10 魔法を習得したい
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………。
………。
ブゥン!!
お、よしよし。サポートモード立ち上げ成功っと。
あの初回サポート以来、初めての利用だったから、本当にちゃんとできるか不安だったんだけど、いけたみたいだな。
赤い画面に、いつものように文字が浮かび上がる。
《サポートです。いかがなさいましたか?》
「あ、お疲れ様です。ごきげんいかがですか」
………返事がない。
こういう社交辞令的な挨拶は必要ないってわけね。わかったよ。
「じゃあ、早速本題なんだけど」
無理かもしれないけど、一か八か聞いてみよう。
「前にさ、俺、魔法使えるかって聞いたとき、使えるって言ってたよね?」
《はい、その世界に対応した身体に組成しておりますので可能です》
「それってさあ、よくわかんないんだけど。どうしたら覚えられる?」
初回の時にサポートさんは「魔法を使う事は可能」と言った。
だったら覚えたいなと思って、あれからいろんな人に魔法を習得する方法を聞いたのだが、いまいちピンとこなかった。
みんな口を揃えていうのは、「体の中にある魔力をうんぬんかんぬん」「魔力を放出する際に精霊に語りかけてうんぬんかんぬん」。
いや、体の中にある魔力って何?
それがわからない事には、放出するも何もよくわからない。
ミックに聞いた時なんかは、「あー、俺魔法は苦手なんだ。もともと魔力が少ないんだよ。だから、あきらめてる」と言われる始末。
結局何もわからないままだったが、魔法にも向き不向きがある事はわかった。
で、話は戻るが、サポートは「魔法を使う事は可能」と言った。
ということは、少なくとも俺には魔法の素質は備わってるという事だ。おそらく。
あとは、魔力ってなに? っていう部分さえ理解できれば、修行すればなんとかなるんじゃないかと思ったのだ。
「この世界の人たちが普通に理解している、魔力っていう概念がどうしても理解できなくてさ」
《並行世界の違いによって、そこで生活している人類の常識が異なるという事は珍しくありません》
「そうだろ? これ、なんとかならない?」
《日常生活に支障があるようでしたら、対策を講じます》
「支障、あるある!大ありなんだよな、これが。なんとかしてよー、そっちの都合で転生させられたんだからさ」
別に支障があるわけじゃないけど、物は言いようだ。
《しばらくお待ちください》
そう表示されたあと、サポートさんからの反応がなくなった。
………。
………。
結構待たされるな。
あれかな? 上司に確認しに行ってんのかな? 稟議でも通しに行ってるとか?
てか、そもそもこのサポートさんに上司なんかいるのかな? いるとしたら神様か?
そんなことを考えてると、また、カシャカシャと文字が浮かび上がってきた。
《確認が取れました》
確認? やっぱり上司に確認しに行ってたの?
「お!で、どうなりました?」
《今回は特別措置として、その世界の一般的な10歳児と同等の基礎知識をアップデートプログラムとしてインストールいたします》
……アップデート? インストール???
なんか、ソシャゲみたいなこと言うんだな。
ていうか、俺の頭の中に、インストールすんの? そんなことできんの?
いや、まあできるのかもな。この肉体だって、新たにそちらで組成したって言ってたもんな。
「結構衝撃的なこと、さらっと言うのね」
《インストールを開始いたしますか?》
「うお!いきなりだな。……でも、はい、お願いします」
この世界の10歳児の持っている基礎知識か。まあ、問題ないだろ。
《ではインストールを開始します》
そう表示されたと同時に、頭上から光の束のようなものが俺に向かって降ってきた。それが俺の頭を包み込む。
う、うわ。何だこの感覚。
まるで、外からヒンヤリとした液体を頭に擦り込まれ、頭皮を通過し、直接脳みそに染み込んでいくような。
あんまり気持ちのいいもんじゃないな。これ。
と、思った瞬間!!
まるで遠い昔の記憶が、突然蘇ってきたような不思議な感覚が俺を襲った。
………………………!!!!!!!
あ、そうか!そうだ、そういうことか!
なるほど。ふむふむ。そうだよな、そうそう。それな!
