31 壁に囲まれた街
「うわぁ!なんだあれ!」
思わず驚きの声が口から出てしまった。
「あ、シグマは知らなかったッスか? 鉱山都市ダスカは、城塞都市でもあるんッスよ」
ピピンさんが、これから到着するダスカについて、いろいろと説明してくれた。
鉱山都市ダスカは、周囲を高い高い壁で囲まれている。
理由は2つあって、まず1つは魔物の侵入を阻止するため。ダスカの北側にはニルダスカ山脈という火山を中心とした山々があるのだが、その火山地帯には先日遭遇したグルルのような魔物がたくさん棲息している。それらの魔物達は、滅多なことでは火山地帯の外に出ることはないらしいのだが、先日のような例外もないというわけではなく、たまーに何かの拍子で出てきちゃうこともあるのだ。そういう事態に陥ったときに、街の中に魔物が侵入してこないように、高い壁で守っているというわけだ。
そしてもう1つの理由。それは、この国の歴史に関係している。東西に長く伸びているニルダスカ山脈は国境の役割も果たしていて、ニルダスカ山脈の南側は、今俺たちが暮らしているモスフェリア。そして北側は、ベール帝国という別の国になっている。大昔、ベール帝国とモスフェリアは戦争していた時代があって、この国境付近は激戦地だった。ダスカは、今でこそ金属加工で名を馳せている鉱山都市だが、戦時中は重要な軍事拠点、つまり砦だったのだ。鍛冶屋が多いのも、鉱山の近くであるのはもちろんだが、多くの武器が必要だったからなのだ。この高くそびえる壁はその時代の名残りでもあるということだ。
「まあ、今はベール帝国とモスフェリアは友好国ッスよ」
そうか。当たり前のことだけれど、この世界にも長い歴史はあって、その上で現在の生活が成り立ってるんだ。それは、どこの世界でも同じなんだな。
「シグマ、ダスカ初めてなんでしょ? 着いたらもっと驚くと思うよ!」
レイが、ニコニコしながら言ってきた。なんだろう。すげえ上から言われてる気がする。
「なんか、前にも同じようなこと言われたよなあ。初めてキャラバン見る前に。『ミック』に」
「あ、そうでしたっけ? あははは」
「なんだよ、もったいつけないで教えてくれよ」
「……うーん。そうだなあ……やっぱり、着いてからのお楽しみ!」
「なんだそりゃ。まあいいけど。どうせ着いたらわかることだろ?」
「なになに? 竜人のことッスか?」
「ああーん、もう!ピピンさん!なんで言っちゃうかなあ!」
横から口を出して教えてくれたピピンさんに、レイは不満そうにむくれた顔を向けた。
「竜人、……ですか? えーっとそれは、ドラゴンと人間のハーフという事ですか?」
「いやいや、違う違う。そういう事じゃなくて、竜人という種族ッスね。ダスカには多くの竜人が住んでいて、人口の半分近くが竜人ッスよ」
「へえー!そうなんですね!」
「古い言い伝えでは、竜人はドラゴンのとある一族が人間の姿に進化していった末裔だ、なんていうのもあるけど、本当のところはわからないッスね。あ、ただ、竜人は熱さにむちゃくちゃ強いんッスよ。人間だととてもじゃないけど耐えられないような灼熱の火山地帯に平気で入っていける。だから、ダスカにいる鉱夫さんは、ほとんどが竜人なんッス」
「へえ!ドラゴンの末裔っていうのもあながち間違いじゃないのかもしれませんね」
竜人かあ。ロロのような獣人もそうだけど、そういう人間とはまた違った別の種族と共存しているっていうのは、俺にとっては新鮮だよなあ。本当にここはファンタジーなマンガや映画みたいな世界だと、改めて思う。
もう一度窓から顔を出し、前方を見てみる。さっきよりかなりダスカに近づいてきた。そして同時にその壁の高さに圧倒されてしまった。さっきの話じゃないけど、空を飛ぶ魔物も簡単には侵入できないだろう。
「すげえな」
俺はその目も眩むような巨大な建造物に、長い歴史の重みを感じていた。
ダスカに到着すると、まずは大きな門が出迎えてくれた。どうやらここで、検問のようなものがあるらしい。そりゃそうだよな、じゃなきゃ壁の意味がない。聞くと、ダスカには同じような門が8ヶ所あるそうだ。
門の前の検問所に到着すると、キャラバンは一時停止し、全員降りて門番の詰所みたいなところに入った。
「おーう、ボビー。毎度!レンベルト商会キャラバン乗組員、俺を含めて7名。あと、客人が2名だ」
バーソロンさんが手慣れた感じで門番のボビーと呼ばれた男に話しかける。
「バーソロンさん、ご苦労さんです。いつもの通り、ここに名前よろしく」
