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13 救世主現る

「「うわああああああ!!!」」


 俺とミックが同時に叫んだ。


 そのオオカミのような巨大な動物は、涎を垂らしながら低い唸り声をあげている。


「み、ミック。あれは? な、なんだ?」


「……あ、ああ、あれは、ウォルフっていう、も、森の暴れん坊って言われてるヤツだ」


「森の暴れん坊?!」


 なんだよ、それ!そんなのが棲んでるのか!この森は!


「肉食の獰猛なヤツで、森の中でヤツに出会ったら一目散に逃げろって教えられてる。……俺も、見るのは2回目だ。前回は、ものすごく遠かったんだけど、こいつ、こんなにデカいのか」


「……おいおい、感心してる場合かよ」


 まだ、少し距離はある。


 ここは、逃げるしかない。しかし。


 目を赤く光らせたウォルフは、こちらに今にも飛びかかろうとしている。確実に凶暴化してるな。


「なあ、あれ、凶暴化してるよな?」


「……たぶん。これは、やばいな……」


「……逃げるしか……ないよな?」


「ああ、あ…………!!!!」


 悠長に会話してる暇なんてなかった。


 凶暴化したウォルフは一瞬のうちに距離を詰め、雄叫びを上げながらこちらに飛びかかってきたのだ。


「やばい!!避けろ!!!」


 間一髪、俺とミックはそれぞれ左右に転がって避けることができたのだが。


「ぐああ!!痛え!!!!」


 ミックの悲痛な叫び声が聞こえてきた。

 見ると、ミックは右手から血を垂らしている。

 すれ違いざまにウォルフの鋭い爪にやられたみたいだ。


「ミック!!!」


 一度スカされたウォルフは、すぐさま振り返り、ジリジリとミックに向かって歩き始めた。


 こいつ!!ミックを仕留める気だ!やばい!!

 ミックは右手を負傷しているから弓矢は使えない。


 だめだ!!今から魔法を。俺は魔力を集中し始めるが、とても間に合わない。でも。ここでどうにかしないとミックがやられる!

 俺は十分に装填しきっていない状態でマジックアローを打つ。

 それがウォルフの体に当たるのだが、そんな中途半端な威力の魔法、効くわけがない。

 全く気にしない素振りでヤツは歩を進めていく。


「うわああ!!くっそおおお!!」


 為す術がない。俺は自分の無力さを嘆いた。

 しかし、嘆いたところでミックが助かるわけじゃない。

 どうすればいい。どうすればミックを救えるんだ。考えろ。


 だが、そんな事はウォルフにとっては関係ないことだった。おそらくヤツは、ミックを仕留めたら次は俺の方にくる。

 絶望的だ。


 こんな、こんな事で、俺はまた命を落とすのか。

 せっかく奇跡的にもらえた新しい命を。俺はこんなにもあっさりと、失ってしまうのか。


 ダメだ。


 そんなのはダメだ。


 せめて最後まで、抗ってやる。


 俺は立ち上がると、がむしゃらにウォルフに向かって突っ込んでいった。


「うおおおおおお!!!!こんにゃろーーー!!!!!」


 ウォルフは突っ込んできた俺の気配にすぐに気がついた。そして、まるで邪魔な虫を追い払うかのように爪を薙ぎ払う。


「ぐあああ!!」


 俺は、吹っ飛ばされて、倒れ込んだ。まるで相手にされない。

 どこを怪我したのかもよくわからないまま、俺は意識が朦朧としてきた。


 ああ、ダメか。


 ………。


 気を失いかけたその時。


 ギャン!!というウォルフの悲鳴が耳に入ってきた。


 ん?


 俺はギリギリの状態で、もう一度目を開けた。


「お前たち!!大丈夫か!!」


 目の前には、銀色の全身鎧を身に纏い、剣を構えた騎士のような人が立っていた。

 そしてその前には、身を切られ、血を流しながら唸り声をあげるウォルフの姿があった。


 何が起こったんだ。これは、なんだ? 救世主か?


