32 魔術師との再会
ダスカの市役所は流石というべきか、石造りのとても立派な建物だった。
受付の人にフォーレンの森から来たシグマです、と伝えるとすぐに宿泊先の宿屋の場所を教えてくれて、一枚の書類を渡された。それをその宿屋に渡せば泊まれるようにもう話がついてるらしい。
俺はてっきり市長さんに会えるもんだと思っていたのだが、そうそう一般人が気安く会えるもんでもないよな、よく考えたら。
市役所で教えてもらった宿屋は、北地区の7番地にある「青空亭」という宿屋だった。行ってみると、大きくはないがとっても清潔感のある老舗っぽい良さげな宿屋だった。市役所でもらった書類を受付で渡すと、応対してくれた人の良さそうなお婆さんが部屋に案内してくれた。大きなベッドが2つある、いい感じの部屋だ。
俺とレイは、それぞれのベッドの近くに荷物をおろし、少し休憩することにした。
「ふぅー。やっと落ち着いたね」
「そうだな、きれいな宿でよかったよな」
「うん!居心地よさそう」
さてと。マーロンさんに会いに行かなきゃいけないのもそうだけど、本来の目的である腕のいい鍛冶屋さんも探さないと。こっちの用事がメインなんだよな、もともとは。
一応、ダズワルドさんから部品製作のための代金としてお金も預かってきている。
「なあ、レイ。ダスカにいたことあるんだよな? だったら、腕のいい鍛冶屋さん知らないか?」
「腕のいい鍛冶屋さん? 知ってるよ。あ、ちょうどいいわ。そこに私の友達もいるんだよね」
「あ、そうなの?」
「うん、後で行ってみる?」
「そうだな。今日はマーロンさんに会いに行かなきゃいけないから、明日行こうか。案内してくれよ」
「いいよー」
そうか、レイの目的は友達に会うことだったもんな。
俺たちは少し休憩してから、マーロンさんがいるライオネル亭に向かおうと決め、それぞれベッドに横になった。
「なあ、レイ。ちょっと聞いていいか?」
「なあに」
「もし、差し支えなければ教えて欲しいんだ。お前が前にこの街でやろうとしてた、仕事の内容」
「ん? ああ、別に問題ないわよ。もう私、組織の人間じゃないし」
そう言いながらレイは上半身を起こし、かつて自分がこのダスカで行っていた仕事を語り始めた。
レイがフォーレンの森にミックとして潜伏する少し前。組織は新たな資金源として、とある鉱石に目をつけた。
「アウラライト」という名のその鉱石は、大昔、ニルダスカの火山地帯で採掘されていた貴重な鉱石だ。その性質は他の金属に比べると段違いに優秀で、何よりも固く、何よりもしなやかで、何よりも美しいと重宝されていた。だがある時、パッタリとその「アウラライト」が採れなくなってしまった。多くの人々が、他に鉱脈がないかと火山地帯の中を探し回ったのだが、結局見つからず。世の中に存在する「アウラライト」はそれまでに採掘された物だけになった。すると、必然的にその価値はぐんぐん上がっていき、どんな宝石よりも高価で貴重なものとなってしまった。現在では実物には滅多にお目にかかれない為、幻の金属と呼ばれているらしい。
「でさあ、私に下された命令ってのが、新たなアウラライトの鉱脈を見つけてこい、だったのよ。そんなの、見つかるわけないじゃない」
「そりゃそうだな、組織も無茶言うなあ」
「そうなのよ。一応さ、努力はしたよ? でも、無理なもんは無理なのよ。これまでどれだけの人が探して、ダメだったと思ってるのよ。で、3ヶ月くらいで、別の仕事にまわされて、それっきり」
「ふーん、そうか。その時に友達ができたんだな」
「そ。私、火山地帯の奥の方には熱くて入っていけないから、協力してもらおうとしたの。でも、ちょっと問題があって、結局うまくいかなかったんだけど」
その友達っていうのは、竜人なんだな、きっと。
「なるほどなー。ただ、本当にそのアウラライト? の新たな鉱脈を発見できたら、大変なことだよな」
「そりゃそうでしょうよ。本来なら、発見したら王都に報告して、国の管理になるぐらいの大発見よ。組織はそれを裏でやろうとしてたってわけ」
「組織としては、その幻の鉱石を秘密裏に手に入れて大儲けしようとしてたって事だな」
新しい鉱脈を発見しろだなんて、無茶な仕事を押し付けられたもんだな。それはレイでなくても失敗してただろうよ。お気の毒な話だ。
「あとねえ、アウラライトにはもう一つすごい特長があってね。私も実物は見たことないんだけど、半永久的に魔力が溢れてくるんだって。だから、アウラライトを持っていれば魔力切れの心配がないらしいわよ」
「え!それはすごいな!」
それがもし本当なら、間違いなくお宝だ。そりゃ組織も欲しがるわけだな。
「まあでも、組織のほうもレイの能力を考慮して、その仕事任せたんだろうなあ」
「ええー、そんなに褒めなくても」
いや、褒めてないし。ダメ元で任せたんだろうっていう意味で言ったんだけど、真逆の意味にとられてしまった。おめでたい奴だなあ。
「さて。じゃあそろそろマーロンさんの所に行こうか」
俺たちは、青空亭を出て、マーロンさんのいるライオネル亭に向かうことにした。
東地区まで、歩いて1時間ほどかかってしまった。後で知った話だが、街中を巡回している乗合馬車っていう交通機関があるらしい。次からはそれを利用しよう。
ライオネル亭に着くと、入り口付近でそわそわしながら立っているマーロンさんの姿が見えた。
あれ? マーロンさん、誰かを待ってる? ひょっとして、俺たちを待ってるのか?
