22 少女の処遇
俺は、出過ぎた真似をしたと思って、周りの大人たちに謝った。
皆、笑顔で返してくれた。
少女はひとしきり泣いた後、ぽつりぽつりと自分のことを語り出した。
まず最初に彼女は、自分の本当の名前は「レイダ」ではなく、「レイ」だと言った。
組織に入った時に名前を聞かれ、「レイだ。」と言ったら「レイダ」という名にされてしまったのだと言う。
なんとも滑稽な話だ。しかし、魔法陣には「レイダ」って刻まれてたよなあ。あれは本名じゃなきゃいけないという訳じゃないのな。
それから、家族を早くに亡くしたこと、自分の能力のこと、親戚をたらい回しにされた挙げ句奴隷になったこと、組織に入ってからのこと、今回の仕事のこと、全てを語った。
ミックとして過ごした1年間、それまで味わったことのなかった家庭のぬくもりを感じて、仕事の手を抜いてしまっていた事も白状した。そしてその結果、組織からの目が厳しくなり、今回のこの騒動になったことも。
皆、黙って彼女の話を聞いていた。
やはりというべきか、レイには組織に関する重要な部分はことごとく知らされておらず、蛇十字に至る手がかりは無いに等しかった。
本当に今回の仕事も、ただ単純にフォーレンの森に潜んで魔道具を発動させろ、という司令のみだったという。徹底してやがるな。
アンナさんは、やっぱり最後までこのレイがミックだったということが信じられなかったみたいだったが、受け入れたみたいだ。
それにしてもわからないのは、なぜレイはあんなに執拗に俺を森の調査に誘ったのかだ。
問いただしてみると、単純に凶暴化したポグに俺や自分を襲わせて、ダズワルドさんに危険を強く印象づけたかったらしい。
ウォルフに遭遇したのは想定外だったんだそうだ。本当にちょっと抜けてるところがあるな。
話し終えたレイは、頭を下げ、どんな罰も受け入れると言った。
すると、マーロンさんがレイに尋ねた。
「ちょっと待って。じゃあ君のその「反転」の能力を使えば、現状子供である君は、大人に姿を変えることもできるんじゃないのか?」
「はい、できます」
「じゃあ、大人の姿になって、罪を償えばいいんじゃないか?」
「いや、それは危険だ」
シェイナさんは言う。
「相手は蛇十字だ。「レイダ」が生きていることを知ったら、また命を狙いにくるかもしれん。口封じにな」
それを聞いて、レイはビクッと体を強張らせる。
組織ならやりかねない、そういう意味なんだろうな。
「どっちにしろ、犯人は死亡したという扱いにせざるを得ないだろう。しかしな、これだけは言っておくぞ」
シェイナさんがレイに向かって厳しく言う。
「お前は今、子供の姿になっているから、許されているんだ。本当ならば厳罰を与えなければならんのだということは、肝に銘じろ」
「はい、すみませんでした」
「それに組織の中にいて、今日まで多くの他の悪事も働いてきたのだろ? その罪だってあるんだからな」
「あ、あの、それは………」
レイが恥ずかしそうにうつむく。
「私、今まで一度も仕事を成功させた事なかったんです。落ちこぼれで……」
は?一度も?なんですと?
裏の組織に属していて、そんな奴いるの?
道理でダメダメな訳だ。
「何? 一度もか? それは、何というか、その、…お気の毒に」
シェイナさんが同情してる!
マーロンさんは大笑いだ。
ここで、ダズワルドさんが口を開いた。
「シェイナ殿、マーロン殿、彼女はこれから、どうなるんですか?」
「そうだな…今回の犯人として彼女を連行するわけにはいかないが、秘密裏に王都へ連れていって、あとは情状酌量というところかな」
「と、いいますと?」
「見た目は子供だからな。身寄りがないなら王都の孤児院に入ることになるだろう。宮廷魔術師の「監視」の契約魔法を付けてな」
「監視の魔法、ですか」
「はい、そういう決まった術があるんですよ、我々宮廷魔術師の仕事です」
マーロンさんが付け加えた。
「なに、監視とは言っても常時見ているわけじゃありません。仮に対象者がなにか邪な考えを起こそうと思ったら反応して、宮廷魔術師にお知らせが届く、という程度の簡単な契約魔法です」
「あとは、孤児院の職員が面倒を見てくれる」
なるほど。便利なシステムだな。前世で言ったらGPS埋め込むみたいなものか。
でも、それなら……。
「あの、それでしたら!」
「だったら!」
「ちょっといいかい!」
俺とダズワルドさん、アンナさんが同時に喋り出した。
おそらく、3人とも同じことを言おうとしたんだろうと思う。
「あ、ごめんなさい。ダズワルドさん、どうぞ」
「ああ、あんたからしゃべりな」
俺とアンナさんはダズワルドさんに譲る。
「すまない。シェイナ殿、これは勝手なお願いになるかもしれないが。王都の孤児院に預けることになるんだとしたら、うちで預からせてはくれないだろうか」
レイが驚いたような顔でこちらを見た。
「もちろん、宮廷魔術師の契約はしてもらうとして、監視するというんなら私が責任を持ちます」
