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09 黒幕の可能性

 行商人キャラバンが運んできた商品の数々は、とても興味深いものだった。


 中でも一番驚いたのは、魔石というやつだ。


 なんでも、この世界には魔力の結晶である「魔石」という宝石のような石があるらしい。ただ、とても貴重なので大層高価なものらしいが、その力は多種多様。

 様々な魔法を封じ込めておく機能があるということで、魔石を使用すれば家電のような道具ができてしまうのだ。

 一番驚いたのは、電話。こちらには電気というものがないので、「電話」とは言わず、「通信器」と言うのだが、まさに機能は電話そのもの。なんと、遠隔地との音声会話ができてしまうのだ。

 他にも、冷蔵庫やコンロ、ドライヤーなんかもあった。

 流石にどれも高価なので、アンナさんは何も買ってないけどな。でも、ダズワルドさん家には執務室に通信器が備え付けてあるそうだ。


 あ、ちなみにお金は、国が発行している通貨が普通にある。お札や硬貨などもちゃんとしたものがある。


 ピピンさんはいろんな珍しい道具や、おそらく魔法で冷凍された海産物、見事な模様の織物などいろんなものを俺たちに見せてくれた。

 

 行商キャラバンは、明日の昼にこの森を出発するということで、その間はここに滞在して、商談や小売りをするらしい。


 ピピンさんは、まだまだ新人なので仕事が忙しく、あまり故郷を堪能できなさそうだと残念がっていた。

 ただ、特別に上司の方が取りはからってくれて、今晩はダズワルド家で一緒に夕食を食べることになっているそうだ。


 それまでは一旦別れを告げ、家に戻ることになった。

 カンジは書物に夢中になっているリドリー先生のもとへ。


 商会の人とのお話を終えたダズワルドさんも合流し、俺たちは家路についた。



 ーーーそして、夕方。


「いやー、懐かしいッスね!久しぶりの実家って感じッス!うおー!あんまり変わってないッスね!」


 入ってくるなり、大声でテンションMAXのピピンさんがやってきた。


「お前、その大声どうにかならんのか。全然成長せんな、そういう所は」


 やれやれという表情で一緒にダズワルドさんも食堂に入ってくる。ただ、どこかその表情は嬉しそうにも見える。


 もうその頃にはカンジも帰ってきていたので、俺たち子供は全員でアンナさんの手伝いだ。

 手際良く夕食の準備が整ったので、全員で食卓についた。


「いただきます!」


 食事をしながら、ピピンさんの思い出話に花が咲く。

 そのほとんどが、ピピンさんのドジ話だ。小さい頃からドジばっかりしていたピピンさんは、何かにつけてダズワルドさんやアンナさんには世話をかけていたらしい。


「まあ、でもそんなピピンが、今じゃ立派な商人さんなんだから、大したもんだよ」


「いやー、立派かどうかは怪しいッス。自分、怒られてばっかりッスから」


「怒られて怒られて、成長していけばいいんだ。あせることはない」


 なんだかんだでダズワルドさんも、アンナさんも、ピピンさんが立派に働いていることが嬉しいんだろうな。親心ってやつだ。


 終始和やかに夕食は進み、みんな食べ終わった。


 その後、ロロとカンジはお風呂に。アンナさんとミックは夕食の後片付けに行き、食卓にはダズワルドさんとピピンさんと俺が残った。


 すると、ピピンさんはダズワルドさんに少し真剣な顔で話し出した。


「昼間、アンナ母さんには話した事なんッスけど」


「ん?」


「ちょっと聞き捨てならない噂を耳にしたんッス」


「噂? なんだ?」


「この森のことなんッスけど。最近、動物の様子がおかしいらしいッスね」


「ああ、そうなんだよ。おとなしいポグまで凶暴化しててな。被害も、1件や2件じゃないんだ。困り果ててるんだよ」


「それ、原因わかってるんッスか?」


「いや、さっぱりでな。でも、異常事態であることには違いない。近く、王都の調査団に来てもらう約束は取り付けてるんだが」


 おお、ダズワルドさん、ちゃんと手は打ってるのか。さすがは集落の長だ。


「王都からの調査団が来るんなら、……いずれ真偽はわかるッスねえ………」


「………真偽? どういうことだ」


「………この今回の森の異常、実は裏で手を引いてる奴がいるそうなんっス」


「なに? 本当か? 人為的なものだっていうのか?」


「はい。確かではないんですが、ある程度信用のおける情報ッス」


「………なんてこった」


 ダズワルドさんは頭を抱えてしまった。

 俺にとっても、ちょっと衝撃的な内容だった。

 意図的に動物を凶暴化させてる奴がいるって? マジかよ。


「ああー、シグマ、今言ったことはあんまり他では言っちゃダメッスよ」


「はい、わかってます」


「………そういう事なら、一刻も早く調査団に来てもらわないと。あと、……リドリー先生にも相談しようか」


 動物を凶暴化させている、しかも意図的にとなると、これは何らかの魔法か呪法の類を用いてる事は間違いない。

 王都出身で、様々な研究を行っているリドリー先生なら、何か知っているかもしれない。

 ダズワルドさんは苦虫を噛み潰したような表情で独り言のように続けた。


「………しかし、なぜ? 誰が? 動物を凶暴化なんかさせて、何をしようとしてるんだ」


 確かにな。目的がわからないことには、根本的に解決はできないだろうな。


「うちのキャラバンの規模なら、まず動物の凶暴化ぐらいならものともしないッスが、もっと大きな魔物とかを操られたりして、行商中に襲われたらとか考えると、商会としても他人事じゃないんッス」


