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23 新たな日常

「よう!黒髪の坊主!元気かい!」


 お祭りの日、黒髪を振り乱してそこら中を走り回っていたおかげで、俺の黒髪はすっかり集落の人々に知れ渡ってしまった。

 だからもう、バンダナは必要ないと思ったんだけど、意外と気に入ってるので今でも普段はバンダナを巻いている。


 それと、凶暴化した動物を解除して回っていた為か、集落のみんなから「魔法使いの子」として見られるようになってしまった。まあいいけど。


 今、俺に声をかけてくれたのは、猟師のスコットさんだ。


「ああ、スコットさん!元気ですよ!調子はどうですか!」


「いやあ、なんかよお。森の中の動物たちの様子が変なんだよお」


 ……ま、まさか!

 蛇十字がまた動き出したのか?!


「なんかよお。若いのばっかりなんだよ。成長前のやつは獲物にならないからよお。困ってんだわ」


「あ、あははははは。それは、大変ですねえ、なんでですかねえ」


 俺は、知らんふりしてやり過ごした。



 あれから、集落はどんどん復旧していっている。


 やっぱ森の民はたくましい。俺は、この集落の一員になれて本当に良かったと思ってる。



 ダズワルドさんにシェイナさんから通信が入ったらしく、その後の経過を教えてもらった。

 まず、王都は本格的にバトスの捜査を行なったらしい。

 自分たちの利益のために、裏の組織を使ってまでライバル業者の妨害を企てた罪は重い。

 王都の追及によってバトスのゴルボゴという指導者の企てはすぐに明るみに出た。

 ゴルボゴはすぐに更迭され、投獄されたようだ。

 ただ、やはり実行部隊である裏組織、蛇十字については全く手がかりが掴めなかったそうだ。

 近く、新しいバトスの指導者と、ダズワルドさん、それからレンベルト商会の代表者が集まって、木材の価格に関する協定が結ばれるらしい。これで、話がうまく収まってくれることを願う。


 お祭りの途中であんなことになってしまった、歌姫コンテストだが、今回はノーコンテストとなった。

 というか、ダズワルドさんの「なにも歌姫がひとりと決めつけなくていいじゃないか」の一言で、候補者3人全員が歌姫になった。

 確かにそうだ。歌姫というのは、年に一度のお祭りで森への感謝を歌で精霊に伝えるのが役目。だったら別に何人いてもいいと思う。

 ただ、一度3人の歌姫と楽団の人たち、それから俺と、ソフィーさんの旦那さんで集合してミーティングしたのだが、怪しげな雰囲気が漂ってきていた。3人並んで、踊りながら歌うのはどうだろう!みたいな提案をした人がいたんだ。ちょっとそれじゃあ、アイドルグループみたいになっちゃうよなあ。

 でもリィサさんも、ベールさん、ソフィーさんも、楽しそうだったからまあいっか。


 あ、そうそう。ギターだ。俺のギター、壊れたままのギター。

 楽団の皆さんも心配してくれて、森の伝統楽器を教えようか?と提案してくれる人もいた。ありがたかったが、俺はそれを断った。

 やっぱり俺の相棒は、あのギターしかない。ギブソンJ-45。あいつをもう一度弾きたいんだ。

 時間はかかるかもしれないが、俺は自分で修理しようと思ってる。

 ギターの修理なんかやったことはないが、なんとかなりそうな気はしてる。なにせ、俺は子供だから。時間はたっぷりある。


 変わったことといえば、そうだ。

 王都騎士団の騎士の人が、うちの集落に常駐するようになった。

 とは言っても、1週間くらいごとに交代するので、次々にいろんな人が来る。

 今は、実直そうな大柄の男性騎士、ホイッスルさんという人が来ているのだが、一日中ダズワルド家の入り口前で門番みたいに立っているので、なんか威圧感がすごい。


 レイを紹介した時のロロとカンジのリアクションは面白かったなあ。

 最初、びっくりさせないようにと、一度ミックの姿になってもらってから、「実は女の子だったんです!」っていうサプライズ。

 カンジはビックリして混乱していたが、意外とロロはうれしかったみたい。そりゃあ、女の子同士だからな。

 今では「レイおねーちゃん」って言って懐いてる。

 カンジも、最初こそなんか遠慮していたが、中身はミックなんですぐに打ち解けた。こういうところはさすが子供って感じだ。


 あれから、行商キャラバンがまた一度やって来た。

 ピピンさんは、今回の一連の騒動が解決したことを喜んでくれた。

 レイを紹介すると、やっぱり驚いていたけど。

 あと、今後の木材の売買についてレンベルト商会が深く入り込むことも喜んでたな。「うちの商会に任せておけば問題ないッス!」って言ってた。


 そんなこんなで、なんとなく平和な日常が戻って来た気がする。


 けど、俺にとっては、平和でもないんだよなあ。


「おい!シグマ!釣りに行こうぜ!」


「お前ねえ、女の子なんだからもっと女の子らしいしゃべり方しろよ」


「なんでよ!水くさいな!シグマとアタシの仲じゃん!」


 レイは、ミックとして過ごした1年間がよっぽど気に入ったらしく、ほとんどミックみたいなキャラで日々を過ごしている。

 最初のうちは元気がなくて、シュンとしていたのだが、日々の生活を取り戻していくうちに今のようなお転婆キャラになってしまった。


「あと、シグマはあの時言ったんだからね!これからの人生、一緒に歩んでいくって。それってさぁ、……プロポーズじゃーん?」


「そ、そんなこと言ってねーよ!どうやって生きていくか、一緒に考えようって言っただけだ!」


「もーう。シグマ、冷たーい」


 なんか、もう、レイのキャラが変わりすぎて、ついていけないよ俺は。ただ、なんか最近はレイに引っ張られて俺も素の自分が出てきちゃってるんだよなあ。せっかく今まで猫かぶってたのに。


「釣りって言ったってお前、一度も釣れたことないじゃん。……あ、でも仕方ないか。組織でも一度も仕事成功させたことない落ちこぼれだもんな」


「………う、うぐぐっ」


「わ!ば、ばか!泣くなって!」


 レイは、中身は大人なはずなのに、すぐ泣く。今まで泣きたいときに泣けないような、そんな生活をしてきた反動なのかもしれないし、単に身体に順応して中身が子供がえりしてるのかもしれない。


 まあでも、裏の組織にいたことなんてさっさと忘れたほうがいいに決まってるし、レイが少女として再出発するっていうんなら、俺は応援したい。

 だって、俺も似たような境遇なんだし。


「シグマー!レイー!あんたたち、暇なんだったらちょっとこっち手伝ってちょうだい!〈働かざる者食うべからず〉よー!」


「「はーい」」


 遠くから呼ぶアンナさんの声。それに応える俺たち。


 とりあえずはこの平穏な生活を、楽しもうと思う。




 俺のこの世界での生活は、まだまだ始まったばかりなんだから。

これにて、第一章は完結です。

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