36 火山調査開始
マーロンさん達の元に戻った俺たちは、預かっていた資金を返しながらキンカン工房でのやりとりを報告した。
キンベエさんから破格の値段で譲ってもらった武器を見せると、特にホイッスルさんが目を輝かせて見ていた。そんなにすごい武器なのかな。
「こ、これはすごい!キンベエ作の刀なんて、市場にはほとんど出回ってはおりません!値段がつけられないほどの代物ですよ!おお、こちらの短剣もすごい!」
あれ? ホイッスルさん、ひょっとして武器オタク?
「とにかく、いい武器が手に入ってよかったね。じゃあ、あとは防具を揃えよう」
俺とレイは大通りの防具屋で、動きやすさ重視の軽鎧をそれぞれ買ってもらった。それにしても、子供用のサイズの鎧ってのもあるんだな。
「さて。準備も整った事だし。いよいよ火山地帯に出発だ」
俺たちを乗せた馬車は、ダスカの町を軽快に走っていく。どうやら、ダスカに到着した時とは別の門から外に出るようだ。
「もう一度おさらいしておこうか。今回の調査は、火山地帯で起きている魔物の異常な行動についてだ。その原因究明と解決がミッションだね」
馬車の中で最終確認が始まった。
「そうだ。ミルラ。お前の意見、聞かせてくれないか? 元火山の住人として、何か心当たりないかな?」
『ん? 魔物らの異常行動? んなもん知るかいな。あいつら、頭悪いからなあ。……まあ、強いて言うなら、何か普段の環境と違うことが起こった時に、ビビりよるわな。あいつら、頭悪いから』
頭悪いって、2回言ったな。そりゃあドラゴンの君から見たら、頭悪く見えるんだろうけども。
「シグマくん、ミルラは何と?」
「はい、魔物は頭が悪いから、何か普段の環境と違うことが起きると、びっくりするかもしれないと言ってます」
「普段の環境と違うこと、ねえ。なんだろう。噴火活動が活発になってるとか、かなあ」
「それは、火山だけにあり得ますよね」
だが、火山地帯で噴火が起こるというのは、珍しいことじゃないよな。と言うより、噴火が活発に起こっているから火山なのであって。それが魔物達にとって、普段の環境と違うということになるのだろうか。ちょっと違う気もするなあ。
そんな会話をしながら、馬車はダスカの北門を通過する。王都の紋章が入っている馬車は検問もなく、フリーパスだった。さすが。
ダスカを離れて火山の方に近づいてくると、だんだんと気温が上がってきた。北上しているのに暑くなってくるのは不思議な感じがした。
「シグマ、ちょっとずつ暑くなってきたね」
レイが、手で顔をパタパタと扇ぎながら言ってきた。その顔は少し汗ばんでいる。
見ると、ホイッスルさんの顔も真っ赤になっていた。
「そうだね、まだまだ耐えられるぐらいの暑さだけど、あらかじめ耐性をつけておこうか。覚えたての魔法で!」
マーロンさんが少しうれしそうにそう言った。新しい魔法を試したいみたいだ。マーロンさんほどの魔法の天才でも、やっぱり新しい魔法を使うのは楽しいんだろうな。
「じゃあいくよ。全適応」
マーロンさんが杖を掲げてそう唱えると、俺たち全員の体が薄く光り始め、その光がだんだんと強くなって眩しいぐらいになった時、シュッと光が消えた。
「さあ、どうだい? 今は暑いかい?」
「す、すごい!全然暑くない!」
「ほんとだ!めっちゃ快適だ!」
「私も大丈夫であります!」
「よしよし、大成功だな。一応言っておくと、この魔法、効果はまる1日続くからね」
マーロンさんは満足げにそう言った。
いや、でもこれすごい効き目だな。本当に暑くもなく寒くもなく、快適な気温に感じる。
「マーロンさん、これって全適応っていうことは、寒いのも平気なんですよね」
