな物で釣るしかない。


 ドラゴンテイマーのお二人なら何か知ってるんじゃないかな、と思ったのだ。


「おお、だったら竜虜香がいいんじゃないか?」


 ドルコフさんがそう言った。


 竜虜香。初めて聞く名前だな。


「竜虜香、って、なんですか?」


「ああ、大陸の西の方に生えているドメラロ草っていう植物の実のエキスから作られた、お香だよ。独特のいい匂いがするんだけどな。どういうわけか、ドラゴン達はその匂いを嗅ぐと、メロメロになっちゃうんだ」


 メロメロ!!猫にとってのマタタビみたいなものかな。


「そんなお香があるんですね!」


「ああ、ドラゴンが癇癪を起こしたり、機嫌を損ねたりした時に使うんだ。ドラゴンテイマーなら誰でも持っているぞ」


「なんだったら、少し分けてやろうか?」


「本当ですか!」


 それはありがたいなあ。思いがけず、めちゃくちゃ有効そうな代物を教えてもらった。しかも、分けてもらえるとは!


「ちょっと待ってな」


 そう言うとケルコフさんは、車両の前方にある棚から瑠璃色の液体が入った大きな瓶を持ってきた。そしてそれを、小さな小瓶に入れ替えて、俺に渡してくれた。


「こりゃあ、効き目が抜群だから使いすぎには注意するんだぞ」


「はい、わかりました!ありがとうございます!」


 俺はケルコフさんとドルコフさんに何度も頭を下げた。二人は「そんなにお礼を言われるほどのことじゃない」と言ってくれたが、本当に助かった。


「それはそうと、シグマ、いい鍛冶屋は見つかったのか?」


 バーソロンさんが俺に尋ねてきた。


「はい!レイが知り合いの腕のいい鍛冶屋を紹介してくれたんです。カンベエさんという人で……」


 そこまで言いかけた時、バーソロンさんの目の色が変わった。


「なに!カンベエだって!……おい、ひょっとしてそれ、キンカン兄弟のカンベエか? 会ったのか?」


「あ、はい。部品製作も依頼しました」


「おいおいおい、なんてこった!レイはなんで知り合いなんだ!あの娘は何者なんだ一体!」


 バーソロンさんが天を仰いで笑っている。他の皆さんも、それぞれ驚いている表情だ。


「キンカン兄弟っていったら、ダスカの幻の名工だぞ。みんな彼らに仕事を依頼したくてしょうがないのに、ことごとく断られるって評判なんだ。それを、お前ら……すごいな」


 さすがは皆さん、商人なだけあってキンカン兄弟のことはよくご存知みたいだ。

 口々に、それがどのくらいすごい事なのか、説明してくる。熱量が半端ない。




 こりゃあ、……武器まで譲ってもらったとか、言わないほうがよさそうだな。

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