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16 騒動の真相

 リドリー先生とマーロンさんが、こちらを向いてあんぐり口を開けている。


 あれ? できちゃった。まずかったか?


「……シグマくん、君というヤツは……どこまで常識外れなんだい?」


 マーロンさんが口を開く。


「いや、なんか、できちゃいましたね。あははは」


「……本当に君の魔法は独学なのかい?」


「あははは」


 マーロンさんからの視線が痛い。


「いや!しかし!!これで私の描いた魔法陣は正解だったという事が証明されましたね!」


 リドリー先生はそっちの方が興味あるのね。


「……うむ。リドリーの言う通りだ。これは、すごい事だぞ」


「はい。この魔法陣を凶暴化した動物の魔法陣に当てる事ができれば、呪いは解けるという事です!」


「ああ、根本的な解決策ではないにしろ、対処としては完璧だ。森の凶暴化した動物を元に戻せるかもしれないんだからな」


 おお、そうか。確かに、凶暴化させている奴を止めないことには終わらないが、少しずつでも動物を元に戻せれば、被害は抑えられるもんな。いたちごっこになっちゃう気もするが、やらないよりはマシだ。


「シグマくん。この際、君が一発で魔法陣の無効化を成功させた事について、疑問に思うのはやめるよ。恥を忍んで言う。我々に協力してくれないか?」


 マーロンさんは、自分のプライドよりも、この問題の解決の方を選んでくれた。


「もちろん、僕もあきらめたわけじゃないよ。早急に練習は始める。対処できる人間は多い方がいいだろう?」


「あ、あの、でも僕、長に森に出るなと言われてるんで」


「ダズワルド氏には僕の方から話しておくよ。まさか、君が問題解決の切り札になるなんて、彼も驚くだろうけど」


「わ、わかりました」


 なんか、えらい事になってきたな。俺が王都の調査団に協力する立場になるなんて。

 だけど今回のこの騒動は俺も許せないし、解決の手助けになるんなら喜んで協力する所存だ。


「とにかく、王都からシェイナが戻ってくるまで待とう。行動するのはそれからだ」


「はい」


 その後、本当に俺の魔法陣が効くのか、残りの二体の死体で試してみた。いずれも、うまくいった。

 よかった、まぐれじゃなくて。



 そんなこんなで、慌ただしい毎日を送っていたのだが、森の集落自体はお祭りの準備が進んできていて、にわかに活気だっていた。

 あちらこちらで飾り付けが行われ、集落が華やかに彩られていく。


 本当に、みんなが楽しみにしている年に一度のお祭りが近づいているんだなあと、実感する。


 あれから、ミックはすっかり元気をなくしてしまった。よっぽどショックだったのか、叱られたことに落ち込んでいるのか。

 何をやってても、覇気がない。早く、元の元気なミックに戻ってほしいんだけどな。


 カンジやロロは、ウキウキで飾り付けを手伝っている。

 やっぱこういうところは子供の無邪気さだよなあ。お祭り、楽しみなんだろうな。


 そんな、お祭りの準備が着々と進んでいる中、シェイナさんが王都から戻ってきた。


 なぜか、俺も調査団のミーティングに呼ばれた。なぜかって言うのも変か。一応調査団の協力者だもんな。


 というわけで、いつものリドリー先生の家でミーティングは始まった。


「……おい。なぜ黒髪の少年がいる? 説明しろ」


 第一声はシェイナさんだった。そうですよね、なんか場違いですよね、俺。


 マーロンさんとリドリー先生が、事の顛末を説明する。シェイナさんは最初ギョッとした目で俺を見ていたが、途中から手をひらひらとさせて微笑んでいた。あれ、シェイナさんのクセなのかな。


「少年を巻き込むのは承服し難いが、この際やむを得ないか」


 シェイナさんも納得してくれたみたいだ。


「さて。では、王都でわかったことを報告する」


「何かわかったのか?」


 マーロンさんが問いかける。


「ああ。まず、レイダという人物についてだが。さすがに名前だけではどうにもならなかった。同じような名前の人物は国中にいるだろうしな。しかしだ。別の聞き捨てならない話が耳に入った」


