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18 突然の襲撃

「では、二人目の候補者だ。彼女は先代歌姫サラの娘さんだ。ソフィー!」


 ダズワルドさんが舞台で宣言する。


 ソフィーさんたち夫妻が舞台に向かっていく。さっきは少し緊張が解けたのかと思っていたが、やはりまだダメのようだ。

 旦那さん、右足と右手が同時に出ちゃってるよ。


 舞台に上がったソフィーさんは、直立不動で聴衆の前に立っている。

 旦那さんがいそいそと弦楽器の準備をするのだが、慌てすぎて途中で地面に落としてしまったり、散々だ。


 すると、聴衆の中から「がんばれ!」とか「リラックス!リラックス!」とか励ましの声が上がる。

 みんな優しいなあ。森の民は。

 でもねえ、その励ましの声を聞いて、余計緊張が高まっちゃうって事もあるんだよねえ。


「ソフィー!しっかりしな!」


 聴衆の励ましの声の中に、一際美しい声の応援が聞こえた。おそらくこれは先代歌姫サラさんの声だろう。


「別にあんたが継がなくてもいいんだからね!好きなように歌いな!」


 拍手が沸き起こる。

 すると、ソフィーさんの旦那さんがソフィーさんの背中にそっと手を当てた。そして、お互いにうなずきあい、意を決したいい表情になった。

 うん、家族愛、夫婦愛。よきよきだな。


 そして演奏が始まった。

 1曲目はやはりこちらも『神木の歌』だ。


 正直、歌の上手さで言うとソフィーさんは、ベールさんよりも下だ。もちろん、リィサさんよりも。

 でも、独特の声、印象に残る歌い回しが、何か心に残る。いい歌だ。


 2曲目は『大地の歌』。

 これも、とても素朴でいい感じだった。

 決してめちゃめちゃ上手いわけじゃないが、個性的で俺は好きだ。


 2曲歌い終えたソフィーさんは、とても満足げな顔をしていた。聴衆からも「良かったぞ!」っていう声が上がっていた。


 さて、次はいよいよリィサさんの番だ。

 これまで、二人とも1曲目は『神木の歌』を持ってきた。さて、どうしようか。


「さて、いよいよ3人目。最後の候補者、リィサだ!」


 舞台上のダズワルドさんが宣言した。


「リィサさん、『収穫の歌』『神木の歌』の順で行きましょう」


 俺は、リィサさんに呟いた。


「わかったわ」


「みんなの度肝抜いてやりましょう」


「うふふ」


 リィサさんは、全権を俺に託してくれている。俺たちは、拳を突き合わせてタッチし、舞台に向かった。


 舞台に上がると、聴衆の目が一斉にこちらに向けられ、拍手が巻き起こる。


 これこれ。この感じ。懐かしいなあ。


 聴衆の中に、アンナさんや子供たち、そしてテレサさんとメイドウさんの姿を見つけた。みんな拍手しながら「がんばれー!」と応援してくれている。

 お、リドリー先生とマーロンさん、シェイナさんの姿もあった。見にきてくれたんだな。


 俺は、椅子に腰掛け、ギターを構える。

 見た事もない楽器に、聴衆の中から「おぉ?」という反応があった。いいぞいいぞ。気を引けてる。


 俺とリィサさんは、アイコンタクトで準備オッケーのサインを出し合う。


 よし、1曲目だ。


 『収穫の歌』だ。これは、農業に従事している人たちの間で歌い継がれている、作物の収穫期を祝う歌。

 俺の前奏が終わり、リィサさんが歌い出すと、会場の空気がガラッと変わった。


 みんな、グッとリィサさんの歌に聴き入っている。


 よし、いい感じだ。リィサさんもいつも以上に声が出てる。


 とても気持ちの良い空気がその場を支配しているこの感じ。

 バッチリだ。


 リィサさんが歌い終わり、俺のギターがエンディングを迎えると、聴衆から大拍手とともに歓声が沸き起こった。

 やったぜ。気持ちいいなー!


 拍手は鳴り止まない。そして遠くの方から大歓声が上がった。


 え、そんなに? そんなに良かった?


 歓声は鳴り止まない。


 いつまで経っても。


 ……あれ?


 これ、歓声か?


 悲鳴混じってない?


 ちょっと様子がおかしいな。


 そう思い始めた時。遠くの方から走ってきた一人の男性が叫びながらこう言った。


「に、逃げろーー!!」


 え?


「おい、どうした? 何があった?」


 ダズワルドさんが逃げてきた男性に事情を聞く。


「ど、ど、動物たちが、群れで集落に入ってきた!」


「何だって!!!」


 群れで集落に? 嘘だろ。

 それってやっぱり、凶暴化した動物だよな。


 聴衆もざわつき始める。


 すると、聴衆の中にいたマーロンさんが舞台に飛び乗って俺の元に来た。


「シグマくん、まずいな。「遠視」で見たんだがかなりの数だ」


 遠視!!そんなことできるんだ、マーロンさん。いやいやいや、そんな事で感心している場合じゃないなこれは。


 ダズワルドさんが舞台上に立ち、大声で森の民たちに指示を出し始める。


「みんな、落ち着いて行動するんだ。戦えない者は、安全な建物の中に緊急避難してくれ。戦える者は、武器を用意してくれ!!」


 聴衆のみんなが一斉に動き出す。だが、一斉に動き出したもんだから、大混乱だ。


 そうこうしているうちに、また遠くから悲鳴が聞こえた。今度はちょっと近いぞ。


「わああああ!!もうやってきたぞ!!」


 見ると、数匹のポグの姿が見えた。目が赤く光っている。


 もう、来たか!