 さらに、もう1つ目を疑ったのが、その奥に、怪我が治って弓を構えるミックの姿が見えたのだ。


 おや? どういうことだ。


 混乱している俺の背後から、優しい男性の声が聞こえてきた。


「今、回復しますからね、治癒の水(ハイヒーリング)


 すると、俺の体が心地よい水に包まれるような感覚になったかと思うと、どんどんと傷が塞がっていき、痛みも消えて行った。

 これは……回復魔法か!


「あ、ありがとうございます」


 俺は、優しい声の男性の方を振り返った。そこには、俺たちよりも少し年上ぐらいであろうローブを身に纏った茶髪の男性がいた。そして驚いたことに、その男性の髪には赤、黄、緑、青の四色のメッシュが入っていた。


「黒髪の君、少し下がっていてください」


 優しい声の男性は俺の前に立つと、剣を構える騎士の後ろに立ち、持っている杖を構えた。


 次の瞬間、ウォルフが雄叫びを上げて、二人に突っ込んでくる。


雷光線(サンダーレイ)


 ローブの男性が唱えると、杖の先から雷が発生し、一瞬のうちにウォルフに到達した。詠唱が早い。この人は、かなりの魔法の達人だ。


 再び、ギャン!!という悲鳴をあげて怯んだウォルフに、すかさず騎士のような人が距離を詰め、剣を振り下ろす。


 ウォルフは、まるで先程までの殺気が嘘だったかのように、あっさりと絶命した。


 すごい。この人たち、ものすごく強い。

 俺があまりにも鮮やかな二人の戦いっぷりに感動していると、ミックが隣にやってきた。


「おい、シグマ!大丈夫か?」


 君は、人の心配をしている場合か。


「ミックこそ!怪我はないか?」


「ああ、右手をやられたんだけど、あの、なんか治してもらった」


「そうだよな、俺もだ」


 と、二人で話していると、突然雷が落ちた。違う意味での。


「君たち!!!!なんで子供だけでこんな所にいるんだ!!危険なのがわからないのか!!!!」


 怒られました。全身鎧の騎士さんに。


「たまたま私たちが通りかかったから良かったけど!」


 騎士さんが兜を取ると、中から金髪に近い黄色のボブカットの美しい女性が顔を出した。

 うお!美人!!リィサさんとはまた違ったタイプの凛とした美人!!!


「まあ、まあシェイナ。そんなに怒鳴らなくても。この子達、萎縮しちゃってるじゃないか」


 ローブの男性が優しい声でシェイナさんを宥めてくれている。


「しかしだな!マーロン!命に関わることなんだぞ!」


 マーロンと呼ばれたその男性は、俺たちの前でしゃがみ込み、二人の頭をそっと撫でてくれた。


「君たち、怖かったろう? でも、あの向かっていく勇気は大したものだ。それは誇っていいと思うよ」


 マーロンさーん。優しいー。惚れるぜー。


「まったく、君は子供に甘すぎるぞ」


「君が厳しすぎるんだよ」


 お二人の会話を聞いてると、俺たちもちょっとホッとして、笑顔になれた。


「さて、自己紹介が遅れたね。僕たちは王都から派遣された調査団だ。ダズワルド氏から依頼を受けて森の異変を調べにきたんだ。僕は宮廷魔術師のマーロン。で、こちらが」


「王都第三騎士団所属、近隣調査隊のシェイナだ」


 ダズワルドさんが依頼していた王都の調査団の人たちだったのか!