「ああ、もちろん。あらゆる環境に適応するんだ。なんと、水中でも活動できるんだよ?」
「え、水中も!すごい!」
マーロンさんがまたひとつ、常識はずれの超絶魔法を身につけたということか。この人はどこまですごい魔術師になっていくんだろうか。
すっかり暑さも和らいだので快適に進んでいると、馬車はとある小屋の前で停車した。
「さあ、着いたよ」
「えーっと、ここは?」
「ダスカの鉱夫さん達の詰所だよ。ここから先は足場が悪いからね。馬車では入れないんだ。だから、馬車はここに預けて、ここからは歩きだ」
「なるほど、そうなんですね」
俺たちは馬車を降り、鉱夫の詰所に入る。
中には、つるはしみたいな道具が乱雑に置かれていて、数人の竜人の鉱夫さんがいた。
ホイッスルさんが、その鉱夫さんの一人に何かの書類を渡しに行き、、二言三言会話を交わしてからこちらに戻ってきた。
「オッケーです。じゃあ、参りましょう」
先に馬車を預ける手配はしていたみたいだ。俺たちは詰所を出ると、馬車の御者さんにお礼を言ってから、火山地帯に向かって歩き始めた。
先程の話の通り、そこからはゴツゴツした足場の道になってきた。これは、馬車は通れないのもうなずける。
その分、とても歩きづらい。ミルラは、レイの肩から離れ、少し上を飛んでいる。レイの負担にならないように彼なりに気を使っているんだろう。優しいじゃん。
数十分ほど歩いた頃だろうか。足場の悪い岩場を歩いてきたせいか、さすがにちょっと疲れてきた。
熱さは全然感じないのだが、やはり疲労は溜まってくる。
「ふぅー。ちょっと疲れてきたね。少し休憩しよう」
マーロンさんも疲れてきてたみたいだ。少し岩に腰掛けて休憩することになった。
「本当なら、この辺りが限界なんだよ。これ以上進むと、人間が耐えられない熱さになってくる。僕たちの調査もここまでだったんだ」
そうか、マーロンさん達は先に調査を進めてたんだもんな。ここが人間の行ける限界地点なんだな。
「でも、あの魔法はすごいね。全然熱くない」
本当にそうだ。あの魔法をかけてもらってなかったら、今頃もう熱さと疲労でダウンしてただろう。
しばらく休憩して、体力も回復してきた。そろそろ先に進もうかと、全員が立ち上がった時。
遠くの方からかすかに地鳴りのような音が聞こえてきた。
……ぉぉぉぉおおおおぉぉぉん
「あれ、何の音ですかね」
「何だろう。僕たちも初めて聞くな。うーん、あ、そうだ。ミルラくん、ミルラくん。君は火山に住んでいたんだろう? あれは何の音かわかるかい?」
マーロンさんが、ミルラに尋ねる。
『お? う、うーん。なんやろうなあ。……ワイもようわからんわ、うん。知らん知らん』
「わからないそうです」
「そうか、しかし不思議な音だったな」
マーロンさんが首を捻っている。
あれ? なんか今、ミルラの返答、歯切れが悪かったな。気のせいかな。
「まあ、今は気にしないで、先に進もうか」
マーロンさんがそう言い、全員で歩き始めようとしたその時。
突然、前方から一匹の魔物がこちらに向かって突進してきているのが見えた。
それは、全身真っ黒の大きな蛇のような体に、4本の足がついたような。そう、トカゲみたいな魔物だ。
しかも、かなり大きい。人間の大人ぐらいの体長はありそうだ。
「みなさん、下がって!」
ホイッスルさんが俺たちの前を塞ぐように立ちはだかり、盾を構える。
俺たちはホイッスルさんに守られながら、各々戦闘態勢に入る。俺は急いでバンダナを外した。
ガキィィィン!!!
ホイッスルさんの盾が、魔物の突進を受け止める。ものすごい勢いの突進だったのに、完全に受け止めた。ホイッスルさん、すごい!
