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30 魔物との戦闘

 俺は右手を前に突き出し、空中を飛び回っているグルル達に照準を合わした。


「よし、いっけー!」


 俺の掛け声と同時に、複数の魔法陣が一斉にグルル達に向かって飛んでいく。グルル達はまさか魔法が飛んでくるとは思っていなかったのか、無警戒だったので、すんなりと体に魔法陣が貼り付いた。

 するとグルル達は、一瞬体をこわばらせたかと思うと、目から殺気が消え、バサバサと遠くに向かって飛び去っていった。よし、大成功だ。


「なんだ、一体何が起きた? シグマ、お前がやったのか?」


 目の前で起きたことが理解できないバーソロンさんが、不思議そうに足元の俺に向かって聞いてきた。


「はい。俺、少し魔法陣が使えるんです。今飛ばしたのは俺の必殺技で、「戦意喪失」の魔法陣です」


「戦意喪失…だと?!」


「ええ、この魔法陣が貼り付いた相手は、完全に戦う気を無くすんです」


「……そりゃあいい!!」


 バーソロンさんがガハガハと笑う。


「シグマ、引き続き頼む!」


「了解です!」


 異変に気づいた他のグルル達がこちらに向かってくる。

 俺はそれらに次々と魔法陣をぶちこむ。

 扉から飛び出したレイが、真っ直ぐにダロンゴンの元へ行き、回復魔法を施し始めた。さすがの身のこなしだ。

 その後に、ドラゴンテイマーの二人が飛び出してきてダロンゴンの元に向かう。

 ピピンさん、レニエさん、ジュストさん、マイラーさんも次々に車外に出て、グルルに応戦し始める。

 ピピンさんはやはり森の民なだけあって、武器は弓矢だ。レニエさんは細剣、ジュストさんは大斧で、マイラーさんは棍棒で戦っている。


 レイの回復魔法が終わると、ダロンゴンたちは全快したことを告げるように大きな雄叫びを上げた。よし、大丈夫そうだな。ドラゴンテイマーの二人が、すかさずダロンゴンの頭に飛び乗る。