ボビーさんが差し出した書類に、バーソロンさんが名前を書き込んでいく。すると、最後に書かれた俺とレイの名前を見て、ボビーさんが思い出したかのようにこう言った。
「あ、そうそう、シグマさんとレイさんね。宮廷魔術師マーロンさんから、お二人が着いたら伝えてくれって伝言頼まれてるんですよ。えーっと」
と、言いながら一枚のメモを取り出した。
「……えーっと、東地区の3番地、「ライオネル亭」っていう宿屋に滞在しているので、訪ねてほしい、と。あと、市長からも連絡きてますんで、市役所にも行ってください」
「はい、わかりました」
俺はボビーさんからメモを受け取った。そこには、ライオネル亭と市役所の住所と地図が書かれてあった。
「じゃあ、門を開けますので、キャラバンに乗車してお待ちください」
俺たちがキャラバンに乗り込むと、大きな音を立てて門が開いた。こうやって人が行き来するたび毎回開けたり閉めたりしてるんだろうけど、大変だな。
門が開ききったタイミングで、キャラバンは動き出し、ダスカの街の中に入っていく。
中に入ると、なんか外よりも若干暗く感じた。これも、高い壁のせいだろうか。
しかし、何より驚いたのは、建物の数と人の数だ。
確かに、フォーレンの森の集落と比べるのは酷かもしれないけれども、あちらがのどかな田舎町だとすると、ダスカはだんぜん都会だ。
石造の建物が多く立ち並び、多層階の建物もたくさんある。ビルディング、とまではいかないけれど、昔テレビで見たヨーロッパの世界遺産の町、って感じだ。どこかは忘れたけど。
「わあー、都会だな」
思わずそう呟いてしまった。
「そうよね、人も多いしね。ほら、あそこを歩いてる人たち、彼らが竜人よ」
レイが教えてくれた先を見ると、体格のいい男性2人組が談笑しながら歩いているのが見えた。パッと見は人間と変わらない。赤い髪をした普通の男性に見えたのだが、背中からお尻にかけて伸びた大きな尻尾を発見した時、思わず「おぉ」と声が出てしまった。
「大きな尻尾があるんだな、竜人って」
「そうね。あとはほとんど人間と変わらないでしょ?」
「そうだな。あと、ダスカの人たちは赤い髪の人が多いな」
「さすが、火とともに暮らしてる町って感じよね」
そんな他愛もないことを話しながら、ダスカの街をゆっくりと進むキャラバンに揺られていた。心なしか揺れも少ない。ああ、これは街に入って、舗装された道になったからだ。道理で快適なはずだ。
程なくして、大きな広場についた。そこにはすでに多くの人達がいて、キャラバンの到着を待っている様子だった。資材やなんかがいっぱい積まれている。おそらくここが目的地だろう。集まってる人達は、ダスカの商人達かな。
「おーい、そろそろ到着だ。降りる準備しろよー」
バーソロンさんに促されて、俺達は個室に荷物を取りに行き、それぞれの麻袋を担いだ。
ピピンさんたち商会の皆さんは、着いたらすぐに仕事を始められるように準備をしている。
「バーソロンさん、ダスカまで連れてきて頂いて本当にありがとうございました!助かりました!」
「いやいや、こっちもお前達には助けられたよ。仕事も手伝ってくれたし、何より魔物を追い払ってくれた。感謝してるぞ。俺達は今日、明日はこの広場で仕事してる。ここを立つのは明後日だ。……と、思ってたけど、ちょっと待てよ。車両の修理をしなきゃいけねえか。もうちょっといるな。まあ、しばらくはここにいる。何かあったら言いに来るといい」
「わかりました!」
ガクンと軽い衝撃があり、キャラバンが停車した。行商人の皆さんは素早い動きで、後方車両の壁を開けていつもの屋台スタイルに変型させていく。
俺とレイは、バーソロンさんに別れを告げてから、後方で忙しそうに働く皆さんにも挨拶しに行った。みんな、笑顔で送り出してくれた。
「本当についていかなくて大丈夫ッスか?」
ピピンさんは心配してマーロンさんに会うまでついてきてくれるって言ってくれたんだけど、俺たちはそれを断った。だって、悪いじゃん。なんだったら俺もレイも、ピピンさんより年上なんだし。仕事の邪魔しちゃ悪いよ。
「大丈夫ですよ、お仕事頑張ってください」
心配そうなピピンさんにお礼を言い、最後にドラゴンテイマーのお二人にも声をかけて、俺たちは、お世話になった行商キャラバンを後にした。
最後、ダロンゴンたちがレイに「ありがとう」って言ってるみたいにしっぽを振ってたのは可愛かったな。
「さて。マーロンさんのところに行く前に、ひとまず市役所に行くか。ダズワルドさんが宿泊先を手配してくれてるはずだから」
「そうだね」
俺たちはまず、地図に書かれている市役所に向かうことにした。