「別の?」


「そうだ。今回の騒動を引き起こしている張本人についてだ」


「何!本当か!誰なんだ?」


「ああ、どうやらバトスの連中ではないか……という事だ」


「バトス? あの、バトスの大密林ですか?」


 リドリー先生が驚いた様子で言う。


 バトスの大密林というのは、王都のはるか南側に広がる大きな森で、王都の北西に位置するフォーレンの森と並ぶ、〈モスフェリア〉の2大森林地帯のことらしい。


「え? なんでバトスの大密林が関係してくるんだ?」


「これはな、裏の裏の裏の情報屋から仕入れたんだが」


 シェイナさん、情報屋に顔が効くのか。意外だな。


「バトスにもフォーレンの森の民のように、密林の民が住んでいるのは知っているだろう?」


 密林の民、か。なんか言葉尻だけで捉えると、ものすごい野生的なイメージだな。


「密林の民も、ここの森の民と同様に自然と共生して暮らしている、おだやかな民族だったんだ。少し前までな」


「ええ、私はその穏やかなイメージしかないです」


「数年前にな、指導者がゴルボゴと言う男に変わったんだ。こいつが曲者でな。拝金主義のひどい奴なんだ。これはあくまで噂なんだが、前任の指導者を失脚させたのも、ゴルボゴが裏で手を回したとかなんとか言われてる」


「そうだったんですね。……しかしそれと、うちの森と、なんの関係があるんです?」


 シェイナさんが、俺たちの顔を見回してこう言った。


「……木材だ」


「木材?」


 フォーレンの森にとって、木材、つまり林業は主要産業だ。その豊富な資源をお金に代えさせてもらって、生活していると言っても過言ではない。そしてそれはバトスの大密林でも同じなようで、木材を売るというのは重要な産業らしい。


「前はな、そんなに差はなかったんだ。お互い、フォーレンもバトスも自然のものを売らせてもらっている、という考えがあったから、最低限自分たちが生活できるくらいの量を伐採し、そんなに高い値段もつけてなかった。だが、バトスの指導者がゴルボゴに変わってから、一変した。バトスの木材の値段を大きく引き上げたんだ」


「え? そんなことしたら、売れなくなりますよね?」


 思わず俺はそう言ってしまった。


「ああ、少年の言う通りだ。たちまちバトスの木材は売れなくなった。そりゃそうだろう。同じか、もっと言えば、より質の良いフォーレンの木材は相変わらず安いんだからな。みんな、そっちを買うさ」


「……と、いうことは、今回のこの騒動はフォーレンを弱体化させて、自分たちの木材を売るためにバトスが仕組んだってことか?」


「だいたいは、そういう事だろう。森の動物を凶暴化させて、森に入るのは危険だということになると、森の民が森で仕事しづらくなる。そうすれば、伐採量も減る。やむなくフォーレンの木材も値段を上げざるを得なくなるだろうと、そう考えたんじゃないか?」


「なんてこった!そんなことのために!」


 マーロンさんが呆れて言う。俺も呆れた。この場にいる全員がそう思ってる。


「王都騎士団で、早急にそのバトスの集落を追及できないんですか?!」


「それがな。なにしろ、証拠がない。これはあくまで、まだ噂レベルの話なんだ。だが、私は確信している。少し強引にでもバトスの調査をしてほしいと、騎士団長には進言してきた。あとは、王宮がどう判断するかだ」


「こっちは、被害が出ているというのに……」


「私の力が及ばず、すまない」


 シェイナさんが頭を下げた。いや、シェイナさんは悪くない。ていうか、よくここまで短期間で調べ上げたもんだ。大した人だ。


「……私からは、以上だ」


 しばしの沈黙の後、マーロンさんが口を開いた。


「とにかく。しばらくは凶暴化した動物の対処に専念しましょう。それがこの森の民を守ることになる。いずれ、王都が動いてくれれば、バトスを追及して根本から解決できるでしょうから」


「独断でバトスに乗り込んじゃダメなんですかねえ」


「リドリー、物騒なことを言うもんじゃない。それに独断でって、この四人で乗り込むとでも言うのか? それこそ無駄足になるだけだ」


 マーロンさんがリドリー先生を諌める。意外とリドリー先生は好戦的なんだな。


「それに、もうすぐこの集落ではお祭りがあるそうじゃないか。せめて、そのお祭りが終わるまではちょっと大きく動くのはやめよう。民の皆さんに迷惑かかっちゃ悪いからね」


「僕も、マーロンさんの意見に賛成です。みんな、お祭りを楽しみにしてるんです。厄介事は少しの間忘れたいと思いますよ」


「そうですね、わかりました」


「ああ、私も賛成だ」


「じゃあ、バトスの件をダズワルド氏に言うのも、まだやめておこう。確定情報じゃないからね。せめてお祭りが終わってからにしよう」


 みんなの意見が一致した。


 せめてお祭りの日までは。


 そう願っていたのだけど。




 世の中ってのはそう甘くないみたいだ。

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