「レイちゃん!ありがとう!…よーし。久しぶりに戦闘モードになるか、なあ!相棒!」


 ドルコフさんがそう言うと、相棒のダロンゴンが前足を大きく上げて立ち上がった。

 おお!ドラゴンテイマーの本領発揮だ。2体のダロンゴンがそれぞれの主人を乗せて戦闘態勢に入る。


 これで前方は心配ないな。


「レイ!後方の荷車の方に行くぞ!」


「わかった!」


 キャラバンの壁面にびっしりと張り付いてるグルルに、俺は魔法陣、レイは火球で攻撃しながら、キャラバンの後方車両に向かって走った。


「うわあーなによ、これ。気持ち悪い」


「すごい数だなあ」


「なんか、灯りに群がる虫みたい」


「うまいこと言うなぁ。お前……しかし、俺の魔法陣でチマチマやるのも効率悪いよな」


「じゃあ、私に任せて!」


 レイはそう言うと、一瞬精神を集中させ、体を巨大化させた。


「おぉ!何度見てもど迫力!ジャンボマックスレイ!!」


 突然目の前に現れた巨人を見て、グルル達はギャー、ギャー、ギャーと悲鳴をあげながら、四散していく。まるで蜘蛛の子を散らすように。


 何だこの光景。


 そしてそんな蜘蛛の子を、いや、グルルを火魔法で、ジュッ。……瞬殺じゃねえか。


「シグマ、どう? すごいでしょ?」


 体を元の大きさに戻して、レイが褒めてもらいたそうに寄ってくる。


「おぉ、すごいすごい。本当にすごいよ」


「えへへへへー」


 うれしそうで、何よりです。


「これができるんだったら、さっきの群れも全部倒せたんじゃないのか?」


「あ、そうだねー。ちょっと疲れそうだけど」


 おいおいおい、冗談で言ったのに。こいつ、マジで底知れないな。


 前方から、ジュストさんが大斧を振り回しながらやって来た。


「おーい!!なんだよ今の!!ビックリしちまったよ!!おめえたち、強いんだなあ!」


「いやいや、それほどでも」


「おかげで荷車の中身までは被害が出てなさそうだな!」


「よかったぁ!」


「さ、もう一息だ。行くぞ!」


 俺たちは、最後の仕上げとばかりに残ったグルル達に向かって行った。



 キャラバンにまとわり付いていたグルルは、1匹残らず撃退できた。

 そこら中に横たわっているグルルの残骸を眺め、俺達はふうっと息を吐いた。


「まあ、なんとかなったな」


 バーソロンさんが大剣を鞘に収めながらそう言った。


「しかし、何だったんでしょうか。あの大群は。グルルが火山地帯を飛び出して大移動するなんて、聞いたことがないッスよ」


 ピピンさんが肩をすくめる。


「まあ、とにかく。ちょっと荷車の外壁があちこち剥がれちまったが、中の商品に被害が出なくて良かった。お前達全員のがんばりのおかげだ。礼を言う」


「特に、シグマとレイの活躍はすごかったなあ!おい!」


 マイラーさんが俺たちの頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。


「あと、シグマ。お前の髪は珍しいな。黒い髪なんて初めて見たぞ」


 そう言いながら、バーソロンさんが俺のバンダナを手渡してくれた。


「はい、よく言われます」


 俺はバンダナを頭に巻きなおした。


「レイさん、あなたは能力者だったんですね」


「はい、私はラピスト出身です」


「どうりで」


 レニエさんが納得したように頷いた。


「ただのガキンチョだと思ってたのに、とんでもねえ二人だったなあ!」


 ジュストさんが笑いながら言った。とんでもない二人。いやあ、それほどでもないけどね。


「まあ、ひどい目にあったが、幸い次に行くのは鍛冶屋の町ダスカだ。荷車の修理もできるだろ。今日はとにかくここで進むのはやめて、みんなゆっくり休んでくれ」


 バーソロンさんがそう言うと、皆キャラバンに乗り込み、それぞれの部屋に戻って行った。



 すっかり日が落ちて、夕食時。


「今日は特別メニューだ!特製肉団子だぞ!」


 マイラーさんとレイが美味しそうな匂いを振りまきながら、肉団子スープをみんなに配膳する。


「待ってました!」


「よし、いただこう」


 全員揃っての夕食が始まった。いつもマイラーさんの料理はめちゃくちゃ美味しいのだが、今日のスープは格段に旨そうだ。

 一口、口に入れる。


 うそだろ。これは、前世に食べたどんな料理とも違う、独特の旨味がする。うまい!


「マイラーさん!美味しいです!!」


「ほんと、美味しいね!」


 思わず声が出てしまうほど、うまい。


「俺、こんな美味い肉団子、初めてです!」


「そうだろう、そうだろう。何しろ、今日の肉団子は素材が新鮮だからな」


「へえ!新鮮な素材なんですね!何の肉ですか?」


「え? さっきのグルルだよ」


「え?」


「え?」


 ちょ、ちょ、ちょっと待って。これ、あの、グルル? さっきまでギャアギャア鳴いて俺たちを襲ってたあの、魔物?


「レイの火魔法で程よく焼けていた肉が大量にあったからな!使わせてもらったよ」


 おいおいおい、マイラーさん!満面の笑みで何言っちゃってんだよ!!


「シグマ、どうしたの?」


「いやいや、俺、魔物食べたの初めてで」


「えー!そうなんだ。魔物のお肉って美味しいのよ!」


「特にマイラーさんの魔物料理は絶品なんッスよ!」


 ……へー。そうなんだー。うわー。


 魔物食うんだ、普通に。へー。


 そうだよな、フォーレンの森には魔物いなかったし。食べる機会が今までなかったんだな。


 にしても、だ。

 この世界に来て、初めてかもしれない。こんなに文化の違いに打ちのめされたのは。


 まあでも、……美味いからいっか。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 マーロンは頭を抱えていた。


「うーん、ダメだ。どうしてもわからん」


 一人、机に向かって一冊の本とにらめっこしている。頭をガシガシと掻きながらページをめくる。


「これが解読できればなあ。シグマくん、まだかなあ」


 フォーレンの森で会った黒髪の少年。

 遠方から飛ばされて来たという、謎の少年。

 彼は、何故か誰も読めない古代文字をスラスラと読んでみせた。


 記憶が確かではないというが、それは嘘だ。マーロンにはそれがわかっていた。


「シグマくんなら、絶対これを読めるはずなんだ」


 確信があった。


 そして、今回のこの調査。彼の助けが必要不可欠なのだ。あちらの方から協力を申し出てくれたのは幸いだった。



「マーロン様。失礼いたします」


 背後から声をかけられた。


「何だい? ホイッスルくん。今、ちょっと考え事をしているんだ。後にしてくれないか?」


 ホイッスルと呼ばれた男は、マーロンと共に今回の調査任務にあたっている騎士だ。


「申し訳ございません。ですが、緊急の事態でして」


「どうしたんだい?」


「南方の町バスノスがグルルの大群に襲われたそうです。どうやら、ニルダスカの火山地帯からグルルが大移動したみたいでして」


「なんだって!火山地帯の魔物が外に出たのか。それはまずいな」


「被害があったバスノスには王都から支援部隊が向かっております。また、グルルの群れの討伐隊も編成されたみたいです」


「そうか、……報告ありがとう」


「失礼します」


 ホイッスルが部屋を出ていった。


 マーロンはため息をつき、空中に一つの魔法陣を描く。するとそれは、スウッと形を変え、長方形の画面のようなものになって空中に浮かんだ。


 そこには、一つの光る点が浮かび上がっている。


「もう少しだな。急いでくれ、シグマくん。一刻を争う事態かもしれない」


 マーロンはそう言うと、静かにそれを閉じるのだった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 グルルの群れとの戦闘があった数日後、とうとうダスカに到着する日がやってきた。


「なんか、長かったようで、あっという間だったわね」


 レイが外を見ながらそう言った。確かにそうだな。キャラバンの皆さんがみんないい人だったのと、商会のお仕事を手伝っていたおかげで、時間があっという間に過ぎ去ったような気がする。最後にちょっと予想外の事もあったけど。


「そろそろ見えてくるッスよ」


 ピピンさんが俺たちの背後から声をかけてきた。

 とうとう着くのか、ダスカに。

 俺は、期待に胸を膨らませながら窓から身を乗り出し、前方を見た。


 そして、驚いた。




 そこには、見たこともないような巨大な壁がそそり立っていたのだ。

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