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26 特別な木材

「いや、まあ本来はな。フォーレン祭の時の櫓に使ったりしてたんだが、一度作ってしまうとこれがまた丈夫でな。滅多なことでは壊れないんだよ。この間の襲撃の時も無傷だったぐらいだ。だから、材料の木材が余ってしまってるんだ。あれはすごいぞ。魔力を増幅する効果があるみたいでな。魔術師の杖の材料にも最適なんだ。……そう、そう。宮廷魔術師のマーロン殿の杖も、精霊神樹だぞ。確か」


 マーロンさんの杖に使われているって!そんなの、尚更こんなことに使えないじゃないか!


「いや、本当にまずいですよそれは。ダズワルドさん」


「いいんだ、いいんだ。逆に高価になりすぎててな。持て余してるんだよ」


 本当にダズワルドさんは欲がないな。高価なんだったら売って大儲けできるんだろうに。


 すると、横からアンナさんが口を挟んできた。


「いいからシグマ、甘えときなって。あんたは先だっての騒ぎの時に大活躍したんだし、それくらいの褒美はあってもいいと思うよ」


 うーん、そうか。まあそういう考え方もあるか。じゃあここは……。


「では、お言葉に甘えて使わせていただきます!」


 俺は立ち上がってダズワルドさんに頭を下げた。


「おお!そうかそうか!早く修理が終わって、君のギターをもう一度聴きたいもんだ。楽しみにしてるぞ!」


「ロロも、シグマおにーちゃんのギター、はやくききたーい!」


 どこからともなくロロがやってきてぴょんぴょん跳ねている。

 そっかそっか。ロロも楽しみにしてくれているんだな。これはイサクさんに頑張ってもらわないと。



 翌日。


 夜のうちにダズワルドさんからモルファスさんに話を通しておいてくれたみたいなので、早速朝一番でモルファスさんの家を訪ねてみた。

 モルファスさんは俺をあたたかく迎え入れてくれた。


「いやあ、祭りんときゃあ八面六臂の大活躍だったな、黒髪の坊主!」


 モルファスさんはさすが木こりたちを束ねている親方というだけあって、体も大きく豪快な人だ。

 イサクさんにしても、モルファスさんにしても、祭りの時に走り回っていた俺のことを知ってくれている。

 なんか森の民の人たちの役に立ったんだなって実感する。


「精霊神樹だろ? ダズワルドの旦那から聞いてるぜ。ありゃあ特別な蔵にしまってあるんだ。今から見るかい?」


「はい、ぜひ!」


 モルファスさんに連れられ、木材置き場の一番奥にある立派な蔵に向かう。


「木ってのはな、切り倒した後すぐに木材として使えるわけじゃねえんだ」


「え? そうなんですか?」


「ああ。木だって生きもんだろ? 体んなかに沢山の水分を蓄えてるわけだ。それを十分に乾かして抜いてやらねえと、変形しちまうんだよ」


「へぇー、なるほど!」


 勉強になるなあ。


「普通の木だと大体、半年から1年ぐらい乾燥させてから出荷するんだ。だがな、精霊神樹は違う、あれは特別でな。少なくとも5年は乾燥させないとダメなんだよ」


 モルファスさんはそう言いながら、蔵の鍵を開けて大きな扉をゆっくりと開いた。


「この手前に積んであるのは前回の剪定のやつだから、まだ使えねえ。今使えるのは、あのあたりに積んでるやつだな」


 モルファスさんの指さした先に、キレイに製材された木材が積まれていた。

 気のせいかもしれないが、仄かに光っているように見える。


「あ、あの、モルファスさん!ちょっと光ってませんか?」


「ああ、すげえだろ。乾燥が終わると、うすーく光り出すんだ。ありがてえ木だろ? まあ、とは言っても照明器具に使えるほど光るわけじゃねえけどな!」


 いや、でもすごいな。光る木材。こんな有難い木材をギターに加工させてもらえるなんて、本当にいいのかな。


「何本ぐらい必要だ?好きなだけ持ってっていいぞ」


 何本でもって。高価な木材なはずなんだけど。

 どれくらい必要かなんて、よくわからないな。ひとまず、5本ぐらいあればいいかな。


「すみません、ちょっと必要な量がわからないんですが、とりあえず5本いただけますか?」


「おお、いいぜ。また足りなくなったら取りに来ればいい」


「ありがとうございます!」


「じゃあ、その5本はどこに運べばいい?」


「イサクさんの工房でお願いします」


 モルファスさんは若い部下の方に指示を出して、木材を運ぶように言ってくれた。


 俺はモルファスさんにお礼を言ってお別れし、そのままイサクさんの工房に向かった。


 イサクさんの工房に入ると、イサクさんは作業机に向かって図面を描いてる途中だった。

 声をかけると、こちらに気づいたイサクさんは、俺に向かって嬉しそうに話し始めた。


「おお、シグマくん!今ちょうどギターの図面を描いてるところだったんだ。丁度よかった。少し確認させてくれないか?」


 イサクさんは壊れてしまって元の姿がわからなくなっている部分を中心に、完成形の細かい確認をしてきた。俺は、わかる限り記憶をたぐり寄せて説明した。


「いや、しかしこのギターというものはものすごい技術の結晶だな。これを作った職人さんに会ってみたいもんだよ。君の出身国にいるんだろ?」


「いや、まあその、はい。あははは」


 俺は笑って誤魔化した。ギブソンさん!異世界で褒められてますよ!