「なるほど、そうだよな」


「だから、うちの親方も、王都のほうで早く調べろと働きかけるって言ってたッス」


「それはありがたい。……しかし昼間に会った商会の人はそんなこと言ってなかったぞ」


「あ、これ、うちの商会の中でも、結構極秘事項なんッス。自分はこの集落の出身なんで、教えてもらえたっス」


「お前、極秘事項をペラペラと」


 ダズワルドさんに少し笑顔が戻った。


「いやいやいやいや、ダズワルドさんは集落の長ですし、アンナ母さんはその奥さんじゃないッスか。これは言わなきゃって思って……」


「いや、ありがとう。教えてくれて。調査団の件は、再度私からも念押ししておくようにするよ」


「そうッスね」


「シグマ、さっきピピンも言ったが、この事はあまり人には言わないでおいてくれ」


「はい、もちろんです」


 なんかキナ臭い話になってきたな。

 もし、今の話が本当なら、ちょっとそいつは許せねえな。

 いや、もちろん俺が何かできんのかって言われたら、なんにもできないかもしれないけど。

 悪い奴っていうのは、懲らしめなきゃいけない。どこの世界でも。


 ピピンさんはその後、しばらくゆっくりしてからキャラバンに帰っていった。


 ダズワルドさんは寝る時間までアンナさんと深刻な顔をしてずっと話し込んでいた。



 ーーーそして、夜、寝る前。


 ベッドに入ってから、ミックが俺にこっそりと話しかけてきた。


「なあ、シグマ」


「ん? なに?」


「今日、ピピンさんが言ってた話なんだけどさ」


 ミックはチラッとカンジとロロの方を見て、寝ているかどうか確認した。

 二人は可愛い寝息を立てて眠っている。


「俺、聞こえちゃったんだよね。ピピンさんの話」


「ああ、あれな。物騒な話だよな」


「……お前、よくそんな冷静でいられるな」


「え、だって。そりゃあ驚いたし、誰かが裏で糸引いてるって聞いて、許せないなーとは思うけどさ。俺たちにできることなんかないだろ?」


「そうか? 本当にそうか?」


「そうだよ、だってまだ俺たち子供だろ?」


「ばかやろう!子供だからって、諦めていいのかよ!そんな悪党、懲らしめてやりたいだろ!俺は自分の手で真相を調べたいと思ってる。協力してくれないか?」


「そうは言ってもさあ」


 ミックの正義感が暴走してるな、これは。


「……俺は、こういう時のために日々訓練してきたんだ」


「ミック、ちょっと待ってよ。冷静になれって」


「いや、確かにカンジやロロを巻き込むわけにはいかないが、俺はシグマ、お前がウチに来たのは何かの運命だと思ってる」


「え、ちょ、運命って大袈裟な」


「年齢も近いし、俺、お前となら一緒に真相を突き止められると思うんだ」


「いやいやいや、無理だって。やめようよ」


「たのむよ、シグマ。そりゃ、俺たちだけで全てを解決しようなんて思ってないし、多分無理だと思うぜ? でも、何もしないでじっとしてるのは嫌なんだよ。一緒に森の中を調査するのだけでも付き合ってくれよ、な」


 ミックが俺の手をガシッと握り、嘆願してきた。


 調査。調査ねえ。まあそれぐらいならいいか。


「……うー、わかったよ。でも、約束してくれ。絶対無理はしない。危ないと思ったらすぐに大人に相談する。いいよな?」


「やった!ありがとな!シグマ!お前はいい奴だ!」


 まったく。調子がいいなあ。


「じゃあ早速、明日から調査しようぜ!!おやすみ!!」


 ミックは満足気に毛布を被った。


 なんかグイグイこられて力技で押されてしまったな。

 早速、明日って。思い立ったが吉日ってわけか。


 まあ、俺たちだけで何かできるとは思わないけど、森の中を調査するぐらいならいいかな。危なくなったら逃げりゃいいし。


 でも、日々訓練しているミックと違って、俺は戦闘手段ないぞ。

 いざ、なんか危険な目にあった時、戦えないと困るな。


 どうしよっかな。


 うーむ、仕方がない。ちょっと前から考えてた事なんだけど。


 ダメ元で、聞いてみるか。




『……サポート、オン』

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