「マーロンさん!」
声をかけると、こちらに気づいたマーロンさんが手を振って迎えてくれた。
「やあやあ、シグマくん、レイさん久しぶり!首を長くして待ってたよ!」
「マーロンさん、お久しぶりです!」
レイが丁寧に頭を下げて挨拶する。
「あのー、俺たちが今日来ること、わかってました?」
「ああ、う、うん。実は、レイさんの監視魔法でね、ちょこっと君たちの位置情報を見てた」
ああ、そういうことか。レイにはマーロンさんの監視契約魔法がかかってるから、居場所がわかるってわけね。
「なるほど。そういうわけですか。でも、そんな入り口で出迎えてまで待っててくれた理由はなんです?」
「そうそう、火山地帯が大変なことになっててね。まあ、立ち話もなんだから中で話そう」
俺たちはマーロンさんに連れられてライオネル亭に入った。そこは、宿屋と呼ぶには少し憚られるほど、立派な建物だった。言うなれば、ホテルみたいな感じだ。さすが王都から派遣されてるだけあるなあ。
豪華な装飾を施されている螺旋階段を上がり、ふかふかの絨毯が敷き詰められている廊下を歩いていくと、扉の前で直立不動状態の鎧騎士が見えてきた。あ、あの人、見たことあるな。えーっと、そうそう、ホイッスルさんだ。
「あ、あれホイッスルさんですね」
「そう、今回の任務は彼が護衛役なんだ」
俺たち3人が近づいていくと、こちらに気づいたホイッスルさんは、向き直って敬礼してきた。
「シグマ殿、お待ちしておりました!」
「ホイッスルさん、お久しぶりです。駐在のとき以来ですね」
「はい、ご無沙汰しております。さあどうぞ、お入りください」
そう言うとホイッスルさんは、扉を開けて俺たちを中に入れてくれた。相変わらず、生真面目な人だ。
部屋の中に入ると、中もなかなかの豪華さだった。俺たちを座らせると、マーロンさんはキッチンの方に行ってお茶を淹れ始めた。
「ハーブティーでいいかい?」
「あ、お構いなく!何でも大丈夫ですよ」
「あははは、相変わらずシグマ君は大人びてるね」
そう言って笑いながら、俺たちに温かいハーブティーを運んできてくれた。
「いただきます」
「いただきます」
俺たち二人は、淹れたてのハーブティーに口をつけた。あ、これ美味しい。
「さて、着いて早速で申し訳ないんだけど、今起きていることを説明させてもらっていいかい?」
マーロンさんはそう言いながら、俺たちの対面に腰を掛けた。
「実はね、ニルダスカ山脈の火山地帯で魔物が異常な行動を起こし始めているんだ。もともと、火山地帯に棲息している魔物たちはね、人間とは敵対する意思はあまりなくて、決まったエリアで固まって生活していたんだ。彼らは知能が高いからね。群れを作ってその社会の中でちゃんと生活するというようなスタイルだった筈なんだよ」
「ああ、猿山みたいな感じですか」
「猿山……ふふっ。そうだね。いい例えだ」
マーロンさんが俺の顔を見て意味ありげに微笑んだあと、また真面目な表情に戻った。
「しかしある時を境に、魔物たちが火山地帯全体に現れはじめたんだ。それもなにか、イキリ立っているような様子で。そしてついに、鉱山地帯の方にまでやってくるようになったんだよ。おかげで、ダスカの鉱夫たちは山に入れなくなってしまったんだ。いくら魔物の知能が高いとはいえ、人間を見たら本能的に襲ってくるからね、彼らは」
「え、じゃあ今は鉱山は閉山状態なんですか」
「ああ、そうだ。こんなことが続くと、ダスカは大打撃だし、ゆくゆくは国全体の産業にも影響が出てくる。……しかも先日、とうとう魔物の群れが火山から出てしまったという報告まで来た」
「え、それって。まさか、グルルの群れですか?」
レイが驚いた様子でマーロンさんにたずねる。
「ああ、そうだよ。なぜ知っているんだい?」
「私たち、ここにくる途中でその群れに遭遇しました。とんでもない数でしたよ」
「そうなんですよ、ほとんどはやり過ごしたんですが、何匹かこちらに攻撃してきたんで、応戦したんです」
「なんてことだ。そうだったのか。それは大変だったね」
「まあ、グルルごとき私たちの敵じゃなかったですけどね!」
「あははは、そうだね。君たちなら大丈夫だよね。……でね、話を戻すけど、一刻も早く火山地帯で何が起きているのか調べなきゃいけないんだ。でも、あの中に入るのは人間の僕たちじゃ熱すぎて無理だろ?」
マーロンさんはそう言うと懐から一冊の古そうな本を取り出し、俺の目を見てこう言った。
「そこで、これだ。王都の図書館に厳重に保管されていた古代の魔導書。これを使えば僕たちでも火山地帯に入っていける」