「あ、それはそうとイサクさん。木材の目処がつきました。精霊神樹を使ってもいいとダズワルドさんから言われまして」


「せ、精霊神樹だって!!」


 イサクさんは驚いた様子で俺に聞き返してきた。


「はい、モルファスさんのところからこちらへ届けてもらうように言っておきました」


「そりゃまたすごいものを。私だって今まで数回しか扱ったことがない素材だよ。あれは、なかなか加工が難しいんだ。こりゃあ、腕がなるなあ」


 イサクさんの目が輝いている。職人さんというのは、扱いが難しい素材と出会うと燃えてくるもんなんだな。


 それから俺とイサクさんはしばらく図面と睨めっこしながら、ギターの細部の確認を行なった。


「あ、それからシグマくん。この所々に使われている金属部品はどうするかな」


 あ、そうか。うっかりしていた。ギターは全部が全部木材でできているわけではない。所々、金属の部品が使われている。

 フレットの部分もそうだし、ペグも金属だ。


「この、元々のギターの部品から取り出して再利用するのもいいが、使えなくなってるのも多いからなあ」


 イサクさんが、俺が預けている壊れたギターを持ち上げてそう言った。たしかにそうだな。使える部分はそのまま使ってほしいけど、だいぶ派手に壊れたからな。


「あと、1番の問題はこの、切れた弦だ。これも金属だろう?」


 確かに。俺のギターに張ってあった弦は、ブロンズ弦という金属の弦だ。


「楽器の弦といえば、伝統楽器なら動物の腸とか植物の蔓なんかを加工して作るんだが、金属の弦というのは珍しいよなあ。しかし、こんなに細かい金属加工は、うちの集落じゃ無理だぞ。それこそ、腕のいい鍛冶屋に相談でもしないと」


「そうですよね。……腕のいい鍛冶屋さんってどこに行けばいらっしゃいますかね」


「そうだなあ、……ダスカにでも行けば……いるんじゃないかなあ」


 ダスカ。


 そういえば、誰かに聞いたことがある。この国の地理を教えてもらってる時だったか。

 フォーレンの森を東に抜けて、北の方にある鉱山都市の名前だったっけ。


「あそこには腕のいい鍛冶屋がたくさんいるって話だからな。金属加工ならダスカだよ」


「なるほど。ダスカですね」


「ちょうどこの図面が出来上がったら、必要な部品もわかってくるだろうから、ついでに金属部品の図面も描いておくよ」


「本当ですか!助かります!」


 イサクさん、なんていい人なんだ。感謝しかないな。


「あとは、ダスカの職人さんにお願いできるように長に相談してみたらどうだ?」


「はい、そうします!」


 俺はイサクさんにお礼を言い、引き続き図面の制作をお願いして工房を後にした。

 ダスカか。できることならすぐにでも行って、腕のいい鍛治職人さんを探したいところだな。


 イサクさんの工房から出た所で、籠を小脇に抱えたレイとばったり出くわした。


「おお!レイ。こんな所で何してんだ? アンナさんのお使いか?」


「ええ、まあそんなとこ。それよりシグマ、さっき駐屯所の近くでシェイナさんを見たわよ」


「え!シェイナさん? 森に来てるのか?」


「なんか、今回の駐在騎士はシェイナさんらしいわよ」


 え? この集落に駐在しに来たの? それはどういうことなんだろう。1週間程度の駐在とはいえ、こんな田舎に派遣されるのは左遷じゃないのか?


「ちょっと俺、挨拶しに行ってくるわ」


「じゃあ、私も行く!」


 レイは嬉しそうに俺と一緒に歩き始めた。



 シェイナさんかあ。久しぶりだなあ。久しぶりって言ってもまあ数週間ぶりなんだけど。

 俺とレイが騎士の駐屯所に到着すると、ちょうど入り口から全身鎧を身に纏ったシェイナさんらしき騎士が出てくるところだった。

 俺は「シェイナさん!」と声をかけて駆け寄った。


「お、おお!シグマ。元気だったか? レイも。変わりはないか?」


 そう言いながら兜を脱ぐと、中から美しい金髪が顔を出した。シェイナさんだ。やっぱ惚れ惚れするほど凛とした美人だ。


「はい!元気です!レイも真面目に過ごしてますよ」


「あ、は、はい!!私も、真面目に!生活させていただいてます!!」


 レイはやっぱり温情をかけてもらったせいか、シェイナさんの前ではカチカチに緊張するみたいだな。


「あははは、それは何よりだな。君たちにまた会えて嬉しいよ」


「駐在騎士でやって来られたんですよね?」


「ああそうだ。短い間だが、またよろしく頼むな」


「……シェイナさん、ひょっとして俺たちのせいで、立場が悪くなったとかじゃないですよね?」


 俺は気になって尋ねてみた。だってシェイナさんの強さと能力から考えて、こんな田舎の駐在騎士にまわされるなんておかしいからだ。俺たちをかばったせいで王都でのシェイナさんの立場が悪くなり、降格とか左遷とか、もしそんな事になっていたのだとしたら、謝っても謝り切れない。


「……ん? 立場? あ、ああ!私が駐在に来た理由か? ……ぷっ、あははは、なんだ、そんなことを心配してたのか。違う違う。逆に私は出世したんだ」


 シェイナさんは大笑いしながら手をひらひらさせている。相変わらずのシェイナさんの仕草だ。


「先日の調査が評価されてな。私は今は小隊長なんだよ」


「ええ!すごい!」


「今回の駐在は私が志願してこの任務に入れてもらったんだ。君たちの顔が見たくなってな。それぐらいの融通がきく立場になったということだ」


「ほっ。それならば安心です」


「はははは、……あ、そういえばシグマ。マーロンがなんか気になることを言ってたぞ」




 マーロンさんが気になること? ……なんか嫌な予感しかしないなあ。

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