「あ、調査団の方々だったんですね!俺の名前はミックです!で、こっちはシグマ。森の民の長、ダズワルドさんの家でお世話になっています!」


 ミックが背筋を伸ばして緊張気味に言った。

 あ、そうか、ミックにとっては王都の騎士さんは憧れなんだよな。


「シグマです」


 俺も、頭を下げる。と、そこでいつものやつが来た。


「シグマくん、君は珍しい色の髪だね」


 いやいや、そんだけメッシュ入ってるマーロンさんに言われたくはないですけどね。まあ、しょうがない。


「あ、はい。よく言われます」


「黒髪の少年、それは生まれつきか?」


 シェイナさんが聞いてくる。


「はい、生まれつきです」


「そうか、初めて見たな」


「そうですね、興味深いですね」


 俺はそそくさとバンダナを拾いに行き、頭に巻いた。


「まあ、その話はいい。で? 君たちは何でこんな森の奥深くに、二人だけでいたんだ?」


「それは、その……、森の異変を二人で調査してたんです」


 俺は、正直に答えた。


「森の動物たちが凶暴化しているのは、意図的にされているっていう噂を聞いたので」


「あ、バカ!ミック!それは極秘だって」


「あ!!しまった!!」


 何でピピンさんからの極秘情報を俺たちが知ってるってバラしちゃうんだよ。ミックのおっちょこちょい。


「ふーむ。ダズワルド氏の家の子達なら知っていてもおかしくはないか。でもね、君たち。君たちだけで調査するなんて、危険だとは思わなかったのかい?」


 マーロンさんは優しく問いかけてきた。


「危険だとは思いました。でも、俺たち、この森をなんとか守りたくて……」


 ミックが泣きそうになってる。まあ、そうだよな。ミックの思いに俺も共感して一緒に行動してたんだしな。


「勝手なことして、ごめんなさい」


 俺は、頭を下げた。


「うん、まあ君たちの考えはわかった。しかし、本当にこれは命懸けなんだ。もう、こんなことはしないと約束してほしい」


「そうだね。凶暴化した動物が、いかに危険かわかっただろう? ここは我々に任せて欲しいな」


「はい、わかりました」


 俺たちは二人して、今後は勝手に森の奥深くには立ち入らないということを約束した。

 ミックもこれで諦めてくれるだろう。


「しかし、驚いたよ。フォーレンの森に到着した途端、君たちみたいな可愛らしい調査隊に出くわすとはね」


「面目ないです」


 マーロンさんは、あははっと笑いながら、また僕たちの頭をポンっと撫でた。


「まったくだ。勘弁してほしいな、だが、まあ、無事で何よりだ」


 シェイナさんも安心した顔を見せてくれた。

 俺が、そんな優しい表情のシェイナさんの顔に見惚れていると、それに気づいたシェイナさんは顔を真っ赤にして、再び兜をかぶってしまった。

 シェイナさんは、案外シャイな人なのかもしれない。


「さて、とりあえず、調査対象を回収しておくか」


 そう言うとマーロンさんは懐から巾着袋のようなものを取り出した。

 そして、その口をウォルフの死体に向け、「収納」と唱えた途端、ウォルフの死体がシュウンっと音を立てて小さな袋に吸い込まれていった。


「わあ!!なんですか!それ!」


「ああ、これはね、マジックバックと言って、いろんなものを収納しておける魔道具なんだよ」


「そんなものがあるんですね!!!すごい!!」


「すごいでしょ? これは古代の空間魔法を利用している物なんで、あんまり出回っていないからね」


 こ、古代の空間魔法???そんな魔法もあるの??


 あ、前にリィサさんが転移魔法か何かで俺が飛ばされてきたのかもって言ってたよな。

 その、転移魔法も古代の空間魔法なのか?


 そんなことを考えているうちに、マーロンさんは残りのポグ2匹の死体もマジックバックに収めていた。


「さあ、じゃあ集落まで君たちを送っていこうか」


 驚きと安心感でなんだか心の中が忙しいまま、俺たちは心強いお二人と一緒に集落に戻っていった。




 家に帰ってから、ダズワルドさんとアンナさんにこっぴどく叱られたのは言うまでもない。

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