24 最強の魔法
「本当に、こんなのでいいんですか?」
リドリー先生は、若干残念そうな感じでそう言うと、一枚の紙を俺に手渡してくれた。
俺は今、リドリー先生の家に来ている。カンジと、レイも一緒だ。
森の動物の凶暴化事件は無事解決し、フォーレンの森には平和が訪れていた。
だが、俺はやっぱり今回の一件で自分の不甲斐なさを痛感していた。
マーロンさん程とまでは言わないが、ある程度の魔法が使えないと、何かあった時に戦えない。戦えないと、大事な人を守れない。
レイは、その鮮やかな赤い髪を見るとわかるように、火魔法が得意なんだって。うらやましい。
カンジも、水の精霊の加護を受けた青い髪をしているので、少しずつ水魔法を覚えていってる。
俺は、あいかわらず無属性魔法は得意なんだが、属性をつける精霊魔法は苦手なままだ。
そこで、リドリー先生にお願いして、俺の最強魔法陣を作ってもらっていたのだ。
魔法陣は無属性魔法だから、俺がその魔法陣さえ覚えてしまえば使えるんだ。しかも俺にはチートスキル『自動翻訳』がある。古代の文字だってへっちゃらで読み書きできるのだ!まさに俺向き!
俺は、先生から渡された紙に書いてある魔法陣を眺めてみた。
ふむふむ、なるほど。そういう感じで描けばいいのね。
「ねえ、これなんて書いてあるの? 全然読めないんだけど」
「この魔法陣に使用されているのは、古代文字ですね!」
レイとカンジが横から覗き込んでくる。
「なんだよ、見るなよ!これは俺の必殺技なんだからな!」
俺は二人に見えないように魔法陣を隠す。まあ、見えたところでこの二人には使えないんだけど。
あ、そういえばどうでもいいことなんだけど、少し前から俺は自分のことを「俺」と言うようになった。みんなに対して打ち解けたっていうのもあるけど、この方が素の自分だからな。
「シグマくんのオーダー通りに作成しましたよ。覚えたての古代文字でね。でも、念押ししますけど本当にこんなのでいいんですか?」
「いいんですよ、リドリー先生」
俺がリドリー先生に作ってもらった魔法陣は、ズバリ「戦意喪失」の魔法陣だ。
その魔法陣を当てると、どんなに好戦的な奴でもたちまち戦う気がなくなって友好的になるという、最強の戦闘回避魔法。我ながら頭がいいと思ってる。
「もっと、古代の闇魔法とか、禁忌魔法とか、いくらでも用意できるんですよ?」
「いやいや、そんな物騒な魔法いりませんよ。俺は戦いを避けられるならそれが一番いいと思ってますから」
「シグマさんらしいですね」
「うん、シグマらしい」
カンジとレイがそう言ってくれた。
「わかりましたよ。あ、これ、一応その解除魔法陣です」
リドリー先生がもう一枚紙を手渡してくれた。そうだよな、一応これもセットでないとな。
「先生……。もう、変な副作用ないですよね?」
「それは……多分、……多分大丈夫です。今回は時間かけましたし」
あやっしいなあー。大丈夫かなあ、これ。
「心配しなくても大丈夫ですよ、この魔法陣は時限で消えますから」
「あ、そうなんですね」
「大体、丸一日経てば消えます」
「わかりました。頭に入れときます」
その後、カンジを先生の家に残して、レイと二人で家に帰ることにした。その帰り道の途中。
「なあ、レイ。ちょっと聞きたいんだけど」
俺は前から気になっていたことをレイに聞いてみることにした。
「なあに?」
「あのさあ、レイは本当は年齢いくつなの?」
「な!ちょ!ちょっと!女性に年齢聞くなんて、失礼でしょ!」
「今更なーに言ってんだよ、子供に戻ってるくせに」
「ま、……まあ、いいわ。……21歳よ」
21歳か。と、なると今レイは10歳ちょっとぐらいだから、おそらくあの若返りの作用は年齢を半分にするって感じだったのかな。マイナス10歳っていうのは、動物の変化具合を見ると考えにくいしな。おそらくそうだろう。
俺がそう考え込んでいると、レイが不機嫌そうに言ってきた。
「ちょっと!何かリアクションしなさいよ!」
「……ああ、ごめん、ごめん。あ、あとさ、「反転」の能力の事なんだけどさ」
レイは、あんまり本人は認めたくないらしいが、さすがに裏の組織で鍛えられただけあって、戦闘能力は高い。
ミックだった頃、ポグの眉間に一発で弓矢を命中させていたし。
魔法についても、俺に向かって無詠唱で炎の柱をぶっ放してきたぐらいだからな。
宮廷魔術師のマーロンさんに聞いたことがあるのだが、魔法を使う時、詠唱というのは必ずしも必要ではないのだそうだ。
