27 再会と決心
「マーロンに新しい調査の依頼が来てるんだけどな」
マーロンさんはさすが優秀な宮廷魔術師なだけあって、仕事がひっきりなしに舞い込んで来ているみたいだ。
「今回は、ニルダスカ山脈の火山地帯を調査するみたいなんだが……なんか、『こりゃあシグマくんに手伝ってもらうしかないかな』…みたいなことをつぶやいてたぞ」
「え!!!」
何を言ってるんだ、マーロンさん!!俺が宮廷魔術師の仕事を手伝う? そんな事できるわけないじゃないか!
「な、何をバカなことを言ってるんでしょうね!あの人は!」
「いや、まあ本気かどうかはわからんがな。もし、何か言ってきたら相談に乗ってやってくれ」
「シェイナさんまで、そんな。俺にそんな力があるわけな……、あ。今、ニルダスカ山脈の火山地帯っておっしゃいました?」
「あぁ、言ったが」
「それってひょっとして、鉱山都市ダスカの近くですか?」
「あぁ、そうだ。ダスカは火山の麓にある都市だぞ。ちょうど今回の仕事は、そこを拠点にするそうだ」
ああ、そうなのか。なんというか、俺が今一番行きたい場所にいるなんて、ただの偶然にしてはできすぎている気もするけど。
気がつくと、太陽が真上に上がっている。そろそろ昼食の時間だ。
俺とレイはシェイナさんに別れを告げて家に戻ることにした。
昼食時。
早速俺は、ダズワルドさんに金属加工について相談してみた。
「腕のいい鍛冶屋か。……それは、やはりイサクの言う通り、ダスカに行けばたくさんいるだろうが……難しいな」
「何か、問題があるんですか?」
「いや、なに。単純に遠いというだけだ」
聞けば、鉱山都市ダスカは、馬車で走り続けても片道3週間はかかるとのこと。王都の人たちが使っていたスピードの速い竜車でも1週間ほどかかるらしい。確かにそれは遠いな。ダスカって王都よりも遠いんだな。
「それはやっぱり直接行って説明しなきゃならんのだろ? シグマを一人でそんなところまで行かせるのは、さすがに心配だな。だからと言って、付き添いに大人の同行者を付けるにしても、そんな長期間一緒に動ける人間なんて、なかなかいないだろうし」
「え? 一人で大丈夫ですよ?」
俺、中身いい大人ですし。
「いや、だめだ。保護者としてそれは許可できんな。道中は危険な地域も通るんだから」
「あ、私も一緒に行きますよ!私、中身は大人ですから大丈夫じゃないですか?」
レイが嬉々としてそう言う。
「何をバカなこと言ってるんだ。尚更ダメだ。レイ、君は自分が保護観察中だということを忘れていないか?」
「う、うぐぐぐ……」
レイが悔しそうに引き下がる。
大丈夫なんだけどなあ。でも、ダズワルドさんが心配してくれる気持ちもよくわかる。なんだかんだで2ヶ月ほど集落を離れることになるんだもんな。
そこで、アンナさんが思いついたように提案してきた。
「あ、そうだ!ピピンに頼んでみるっていうのはどうだい?」
「ピピン……なるほど。行商キャラバンか!」
ダズワルドさんがアンナさんの提案を聞いて、手をポンっと叩いた。
「確かキャラバンのルートで言うと、ダスカはうちの集落の後だと言ってたな」
「今度、うちに来た時に同行させてもらって、ダスカで降ろしてもらえばいいんだよ。ピピンや商会の人たちと一緒なら、心配はないんじゃないの?」
「ピピンおにーちゃん!ロロもいきたーい!」
「ははは、ロロはお留守番だよ」
ぶーっと頬をふくらましてむくれるロロを、アンナさんは優しく撫でた。
なるほど。それはいいアイデアかもしれない。俺も、あの大きなキャラバンで送ってもらえるなら、心強いしな。
「よし、わかった。明日早速レンベルト商会に連絡をとって、お願いしてみよう。あとは……そうだな、ダスカの市長にも連絡を入れておくことにするか。ダスカに着いてから泊まる場所を手配しておかなきゃいかんしな」
「あ、ありがとうございます!よろしくお願いします!」
ダズワルドさんは本当に頼りになる。俺はこの人にお世話になってばかりだ。
さて。
あとはイサクさんの図面が出来上がったら完璧だな。
俺のギター復活計画は、順調に進みそうだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
マグマが吹き上がる。
地中深く、赤々とした灼熱の溶岩が支配するその空間は、まさにこの世の地獄。
いかなる生物も、ここに来ればたちどころにその身を灼かれるであろう。
そんな、死の空間に。
低く、長い、轟音が響く。
空気を震わせ、この世の終わりを告げるかのような轟音。
それはまるで、天変地異の前触れのような。
それはまるで、魔界からの悪魔の叫び声のような。
それはまるで、悲哀に満ちた慟哭のような。
轟音が響くたび、地下空間のマグマは熱くうねり、吹き上がるのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