「とにかく、みんなを避難させないと」


 俺たちは、舞台から飛び降り、家族たちのもとへ行く。


 シェイナさんが剣を抜き、遠くに見えているポグの方へ向かおうとした時。


「シェイナ殿!勝手を言って申し訳ないが、動物たちをなるべく殺さないようにお願いできないだろうか!!」


 ダズワルドさんが叫んだ。


「な!何を!」


「凶暴化しているとはいえ、この動物たちも森の住人なんだ!!彼らを片っ端から殺してしまっては、森のバランスが崩れてしまう!!」


 ダズワルドさんは、森の生態系を気にしてそう言っているのだ。森の民としては、ごく当たり前の感覚なんだろう。


「今はそんな事!!」


「この通りだ!」


 ダズワルドさんが頭を下げる。そうした中でも、ポグは暴れ回っている。


「……わかった。ただ、黒髪の少年に目一杯働いてもらうことになるぞ!」


「……シグマ、頼む!!」


 ダズワルドさんは俺にも頭を下げてきた。


 まあ、なんて言うか。

 お安い御用ですよ。ダズワルドさん。


「では、とにかく凶暴化した動物は、麻痺させるなり、気絶させるなりしてくれ!あとは、こっちで対応するから!」


「恩に着る!みんな!武器は麻痺毒の矢にしてくれ!決して急所に当てるな!動物たちも救うんだ!!」


 シェイナさんは剣を鞘に収めると、森の民から棍棒を借り、それで動物たちの方へ向かった。昏倒させるつもりのようだ。


 ダズワルドさんから指示された森の民の皆さんは、戦える者は弓矢を携え応戦、戦えない者は避難を始めている。


「マーロンさん、これ、僕の魔法陣、追いつきますかね?」


「安心してくれ。解除の魔法陣なら、僕も習得した」


 え、マジ? この人、やっぱり天才なんじゃないの。


「シグマくん、そんなことより、そろそろポグの群れがこちらに到着するよ」


「シグマくん!私、麻痺薬と回復薬、それから魔力回復薬を職場から持ってくるわ!」


 リィサさん、ナイスだ。魔力切れを起こしちゃうかもしれないしな。


「お願いします!あと、ベールさんたちも、早く避難してください!」


 リィサさんは職場に向かい、ベールさん、ソフィーさんたちはそれぞれ避難していった。


 そういえば、うちの家族は?


「アンナさん!大丈夫ですか!」


 俺は混乱の中、みんなの元に駆けつけた。


「シグマ、大丈夫なのかい?」


「ええ、任せてください。凶暴化した動物たちは、何としてでも元に戻します!」


「頼んだよ!」


「アンナ母さん!大変です!ミックさんの姿が見えません!!」


 カンジがアンナさんに泣きついている。ロロは後ろで不安そうにカンジの袖を掴んでいた。


「なんだって!あの子、どこに行ったんだい、まったく」


 またミックの悪いクセか? 戦いに行ったんじゃないだろうな。


「アンナさん!とにかく、みんなを連れて避難してください。ミックは俺が見つけます!」


「ああ、わかった。たのんだよ」


 そう言い残すと、アンナさんはカンジとロロを連れて逃げていった。


 俺は、ゆっくりとバンダナを外す。

 その直後。凶暴化したポグの群れがこちらに向かってきた。すごい数だ。


「これだけの数を相手するのは骨が折れますねえ」


 リドリー先生が呟く。あ、先生いらっしゃったんですね。


「とにかく、動物たちは殺さずに。戦闘不能状態で留めておいてくれということですよね。みなさん、健闘を祈ります」


 そう言うと、先生も群れの方に駆け出していった。


 ダズワルドさんも、民のみんなに指示を出しながら、自分も魔法を駆使して戦い始めている。

 俺とマーロンさんは、戦闘不能の動物たちの呪いの魔法陣解除に駆けずり回った。


 時間が経つに連れ、ポグ以外の動物たちの姿も確認できるようになってきた。

 何と最悪なことにウォルフも数匹いる。


「マジかよ」


 怪我人もどんどん増えてきた。森の民の中で回復魔法が使えるのは数人しかいないので、その人たちもあちらこちらで治療に大忙しだ。


「シグマくーん!!!薬、持ってきたわよーー!!」


 遠くの方からリィサさんが大きな籠を抱えて走ってくる姿が見えた。助かる。


 !!!しかしその時、リィサさんの左側から今にも飛びかかろうとしているウォルフの姿が見えた。


 まずい!!

 リィサさんは気付いてない!!マーロンさんにお願いしている暇もない!!


 そう思った瞬間、ウォルフが飛び上がった。


「危ない!!」


 俺は無意識に駆け出していた。何か、何かで守らなきゃ。

 咄嗟に背中に抱えていたギターを体の前に抱えて、盾にする。

 そして、リィサさんとウォルフの間に滑り込んだ。


バキィッ!!!!


 なんとか、ウォルフからリィサさんを守ることができた。




 だが、俺のギターは無惨にも壊れてしまったのだった。

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