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プロローグ

 俺の名前は、志熊(しぐま)(すすむ)。35歳。売れないアマチュアミュージシャン。


 若い頃は「俺は音楽で生きていくんだ」とばかりに、意気込んでバンドを組み、プロミュージシャンを目指していた。


 でも、当時のバンド仲間も一人やめ、二人やめ……。

 気がつけばこんな年齢になるまで、音楽にしがみついて生きてきてしまった。

 もちろん、音楽だけで生活できるわけでもなく。


 バイトを掛け持ちしながら、一人でライブハウスに細々と出演したり。ストリートで歌ったり。

 若いバンドマン達のサポートメンバーをしたりしながら食い繋いでいる。


 もうとっくにプロにはなれないと理解しているのに、俺は世間をやっかみながらダラダラと生きているのだ。


 今日も、将来有望な後輩のライブのサポートに向かうため、アコースティックギターの入った黒いケースを背負い、8月の炎天下、交差点で信号待ちをしていた。


「今日は特にあっついなぁ……」


 独り言を呟きながら、ハンカチで汗を拭う。

 拭っても拭っても、次から次へと噴き出てくる汗。


 嫌になる。

 何やってんだろうな、俺。


 横断歩道を渡った先に、公園が見えた。


 あそこまで行けばちょっとした日陰もあるし、少し休憩していくか。


 びゅうん。


 目の前を猛スピードで車が走り抜けていく。


「早く青にならないかなぁ……」


 歩行者用信号機を凝視する。


 早く。早く。


 信号、早く変われ。


 こっちは暑いんだよ。


 そう念じていると、歩行者用信号が赤から青に変わった。


 ぴよっ。ぴよっ。ぴよっ。


 歩行者用信号から音響信号が鳴り響く。

 俺は小走り気味に、横断歩道の先の公園に向かって歩き出した。


 日陰に行きてー。


 横断歩道の中頃まで進んだその時。


 ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


 轟音が右耳を劈いた。


「………!!!」


 驚いて右の方を見ると、そこには猛スピードで突っ込んでくるトラックの姿が見えた。


「う、うわあああああ!!!!!」





 ………ああ、俺死んだな。





 ………。


 ………。


 ………あれ?。


 どうなった?


 俺、死んだ?


 まあ、あんだけのスピードで突っ込んできたトラックに轢かれたら、多分即死だろうな。


 でも………、体、痛くねえな。


 どうなったんだろう。


 意識はあるのに、体の感覚がないぞ。


 ………目の前、真っ暗だし。


 ていうか、俺、目は開けてるのか?


 それもわかんないな。


 ………ひょっとして、これから死後の世界に行くとかかな。


 死んだことないからわかんねえや。



 次の瞬間。


 ブゥン!!


 まるで、古いブラウン管のテレビのスイッチが入ったような音がし、目の前が赤一面に染まった。


「ぅお!!」


 思わず声出ちゃった。


 いや、声は出てねえか。


 何この、赤い画面。


 よく見ると、左側に白く点滅する、入力待ちのカーソルのようなものが見えた。


 カチャカチャカチャカチャ。


 キーボードで打鍵するような音とともに、赤画面の中央あたりに見たことのないような文字が白く浮かび上がってくる。


 なんじゃこれ。


 すると、浮かび上がった文字は、次々といろんな文字らしき形に目まぐるしく変わる。


 カシャ。カシャ。カシャ。


「お、お、お、お、なんだなんだ」


 カシャカシャカシャカシャ。


 そして。


 アルファベットの羅列になり。


 漢字の羅列になり。


 最終、カタカナの羅列になって、止まった。


《エラーデス。シグマススム。35サイ。オトコ。ヨテイガイノシボウデス》


 ………ん?


 なにこれ?


 ヨテイガイノシボウ?


 予定外の脂肪???


 どういうことだろう。


「あ、あのーどういう意味ですか?」


 一応声に出して聞いてみた。つもり。


 すると、


 画面の文字は消え、今度は最初からカタカナが一文字づつ表示される。


《モウシワケゴザイマセン。アナタハ、シヌヨテイデハアリマセンデシタ》


 ………は?


 あ、あーーー!!! 「予定外の死亡」ね!


 ていうか、死ぬ予定ではなかったって? どういうことだよ。


「あのー、さっきの交通事故が不慮の事故っていうのはわかるんですけど、俺は死んだんですよね? あ、あとカタカナわかりにくいんで、ひらがなと漢字混ぜて表示してもらえます?」


 文字は答える。


《了解しました。あなたはまだ死ぬ予定ではありませんでした。申し訳ございません》


「死ぬ予定ではなかったってどういうこと? ………あ、ひょっとしてあれ? 魂がどうとか、輪廻がどうとか、そういう話?」


《その通りです》


「あー、そうなんだ。俺、死ぬはずじゃなかったのに死んじゃったってことね」


《こちらのミスです。申し訳ございません》


「あー、いいよいいよ。別に生きててもつまんなかったし。たいして未練もないしさ。ここで人生終了でも全然大丈夫ですよ、はは」


《お詫びといたしまして、あなたの魂を異世界に転生することができます》


「……え?………異世界?」


《現在の記憶を保ったまま、並行世界のどこかに転生することができます》


「…………」


《希望しますか?》


「希望?………しません」


 予想外の答えだったのか、一呼吸置いて文字が表示される。


《了承できません。異世界への転生を希望しますか?》


「だからしないってば」


《了承できません。異世界への転生を希望しますか?》


「……こっちには選択権ないのかよ。ここで俺、死亡扱いにしてくれないわけね。あー、なんか都合悪いの? 魂の数が余っちゃうとかそういうこと?」


《おっしゃる通りです》


「じゃあ、……まあいいよ、転生とか楽しそうだし。あ、その代わりさ。こっちの希望も聞いてくれる?」


《なんなりと》


「えーっと、まずはー、年齢。せっかくだからもう一回人生をやり直したいけど、赤ん坊からっていうのはちょっと面倒なので、……そうだなあ、10歳くらいにしてくれない?それからー、異世界転生お決まりの、なんかチート能力? つけてくれるとうれしいな。あ、ギター!このギターも持っていきたい!」


《了解しました。できる限り善処いたします》


「おー、言ってみるもんだな」


《では、転生を開始いたします》


 そう文字が表示された瞬間、赤い画面はプツンと切れ、再び真っ暗な視界となった。




 ……と、同時に俺の意識も遠のいていった。

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