「なんだい、あんた。同じことを言おうとしてたんだね」
「あはは、僕もです」
俺とアンナさんは、ダズワルドさんがまさに今言ったことを言おうとしてたんだ。
「悪いけどね、シェイナさん、マーロンさん。……ミック、……いや、レイはね。うちの家族なんだ。身寄りはあるんだよ」
アンナはレイの方を見て、胸を張ってそう言った。
「……う、うぐっ」
レイはまた泣きそうになってる。こいつ、結構泣き虫だな。中身は大人のくせにな。
「そうですよ。王都にいようが、この森にいようが、監視してるんなら同じでしょ?」
シェイナさんが腕を組んで考え込んでいる。
さすがに無理かな。
「まあ、いいんじゃないの? ここには、シグマくんもいるしね」
マーロンさんがシェイナさんに言う。
俺がいるからって、どういう意味だよ。マーロンさんは俺のことだいぶ買い被ってるな。
「お願いします!」
「お願いします!」
「お願いします!」
ダズワルド夫妻と俺は3人揃って、頭を下げた。
「ちょ、ちょっと待て。頭を上げてくれ」
「いやあ、でもここは君の判断に委ねられているよ、シェイナ。この判断は騎士である君にしかできない。そしてなんと、都合のいいことに宮廷魔術師なら、ここにいる!」
マーロンさんは、もうこっちの提案を受け入れてくれてるみたいだ。
シェイナさんはしばらく考え込んだ後、意を決したかのようにこう言った。
「承知した。どの道、今回の一件の犯人は死亡扱いで処理するんだ。今ここでマーロンに契約を施してもらうことを条件に、ダズワルド氏以下、フォーレンの森の民にレイは預ける。……ただし!」
「……ただし?」
「この森の集落に、今後、王都騎士団の騎士1名を常駐させることとする」
「え? そ、そんなこと今君が決めて大丈夫?」
「大丈夫だ。再発防止策とでもなんとでも理由をつけて、私が上に話を通す」
お、おぉぉぉ。シェイナさん、かっこいい。
「あとは、……そうだ。ミックの姿にはもうならん方がいい。蛇十字はあの男子が「レイダ」だと認識しているからな。女子として生活すること。条件は以上だ。それでいいな?」
「ありがとうございます!!」
俺たち3人は大喜びで頭を下げる。
レイは、なんかもうすでに号泣している。
「しかし、カンジとロロになんて言おうかね」
アンナさんがダズワルドさんに言った。
「急にお兄ちゃんが、お姉ちゃんになっちゃうなんて、あの子たち、おどろくだろうね」
「そうだな、なんて説明したらいいものか」
「それは、おいおい考えましょう」
俺たち3人はそう言って、笑い合った。
マーロンさんの監視契約魔法が終わり、翌日、調査団のお二人は取り急ぎ報告のために王都に帰ることとなった。
街道まで迎えがくるというので、俺とダズワルドさんはお二人を見送りに来ていた。
「今回は色々と、ありがとうございました。森の民の長として、深くお礼を申し上げます」
「いえいえいえ、そんな堅苦しくならないでください。なんにせよ、解決してよかったです。ねえ、シェイナ」
「ああ、そうだな。これから戻って、話の辻褄を合わせなきゃならない事を考えると、頭が痛いが」
「またまた、そういうこと言わないの。僕も協力するからさ」
俺たちは和やかに笑い合った。
街道の向こうから、馬車のような乗り物が近づいてきた。
あれがお迎えだろうか。
ん? 馬車というか、あの車を引っ張ってるの、ドラゴンだよね。
行商キャラバンを引っ張っていたダロンゴンの小型版みたいなドラゴンだ。すげえ。
「おお、お迎えの方が到着したようですね」
ダズワルドさんがそう言った。
「では、黒髪の少年。また会おう」
シェイナさんが俺にそう言った。この人はずっと俺のことを「黒髪の少年」と呼んでいたな。
「はい、お世話になりました。あのー、名前では呼んでくれないんですか?」
「な!そ、そのほうがいいのか? では……シ、シグマ。また会おう」
シェイナさんは顔を真っ赤にして、兜をかぶってしまった。
なんで名前呼ぶだけでそんなに照れるんだろう。
馬車、いや竜車かな? が到着すると、シェイナさんはそそくさと乗ってしまった。
するとマーロンさんが、俺の方に来て、小声で耳打ちしてきた。
「シグマくん、昨日のレイさんに対する取り調べは、見事だったよ」
「そんな、取り調べだなんて大袈裟な」
「いやあ、見応えあったよ。子供とは思えないぐらい鮮やかだった」
まあ、中身はおっさんだからねー。
「ひょっとして君、見た目は子供、中身は大人、なんてことはないよね?」
ギクッ!
「あははは、そんな事あるわけないよね。どこぞの名探偵じゃないんだから。あははは」
そう笑いながら、マーロンさんは竜車に乗り込んでいった。
ん? マーロンさん? ん? ん?
お二人が乗り込むと、竜車は勢いよく、王都に向かって走り出した。
俺とダズワルドさんは、竜車の姿が見えなくなるまで手を振り続けて見送ったのだった。




