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34 新たな助っ人

 俺は、目の前の光景を信じられない気持ちで眺めていた。


 ミランダの姿になったレイの胸元にしがみつき、顔を埋めてぐりぐりやっている、関西弁を話すちっちゃいドラゴン。


 なにこれ。


 ああー、やっぱりドラゴンは知能が高いから、言葉を話すんだなあー、っていう素直な感想が吹っ飛んでしまうほどだ。


『ミランダちゃんの胸のふくらみ、久しぶりやー。ふわっふわで気持ちええなあー。最高やー、ぐへへへ』


 ド変態だな、このドラゴン。ていうか、こんなキモいことをすぐそばで言われてるのに、よくレイは耐えてるな。


「ミルラ、ひさしぶり!会いたかったよ!相変わらず甘えん坊さんだね!」


 ん? 胸元でぐへぐへ言われてるのに、甘えん坊さんって、ちょっとリアクションおかしくないか?


『こんなことして許されるのは、ワイだけやでー。役得役得ペロペロペロ』


 なに言ってんだこいつ。わかってやってるなんて、なんてあざといんだ。


「もう、ミルラはかわいいなあ。よしよし。あ、シグマ、この子が私の友達のミルラよ。名前も私がつけたの。かわいいでしょ?」


 あ、友達って竜人じゃなかったんだ。って、今はそんなことより…。


「ちょ、ちょ、ちょっと待て、レ…ミランダ。お前、おかしくないか?」


「え? なにが?」


『なんや、おう。小童。なんか文句でもあんのか、ワレ』


 口が悪いなあ、このドラゴン。しかし、これは明らかにおかしい。


「確認なんだけどさ。ひょっとして、このドラゴンの言ってること、理解できてない?」


「え? 当たり前じゃん。ドラゴンが何言ってるのかなんて、わからないよ」


 ああー。やっぱり!そういうことか!

 俺だけ「理解できちゃう」のか!!