「マーロンさん!私、戦っちゃっていい?」
レイが刀を抜いて、マーロンさんに聞く。
「ああ、致し方ない。お願いする!」
「了解!」
レイはそういうと同時に、サイドステップで左斜め前に飛び出し、トカゲの脇腹あたりにもぐりこむ。
そして、左手に刀を持ちかえ、右手をトカゲに向け、脇腹に火球をぶちこんだ。
だが、トカゲはびくともせず、ホイッスルさんの盾の向こうからこちらに向かって手を伸ばしてくる。
「レイさん!火山の魔物に火魔法は効かないよ!」
「あ、そっか。じゃあ!」
レイは刀を握り直し、トカゲの腹を横一文字に薙ぎ払う。
キィィィィィン!!!
甲高い音を立てて刀は弾かれてしまった。どうやらこのトカゲ、全身が鎧のように硬いみたいだ。
「なによ!こいつ!硬い!!」
レイが手こずっている間に、トカゲは大きく口を開けて、盾の向こうから火の玉を吐いてきた。
あぶねえ!!
火の玉は俺とマーロンさんの間をかすめて通り抜け、背後で爆発した。こえええ!!!あんなの当たったら火だるまじゃん!!
ミルラが、トカゲの頭の周りをぐるぐると飛んでくれて気を逸らしてくれたおかげで、奴の狙いが外れたみたいだ。
「氷槍」
ここで、ようやくマーロンさんの魔法が発動した。空中に出現した数本の氷の槍が、トカゲに向かって降り注ぐ。
「ギャオオオオオオン!」
トカゲが悶絶する。これは効いてるぞ。よし。
俺も、準備していた魔法陣が完成したところだ。
「いけー!戦意喪失!!」
俺が放った魔法陣は、一直線にトカゲに向かっていき、暴れ回るその体にギリギリ貼り付いてくれた。
よかったー。命中した。
魔法陣が貼り付いたトカゲは、たちまち今までの勢いがなくなり、その場でひれ伏し、大人しくなった。
ホイッスルさんとマーロンさんは拍子抜けしたように、ポカーンとその様を見ている。
「シ、シグマくん、何したの? これ」
「あ、これ、リドリー先生に作ってもらった新しい魔法陣で、「戦意喪失」って言います」
「戦意、喪失? ……あははは!そうか!戦意喪失か!君の発想はすごいな!」
マーロンさんが笑い出した。
「敵を倒すんじゃなくて、戦う意思を失くさせる、か。これは一本取られたな!フォーレンの森の民らしい考え方だ!」
「いえいえいえ。ただ単に、戦闘が怖いだけです」
マーロンさんは、フォーレンの森での事件で、凶暴化して集落を襲った動物達を、殺すのではなく助けるという手段を選んだダズワルドさんの考え方を見ている。俺も、無意識にその影響を受けているのかもしれないな。
すっかり戦意を失ったトカゲは、スゴスゴと来た道を歩いて帰っていった。
「しかし、驚いたね。火蜥蜴なんて、遭遇したのは初めてだよ。本来、火山地帯の奥深くにしか棲息してない魔物だって聞いている。こんなところにまで出てくるだなんて」
「やはり、魔物の活動範囲が、何らかの理由で狂わされているみたいですね」
マーロンさんとホイッスルさんが真剣な顔で話し合ってる。
と、レイの方を見ると、何か少し落ち込んでるようだ。
「レイ、どうした?」
「うぅぅ。火山では私、活躍できそうにない。得意の火魔法も効かないし、折角の刀も弾かれるし……」
「ははは、気にすんなって。お前は十分戦力になってるよ」
『せやせや、レイちゃん。さっきの立ち回り、かっこよかったで!』
「ミルラも、さっきはかっこよかったって言ってるぞ」
「ほんと!ミルラ、ありがとー!!やさしいね!!」
レイがミルラに頬ずりする。何とか元気を取り戻してくれたみたいで、よかったよ。
……ぉぉぉぉおおおおぉぉぉん
また、さっきの音が遠くから聞こえてきた。本当に、不気味な音だな。