さっきまで全然理解ができていなかった、魔力、魔法、精霊などに対する解釈が、いきなりできるようになった。できるようになったというか、感覚でわかるようになったと言った方がいいかもしれない。
なんで今まで理解できていなかったんだ、こんな簡単なこと。
「うわー、すごいな、完全に常識が覆ったよ」
《インストールが完了いたしました》
インストール前の自分が、何で理解できなかったか思い出せない程だ。
これは、サポートさんさまさまだな。やってもらってよかった。
「ありがとう、これでちょっとはこの世界で活動しやすくなったと思うよ」
《他に、何かございますか?》
「うん、大丈夫。また何かあったら、呼び出すよ」
《了解しました。それではお休みなさい》
「ありがとねー」
今回のこのサポートはかなり有意義だった。
今ならわかる。魔法は簡単だ。
でも、かなりの練習が必要だ。今の俺じゃあ、簡単な魔法さえできるかどうかわからない。
俺は、心に決めた。明日から、暇を見つけて魔法の練習をしよう。
ブツン!っと電源が切れるような音がして、俺は眠りに落ちていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌朝。
また一番に目が覚めた俺は、こっそりと部屋を抜け出し、森の中へ入っていった。
ただ、あまり深くへ入り込んでしまうと危険なので、少し進んだ人目のつかない所までだ。
周りに人がいないことを確認し、俺はバンダナを外した。
そう、まずわかったこと。
やはり魔法と髪は深い関連性がある。髪の毛を何かで覆っていると、うまく魔力を操作できない。
特に、俺はまだ初心者なので、バンダナをつけているとおそらくダメだ。
バンダナを地面に置くと、俺は手を前に出して、自分の体の中を巡っている魔力を手の先に集中してみる。
魔力というのは常に体の中を巡っている、血液みたいなものだ。
でも、目に見えるものではない。
意識すれば、自分の中の魔力はコントロールできる。いや、できるはず。
少し頑張って手の先に集中させてみたが、あまりうまくいかない。なんか、不安定だ。
これはやっぱり慣れだろうな。練習が必要だ。
次に、精霊の概念。
ダズワルドさんは、人はみな精霊の加護をそれぞれ受けていて、それが髪の色に反映していると言った。
それはおそらく概ね間違いではないと思うが、俺が感じたのは少し違う。
多分これは、純粋にこの世界に生まれた者と、俺みたいに異世界の知識がある者の感覚の差なのかもしれない。
精霊とは、この世界のどこにでもある空気のようなもので、常にそこら中を漂っている。
今も、この辺にウヨウヨいる。
それに意思はない。単純なエネルギーの集合体みたいなものだ。
それには属性があって、火や水、風、土、雷などの精霊の種類と同じだ。
そしていずれかの属性の精霊に働きかける事により、そのエネルギーを発現させ、さまざまな種類の効果が得られるってわけだ。
それが魔法の正体。
つまり、緑髪の「風」が得意な人たちというのは、風属性の精霊にアクセスするのが得意、というだけだ。
さらに、働きかけるのがうまいかどうかの素質が髪色の濃度に現れてくるのだろう。
また、精霊とのアクセスは、自分の魔力を使って行う。
魔力は、自分の体の中にあるものなので、もちろん有限だ。そしてその量も個人差があるのだろう。
ミックが、魔力がほとんどないから魔法は使えないと言っていたことも考えると、おそらくそういうことだ。
何となくの感覚だが、俺の体の中にはまあまあの魔力が流れている気がする。従って、俺には魔法の才能があるということになる。
だからあとは、精霊とのアクセスのコツさえ掴めば、俺は晴れて魔法使いというわけなのだ!
よしよし。早速練習だ。
もう一度手を前に出し、魔力を手の先に集中させる。
不安定だが、何とか集まってきたのがわかる。さあ、ここからだ。
まずは火の精霊をそこに関連づけてみよう。そこら中に、火の精霊が存在していることは認識できる。だが、それを何とか自分の手の方に引き寄せてみようと思うが、これがなかなか難しい。
こうか? いや、ダメだな。こういう感じか?
試行錯誤していると、なんとか少しずつではあるが火の精霊が集まってきた。
それに伴って手の先が熱くなってきているのがわかる。
よし、これぐらいが限界だ。一回放出してみよう。これはおそらく、初級火魔法の、アレだろう。
「ファイヤーボール!!!」
唱えたと同時に、俺の手の先からテニスボールぐらいの半透明な赤い球が放出された。
その球は勢いよく飛んでいき、一本の木の幹に衝突すると、ポフンッという何とも間抜けな音を立てて消えた。
ポフンッて。
俺は命中した木に近づいていき、当たった部分をよく見てみた。
これは………。うん、ノーダメージ。
触ってみると微かに熱くなっているのだが、お世辞にもこれは「ファイヤーボール」とは言えない代物だな。
うん、ドンマイ、ドンマイ。
まあ、魔法使うの、初めてだし。俺、火属性は苦手なのかもしれないし。
今日のところは気にしない。
その後、水、風、土、雷、それぞれの精霊を試してみたが。
水は、木が少し湿っただけ。
風は、放出する時に微風が吹いただけ。
土は、手が汚れただけ。
雷は、なんかシビれただけ。
なんなんだよ!!全然じゃん!!俺!!
いや、ドンマイ、ドンマイ。
焦っちゃダメだ。こんなもの、最初から上手くいくはずなんかないんだ。
日々、鍛錬鍛錬。
そろそろ朝食準備の時間だし、一旦帰ろう。
俺はバンダナを巻きなおし、程よい疲労感とともに家へ戻っていった。




