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25 来年の話

 ある日、リィサさんとベールさんが俺をたずねて来た。何やら相談があるとの事。


「来年のフォーレン祭の事ですわ!!」


 ベールさんが机から身を乗り出してくる。

 もう来年の話ですか。気が早いですねベールさん。


「あのね、シグマくん。私たち3人歌姫ってことになったでしょ?」


 リィサさんがそう言いながら前のめりのベールさんを優しくいなしている。なんだかんだでこの二人、仲良しさんだな。


「それでね、3人一緒に歌う歌と、それぞれがソロで歌う歌を決めようって話になったのよ。そこでシグマくんの意見を聞きたいなって思って」


「は、はあ」


「なんですの!あなた、そのやる気のない返事は!」


「いや、だって俺は前回リィサさんに頼まれて伴奏しただけですし。来年は楽団の皆さんとやるんでしょ?」


「な、なに無責任なことおっしゃってるの!当然あなたのギターも参加してもらわなくちゃ困るわよ?」


「え!そうなんですか?」


「ごめんね、シグマくん。楽団の皆さんもベールも、あとソフィーさんも、あなたのギターの演奏にとても感動したらしくって。前回は一曲しか聴けなかったし、来年はぜひ一緒にやりたいって言ってるのよ」


「あー、そうだったんですか。……参ったな」


「そうよね、ギター、壊れちゃったもんね」


 皆さんが俺と一緒に演奏をしたいと言ってくれていることは素直にうれしい。ただ、肝心のギターが壊れたままなのだ。


「なんとかなりませんの? その、修理するとか、新しいものを取り寄せるとか」


 そう簡単に手に入るんだったら苦労はしないんだよなあ。前世に予備のギターを取りに帰るわけにも行かないし。

 念の為、あれからサポートさんに聞いてみたんだけど、さすがにダメだったんだよなあ。


「修理しようにも、できる人がいないんですよ。だからなんとか自分でやろうとは思ってるんですけど、俺も初めてのことなんで。……ちょっと来年のお祭りには間に合わないと思います」


「それは、困りますわ!なんとしてでもあの素晴らしい演奏を……コ、コホン。あなただって、あのままじゃ不完全燃焼でしょ?」


「そう言われましても……」


 困ったなあ。俺一人で修理するのは限界があるし。


「あなたさっき、できる人がいないっておっしゃったわよね?木工職人には相談したの?」


「え? いや、してません。木工職人さんの知り合いがいないもんで」


 するとリィサさんがこう言った。


「あ、だったら私、腕のいい職人さん知ってるわよ? 紹介しようか?」


「この集落で1番の木工職人といえば、イサクさんのことですわね。あの方に任せれば大丈夫なはずよ!」


「本当ですか? じゃあお願いしようかな」


「そうしなさい!今すぐ行きなさい!少しでも早く修理して、またあの素晴らしいギター……コ、コホン。どれくらい時間がかかるかわからないんですから、早いに越したことはありませんわ!」


 ベールさんは俺のギター演奏をかなり気に入ってくれてるみたいだな。うれしい限りだ。


「え、でも演目の相談はどうす……」


「そんなのは、いつでも構いませんわ!早くイサクさんの所に行ってらっしゃい!」


「わ、わかりました。じゃあちょっと準備します」


 俺は寝室に置いてある壊れたギターが入ったギターケースを取りに行った。ベールさんと別れ、リィサさんに連れられて家を出る。


 森の民の集落には何軒かの工房があるらしいのだが、中でもとびきり腕がいい木工職人がイサクさんだということだ。


 俺たちはしばらく歩いて、一件の工房に着いた。リィサさんが中に向かって声を掛ける。


「ごめんくださーい!イサクさんいらっしゃいますかー!リィサですー!」


 すると、中から「はーい」という返事があり、一人の男性が出てきてくれた。ダズワルドさんと同じくらいの年齢かな。緑の長髪を後ろで束ねている。とても穏やかそうな人だ。


「おや、リィサ、今日はどうしたんだい?」


「イサクさんにちょっと相談がありまして」


 リィサさんがそう言うと、イサクさんは隣にいた俺に気づき、満面の笑みでこう言った。


「おお!君は!黒髪の魔法少年じゃないか!祭りの日は大活躍だったな!」


「あ、どうも。こんにちは。シグマといいます」


「シグマくん。そう、シグマくんだったね。いやー、あの日はね。私も動物たちと戦ってたんだよ」


 そうだったのか!イサクさんもあの時、一緒に戦ってたんだな。


「君が次々と動物たちの呪いを解いて回ってるのを見てたよ。すごかったなあ、あれは」


 俺はあの日相当あちこち走り回ってたから、それを見てたのだろう。なんにせよ、俺のことを知ってくれているのはうれしいし、話が早い。


「実はですね、俺からのお願いなんですが」


「おお!そうなのか。立ち話もなんだから、工房の中で聞こうか」


 俺とリィサさんは、イサクさんに連れられて工房の中に入った。中は、いかにも職人の仕事場という感じで、壁には多くの工具が吊り下げられている。工房の一角には木材が積まれ、その横に作業机らしき大きな一枚板のテーブルがあった。