「あ、あのさ。レ…ミランダ。落ち着いて聞いてくれな。俺さ、ドラゴンの言葉、わかるんだよね」


「え、ええー!!!シグマ、すごい!!昨日も古文書読んでたし、すごいね!!頭いいんだね!!!」


「それでさ、あの、そのちっちゃいドラゴンなんだけどさ」


『ちょいちょいちょいちょい、ちょーい。待ちぃな、にいちゃん。何言おうとしてんねんな』


 ミルラと呼ばれたそのちっちゃいドラゴンがレイの胸元から慌てて離れ、俺のすぐ近くに飛んで来て小声でそう言った。

 俺は、ミルラに向かって、おそらくドラゴンに向かって喋ろうと意識すると、口からドラゴンの言葉が出るはずだと思い、こう言った。


『いや、普通に今の君のキモい発言を全部伝えようとしてるんだけど?』


『ちょーっと待ちぃな。ホンマにあんた、ワイの言葉、理解できるんかいな!』


『できるよ』


『うぉう!マジかいな。そんな人間はじめてや。すごいな、あんた。あ、いやいや、そんな事はどうでもええねん。ミランダちゃんにワイの発言伝えるて?』


『ああ、彼女には伝わってないからな。うれしいだろ?』


『うれしいわけあるかい!勘弁してくれよー』


「ねえ、シグマ。ミルラと何話してるの?」


 レイが羨ましそうにこっちに聞いてくる。俺は正直に言おうとするんだが、そのたびミルラに止められる。そんなやりとりを何度か繰り返してると……。


『よし!わかった!にいちゃん!ワイの負けや!なんでもいうこと聞く!だから、ミランダちゃんにはバラさんといてー』


 ミルラがなんか、泣きついてきた。

 まあ、意地悪言うのもこれくらいにしとこうかな。


『わかったよ、ミルラ。言わないよ。その代わりと言っちゃあなんだけど……』


『なんや、なんでも言うてくれ、兄弟』


『俺とも友達になってよ』


『な、なんや、急に。気持ち悪いな、自分。……ま、まあ、ええよ。そんくらい別に』


「ねえー、シグマー。何話してんのー!!」


「ああ、ごめんごめん。今、俺もミルラと友達になったところだよ」


「ああ、そうなの!よかった!」


「ところでさ。レ…ミランダ。お前、このドラゴンに昔、仕事手伝ってもらおうとしてたわけ?」


「そうだよ。でも、意思疎通ができなくて、あきらめたの。あの3ヶ月はただただミルラに会いに、キンカン工房に通う日々だったわ」


 相変わらずだなあ。ちょっと抜けてるんだよなあ、この子は。


『にいちゃん、にいちゃん、仕事って石探しの事か?』


『ああ、そうだよ。え、ミランダがアウラライトを探してるのはわかってたのか?』


『おお、わかっとった。でもわからんふりしたんや、火山に行きたくなかったさかいな』


『そうだったのか。いや、実は彼女はさ……』


 俺はミルラに、レイの昔の境遇を簡単に説明した。組織から抜けて、今は子供になっちゃったことも。


『お、おいおい。ホンマかいな。ミランダちゃんがホンマはミランダちゃんじゃなくて、レイちゃんで、ほんでもって子供に若返っちゃったって?』


『まあ、要約するとそんな感じかな』


『しかし、そうか。ミランダちゃん、いや、レイちゃんを裏の組織から足を洗わせたってことやな、にいちゃんが。……エエ奴やないか、自分』


『まあ、それほどでもないけど』


『若いのに、大したもんやで。自分まだ10歳くらいやろ? あ、ちなみにワイはこう見えて25歳やで。兄貴と慕ってくれてもええんやで』


 なんだよ、思いっきり年下じゃねえか。


「ねえねえ、シグマ。今回こそ、ミルラに手伝ってもらおうよ!」


 レイが思いついたようにそう言ってきた。

 なるほど、曲がりなりにもドラゴンだ。何かの助けになるかもしれないな。


「そうだな、頼んでみるよ」

『なあ、ミルラ。今、俺たち、火山の異変について調べてるんだけど、手伝ってくれない?』


『火山? ……んー、それはー、勘弁してくれ』


『ダメか?』


『ああ、ワイは火山にいるのが嫌で、抜け出してきたんや。だから、それは悪いけどでけへん』


「そっかあ」


「え? ミルラはなんて?」


「火山には行きたくないってさ」


「ええー、ミルラ、なんでー。一緒に行こうよー」


 そういうと、レイはミルラをぐいっと引き寄せ、胸の中に抱き締めた。


『ぐ、ぐへ、ぐへへへ』


『なあミルラ、さっき何でも言うこと聞くって言ったよな? な? な?』


『……じ、自分、なかなかええ性格しとるな。……まあ、しゃあないか、今回だけやで』


「レイ、ミルラも手伝ってくれるってさ!」


「ほんと!やった!ミルラ、ありがとー!」


 レイがミルラをギューッと抱きしめた。


『ぐへ、ぐへへへ』


 なんやかんやあったが、ミルラが調査に協力してくれることになった。頼もしい戦力だ。何せ飛行できる奴が一緒にいるのは心強い。


 明日の朝には火山に入るので、ひとまずミルラも俺たちの宿に一緒に来ることになった。


 レイがミルラを肩に乗せ、キンベエさんとカンベエさんの元にいく。


「キンベエさん、カンベエさん、ミルラをちょっとお預かりします」


 レイがそう言うと、お二人は特に反対しなかった。