ただ、出力する魔法のイメージをより具体的に頭の中に描くことによって、精度を高めるという意味で呪文のように詠唱を行なっているらしい。
つまり、無詠唱で高出力の魔法を出せるということは、かなりの魔法の熟練者だということになる。
そう考えると、やっぱりレイはかなり魔法も得意なんだということがわかる。しかも彼女は、風の回復魔法も使えるしな。
それに加えて、彼女の「反転」という特殊能力だ。
これを組み合わせると、とてつもなくバリエーション豊かな戦い方ができると思うのだが。
なんで、彼女は落ちこぼれだったんだろう。
「なんでも「反転」させて、見た目を変えられるんだろ? 例えば、男から女、大人から子供、そういう反対語さえ思いつけるんなら」
「そうよ。ただ、私が明確に頭の中でイメージできなきゃダメだけどね。「反転」もある意味魔法だから」
ふむ、なるほど。それもやっぱり頭の中のイメージなのか。
自分の中の魔力を使って発動させるっていう意味では、それも魔法なんだって事だな。
「じゃあ、例えばさ。自分で自分を「大きい」って思ったとするじゃん? で、それを反転させて「小さく」なることもできんの?」
「え? ……そんな事、考えたこともなかった」
おいおいおい、まじかよ。
「あとさ、逆に自分を「小さい」って思って、反転で「大きく」なるとか」
「ちょ、ちょっと!シグマあなた天才なの? そんな使い方した事なかったわ」
「嘘だろ? 普通、そういう能力持ってんだったらいろいろ実験しないか?」
「いやー、私にはその発想はなかったわー」
なんか、やっぱレイが落ちこぼれだった理由がわかった気がする。
「じゃあ、ちょっとさ。寄り道して、実験してみようよ」
「えぇー。シグマってば、私に興味津々じゃーん」
「はいはい。さっさと行くぞ」
俺とレイは集落から離れ、森の中の少し小高い丘の上までやってきた。
周りに人は、……いないな。よし。
「じゃあ早速、やってみてよ。まずは巨大化から」
「巨大化って、なんか印象悪いわね。なんか他の言い方してよ、もう」
レイはぶつぶつ文句を言いながら、少し目を閉じて集中し始めた。
すると、レイの体がみるみるうちに大きくなっていった。
「う、うぉぉぉぉ!!!すげえ!!!」
最終的には、おそらく20メートルあるかないかぐらいのサイズになった。
前世、海沿いの街で見た巨大ロボットの原寸大像くらいのサイズだ。
「わあ!!できちゃった!!周りがちっちゃい!!」
「いや、お前が大きくなったんだよ!すごいな!これ!」
「あ、でもこれ、ダメ。疲れる。長時間は無理っぽいわ」
そう言うと、レイは一瞬のうちに元のサイズに戻った。
「反転の変化量が大きくて、ものすごい魔力使った感覚。すっごい疲れる」
「え、でもミックになってる時なんて一日中変わってても平気だったじゃん」
「うん、そうなの。あの時は慣れてる反転だったからそこまで魔力使わなくてもできたのよ。今のは初めてやったし、体のサイズを変えてるからだと思うんだけど、ちょっと魔力の消費が半端じゃなかった」
「てことは、これも訓練すれば慣れてきて長時間できるようになるのかもな」
「そうね」
その後、いろいろ試してみて分かったことがある。
レイの反転に重要なのは、やはり「反対語」。
「大きい」「小さい」など、明確に反対語のある形容詞なら、だいたい反転させられるみたいだ。もちろん、元々使っていた「男」「女」や「大人」「子供」などの名詞もしかり。
でも、例えば「見える」「見えない」のように否定の語尾に変えるだけの反対語は無理みたいだ。「飛べない」から「飛べる」ようにはならないってことだ。
あとは多分、反転によって新たな能力が発現できるかというと、そうではないということだろうな。あくまで、「見た目を変える」に過ぎないのだ。
まあ他にも、多分突き詰めていけばいろいろわかってくるんだろうけど、レイはそこまで自分の能力に関して深く考えようとはしないので、確かめようがない。本人にしかわからないことだし、本人はあんまりやる気ないし。
「あー、いろいろやりすぎて疲れたー!」
レイがヘトヘトになっている。今日はこれぐらいにしておこうかな。
「あのさ、これからレイも朝の自主練付き合ってよ。一緒に訓練しようぜ」
「え、ちょっと!シグマ、積極的!早朝デートに誘ってくれてんの?」
「はいはい。さあ、帰るぞー」
といった訳で、その翌日から俺とレイの朝の自主練が始まったのだった。