 俺は、その作業テーブルの上にギターケースを置かせてもらい、開けて中身をイサクさんに見せた。


「これを修理したいんですが」


 イサクさんはケースに入れてある壊れたギターを見ると、目を見開いてこう言った。


「おお、こりゃひどいな。あの、リィサの歌の伴奏で使ってた楽器だよな。私も客席で見てたよ。いい音色だった。あれが、こんなになっちゃったか」


「ウォルフに襲われそうになった私を助けるために、この楽器を盾にしてくれたんです」


 リィサさんが申し訳なさそうにそう言う。


「いや、やむを得なかったんですよ、あの時は。でもイサクさん、これをもう一回演奏したいんです。修理できますか?」


 俺は、イサクさんに尋ねてみた。イサクさんはボロボロになったギターのひとつひとつの部品を手に取って、考え込むように唸った。


「ううむ。何しろ、私も初めて見る楽器だしな。ただ、森の伝統楽器の構造はよく知ってる。私も作ったことがあるしな。だから、楽器という点では似ている部分もあると思うが……」


 そうか!伝統楽器には弦楽器もあった。あれに似ている部分は多々あるかもしれない。


「ただ問題はだな、この壊れ方は修理というレベルじゃないってことだな」


 あー、やっぱりそうなのか。薄々そうじゃないかなとは思ってたんだけど、やっぱりそうか。結構な勢いでバラバラだからな、これ。


「あちこちの木が割れてしまっているし、元の木を活かして修理するっていうのは、まあ、……無理だな」


「……そうですよね」


「そこをなんとか!イサクさんの腕で何とかなりませんか!」


 リィサさんが懇願する。責任を感じているのだろう。


「いや、だから修理は無理ってだけだ。なあに、イチから作り直せばいいんだ」


「え?」


 イサクさんはギターの部品をチェックしながら続けた。


「こいつの構造を調べたいな。シグマくん、少しの間これを私に預けてくれないか?私なりに図面をひいてみようと思う。出来上がったら連絡するよ」


「もちろんです!ありがとうございます!」


「イクサさん!ありがとうございます!あの、お代は……」


「あははは、そんなのはいらないよ!この森の英雄の頼みだ!私に任せとけ!」


 イサクさんは笑いながらそう言った。ありがたい話だ。英雄っていうのはちょっと大袈裟だと思うけど。


「あー、あとは木材だな。ちょっと手持ちが切れててな。そうだなあ、モルファスさんに声かけてみるか」


 そうか、イチから作るんなら材料が必要だもんな。モルファスさんっていうのは、この集落の木こりの元締めをやってる親方の名前だ、確か。何度か会ったことがある。


「あ、だったら俺、モルファスさんに直接お願いしに行きます!」


「私も一緒に行くわ!シグマくん!」


「お、そうかい? じゃあお願いしようかな」


「はい!じゃあ、このギターは置いていきますので、よろしくお願いします!」


 兎にも角にも、イサクさんが快く引き受けてくれてよかった。

 俺とリィサさんはイサクさんにギターを託し、モルファスさんの家に向かうことにした。


 モルファスさんの家は、集落の外れでリドリー先生の家の近くだ。沢山の木材とそれを運ぶ台車が何台も置いてあるからよく知っている。


 モルファスさんの家に近づいてくると、若い木こりの人たちが木材を運んでいるところに遭遇した。ちょうど都合がいいと思って、声をかけてみた。


「すみません、モルファスさんはいらっしゃいますか?」


「ああ、親方なら森の中に仕事に出てるぜ。おそらく夜まで戻らないぞ」


 どうやら出かけてるみたいだな。夜まで待つというのも少し時間が空き過ぎているし、今日はもう諦めて家に戻るか。

 若い木こりさんに、明日またお伺いすると伝え、リィサさんとは一旦別れて家に戻ってきた。



 そして夕食時。


 ダズワルドさんに今日あったことを話していると。


「木材か。……それならば、とっておきの物があるぞ!」


 ダズワルドさんが子供のようなキラキラした目でそう言ってきた。


「ギターの材料になるかどうかはわからんが、最高の木から取った木材だ!」


「最高の、木ですか」


「ああ、そうだ」


 ダズワルドさんの話によると、フォーレンの森の奥の奥、最深部に超巨大な一本の木があるらしい。

 その大きな木は『精霊神樹』と呼ばれ、代々森の民の長と木こりの親方が受け継いで管理しているそうだ。


「あ、ひょっとして『神木の歌』で歌われているのって……」


「ああ、そうだ。精霊神樹のことだ」


 ほほー。それはすごいな。


「2年に一度、剪定をする決まりになっていてな、その時切った枝が木材として保管してあるはずだぞ。枝って言っても普通の木の幹ぐらいの太さはあるからな!」

 

「え!いやいやいや。そんな大事な木材、こんなことに使うのはもったいないですよ!」




 代々受け継いできている神木だろ? 恐れ多いよ。

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