 と言うのも、別にミルラはこの二人のペットでもなんでもなく、たまたまこの工房の空き部屋に住み着かれただけの関係らしい。


「では、カンベエさん、部品製作の方、よろしくお願いします」


「ああ、任しときな。だいたい1週間もありゃ出来上がってるじゃろう」


「すごい!早い!では、また取りに来ます!!」


 俺はカンベエさんに先払いの代金をお支払いし、レイとミルラと共にキンカン工房を後にした。



 工房を出てから大通りに出る前の路地で、レイは元の姿に戻った。


『わあ!レイちゃん!こんな可愛らしい姿になってしもて!でもこれじゃあ、胸元にスリスリしてもふわふわせえへんなあ』


 ミルラが残念そうにそう言った。


『なに言ってんだよ。今のレイの本当の姿はこれなんだから、慣れてくれよ』


『わかっとるがな。少女になったレイちゃんも可愛らしくて、ワイは好きやでー』


 このエロドラゴンは、守備範囲が広いんだな。


「え、なになに? ミルラはなんて?」


「少女になったお前も、可愛いってさ」


「ええー、ミルラー。うれしいこと言うじゃーん」


 レイがミルラに頬ずりする。ミルラが嬉しそうに一声鳴いた。いいコンビな気がするな、この二人。


 帰りの乗合馬車では、しっかりとペット料金を取られた。ドラゴンはペット扱いなのか。

 道ゆく人も、肩にドラゴンを乗せてても、ほとんど無反応だ。珍しいことじゃないのかもな。


『なあ、ミルラ。言っておくけどさ。こんなナリしてるけど、俺、実年齢は35歳だから』


 ミルラからバレることはないだろうから、俺の本当の年齢を教えといた。


『え、ホンマかいな。嘘やろ。年上なんかいな、自分。……まあ、ホンマやったら信じられへんけど、ワイの言葉を理解してる時点でいろいろ常識外れやし、それも嘘やないんやろな』


『お、察しがいいね。さすがは誇り高きドラゴンだね』


『やかましいわい。ほんなら、これからはあんちゃんって呼ばせてもらうわ。よろしゅうな、シグマのあんちゃん』


 そう言うとミルラは、大きく一声鳴いた。


『あ、それとさ。なんでミルラは関西弁なの?』


『かんさいべん? なんの事や?』


『え?』


 あれ? ミルラ自身は関西弁をしゃべっているという意識がないのかな?


 あ、これは『自動翻訳』の仕様なのかもしれない。

 今日の夜にでも、サポートさんに聞いてみよう。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ………。


 ………。


 ブゥン!!


 久しぶりのサポートさんだ。


 赤い画面に、いつものように文字が浮かび上がる。


《サポートです。いかがなさいましたか?》


「あ、お久しぶりです。ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ、えーっと」


 サポートさんは、必要最低限の応答しかしない。それはもう理解しているので、なるべく端的に質問してみようと思う。


「『自動翻訳』のスキルについてなんだけど、今日、初めて人間以外の種族と彼らの言葉で会話したんだ。若いドラゴンなんだけど。そしたら、そいつの話す言葉が関西弁だったんだ。これって、『自動翻訳』スキルの仕様なのかな」


 しばらく間があき、カチャカチャと文字が表示される。


《『自動翻訳』スキルは、いかなる言語も理解できる能力ですが、人間以外の種族の言葉を変換するときは、区別するために敢えて方言のような言葉を用います》


 ああ、やっぱり。そういうことか。だから関西弁に聞こえるんだな。別にミルラが大阪出身というわけではないのね。


「なるほど。……あ、ちなみにさ。この今の世界でさ、ドラゴン以外に言葉を話す魔物っているの?」


《検索いたします》


 しばしの沈黙。


《そちらの世界で、人間と同等以上の知能を持ち、言葉を話す種族は、12種類確認できました》


 12種類!……いや、それが多いのか少ないのかよくわかんないけど、いるにはいるってことだな。なるほど。


《他に、何かございますか?》


 他にねえ……あ、そうだ。もう一個気になってることがあった。


「あのさ、俺以外にこの世界に転生してきた人って、いるの?」


《並行世界間での転生は、珍しくありません》


「あ、そうなの!?……そうなんだ。へえー」


 ちょっと意外だった。

 いや、でも、そうだよな。俺はなんで自分が特別だと勘違いしてたんだろう。そりゃそうだよな。


「そういう人たちって、俺と同じような予定外の死亡で転生してるわけでしょ? だったら同じように何らかのスキルをもらってるんだよね?」


《その質問にはお答えできません》


 むう、そうか。

 でも、答えられないってことは、そういうことなんだろうな。答えてるのと同じだよな。


「わかった、ありがとう」


《それではお休みなさい》


 ブツン!



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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