あれから数日が経った。
イサクさんから図面が出来上がったとの連絡が入ったので、俺は工房へ行き、最終チェックを済ませてきた。
図面は完璧だったので、早速できる範囲で製作を始めてくださいとお願いしておいた。
と、同時に金属部品の図面を受け取り、ダスカに行って金属部品と弦を手配してくることも報告。サンプルとして切れた弦を切り、いくつかの部品とともに持って帰ってきた。
その後、リィサさんの所に寄り、現状の進捗状況とダスカ行きをお知らせしてきた。
リィサさんはダスカに行くことを心配してくれたが、行商キャラバンにお世話になると言うと、安心してくれたみたいだ。
さて、準備は整った。
あとは行商キャラバンがやってくるのを待つだけだ。
次のキャラバンの到着予定は大体1週間後。
ダズワルドさんが連絡してくれたところ、レンベルト商会の親方は快く引き受けてくれるとのこと。これもひとえにピピンさんが商会での信頼を得ているおかげなんじゃないかと俺は思ってる。
それから数日後、シェイナさんが家にやってきた。
森の集落の駐在業務が最終日だそうで、王都に戻る前に挨拶に来てくれたのだ。
「私の滞在期間中に何も起こらなくてよかったよ。ただ、何も起こらなすぎて、少し退屈だったがな」
シェイナさんはそう言うと、片目を瞑って手をひらひらさせた。
こんな冗談も言ってくれるほど、打ち解けてきたのはとても嬉しいな。
「まあ、今回はひとまず帰るが、また定期的にこの任務に志願しようとは思ってる。私なりの責任の取り方だ」
「ありがとうございます、シェイナさん。単純に定期的にシェイナさんに会えるのは嬉しいですよ」
「な、ば、バカなこというんじゃない!怒るぞシグマ!」
シェイナさんは顔を真っ赤にしてそう言った。シャイなところは変わらないみたいだ。
「あ、でも俺、もうちょっとしたらダスカに行くんですよね。しばらくこの集落にいないと思います」
「ああ、そうだったな。おそらくだが、既にマーロンがダスカに行ってると思う。何か困ったことがあったら、マーロンを頼るといい」
そうだった!マーロンさんがいるんだった。会えるのは嬉しいな。
「ただ……逆にマーロンが君を頼るかもしれんがな。その時はよろしく頼むぞ」
「あははは、冗談きついですよ」
本当に。天才魔術師が俺を頼るなんてあり得ないと思います。
シェイナさんは、ダズワルドさんやアンナさんにも挨拶をした後、駐屯所に戻っていった。明日には交代の騎士さんと入れ替わりで王都に帰るのだろう。
そしてその日の夜。
寝る前にベットに腰を下ろしたレイが、カンジとロロが眠りについたのを確認してから、真剣な顔で俺に言ってきた。
「ねえ、シグマ。私、本当に一緒に行っちゃダメ?」
そういえば、レイがやってきてから、すっかりレイとロロで1つのベッド、俺とカンジで1つのベッドという風に、男女で分けて寝ている。さすがに中身は大人だとわかっている女性と同じベッドで寝るのは、俺も照れくさいしな。
「ねえ、ダメかなあ」
「ダメだって言ってるだろ。お前、本当に自分の立場を考えろって。レイに何かあったら、全部ダズワルドさんの責任になるんだぞ」
「それはそうなんだけど……」
「諦めろって。ていうか、なんでそんなに一緒に行きたいんだ? ダスカになんかあるのか?」
「……いや、あの、それは別に……ないけど……あ!シグマと離れたくないのよ!そうそう!一緒にいたいなーって」
レイは本当にわかりやすいな。ここまで嘘のつけない奴も珍しい。
ミックになってる時はあんなにうまくみんなを騙してたのに。
「お前、マジでよくそれで裏の組織クビにならなかったよな、ま、消されかけたけど」
「うぐぐぐっ……」
「余計な嘘はもういいよ。何かダスカに行きたい事情があるんだろ?」
「うー……はい、そうです」
「わかったよ。話してみなよ」
「うん。……実はね。昔、組織の仕事で、ダスカに滞在してたことがあるの」
「おぉ。そうなのか」
「その時、あ、もちろん仕事は失敗したんだけど、その時にね。仲良くなった友達がいて」
「友達?」
「うん、久しぶりに会いたいなーって」
「なんだ、そういうことか。ていうか、お前。裏の仕事の途中に友達作るとか、マジで面白いな」
「なによー!バカにしないでよー!」
レイの事情は分かった。
友達に会いたい、っていうだけの単純なものだった。
本来なら何をバカなこと言ってるんだと一笑に付すところだけど。なんか、叶えてやりたいっていう気になるな。叶えてやるのが、レイにとっては更生することになる気がするんだよな。
「よし、わかった。一緒にダスカに行こうぜ」
「ほ、本当? うれしい!ありがとう!シグマ!」
喜んで俺に抱きつこうとするレイをヒョイっと避けて、俺は付け足した。
「ただ、普通には許されないことだからな。……よし、裏技使おうぜ」




