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筋書きに沿うかのように。

 ニコール達の活躍によりベイルード伯爵が投了、プランテッド家が旧パシフィカ侯爵領も治めることと侯爵への昇爵も決定的となった年の冬。

 年末となって色々と慌ただしくなってきた中、クリィヌック王城では御前会議が開かれていた。


「では、プランテッド家を侯爵とすることに異議のある者はおらぬな?」


 国王ハジムがそう問いかければ、その場に居並ぶ全員が頷いて賛同の意を示した。

 今この場に居るのは、侯爵以上の面々で、プランテッド伯爵であるジョウゼフはいない。

 彼の領地加増と昇爵を決める会議なのだから、いないのもある意味当然ではあるのだが。


「納まるところに納まった、と言うところでしょうかな」

「ま、少なくとも表立って文句を言う者はおらんだろうよ」


 ジョウゼフと親しいラフウェル公爵が言えば、国王ハジムは一つ肩の荷が下りたと言わんばかりにほっとした顔で頷いて見せる。

 ちらりと視線を動かして見れば、この場にいる貴族達の中で心から賛同している者が三分の一、残りは表情から読めないといったところ。

 三分の一が中立、三分の一が不満を持っている、くらいの考えでいた方がよいはず。

 ただ、そんな不満を持つ人間も表立って文句を付けることが出来ない程の成果をジョウゼフは挙げてきたのだ、何か余程の事がない限りは外野も黙っていることだろう。

 そう、余程のことがなければ。


「これで領地絡みのゴタゴタも片付き、来年から王太子妃候補の選定に入れるわけだが……さてどうしたものか」

「まったく……タイミングが良いのやら悪いのやら……かえって悩ましくなりましたなぁ」


 溜息を交えながらハジムが言えば、ラフウェル公爵が合いの手を入れる。

 ハジムの息子、第一王子であり王太子でもあるカシュバルは来年で20歳となるが、いまだに婚約者が決まっていない。

 なぜなら、先代国王がそのように定めたから、である。この時点でハジムとしてはあまり面白くないが、その理由がさらに納得がいかないものだったりする。


「例の占い師、チェステが今年までは決めぬよう言っていたのはこのためか、と邪推すらしてしまいますな」

「左様。まるで計ったかのように、年回りも合う令嬢の身分が上がり、そちらの釣り合いも取れるようになってしまった。

 おまけに、その令嬢の才覚も申し分ないと来ているのが悩ましい」


 先代国王は、一人の女性占い師を重用していた。年齢不詳な彼女が占った結果、王太子カシュバルの婚約者選定は来年以降になってしまっていた、という経緯があったのだ。

 占い師ごときの進言で国家の一大事が左右されてしまったことが、まず業腹もの。

 更に、王太子妃の座が浮いているため、カシュバルと年回りの合う高位貴族令嬢達の婚約がほとんど結ばれていないというのもよろしくない。

 先日のファニトライブ王国王太子サウリィを迎える夜会には良かったが、彼はどの令嬢とも婚約を結ばなかったから結果として無駄に終わってもいる。

 だからハジムとしては迅速かつ円滑にカシュバルの婚約を纏めてしまいたいのだが。

 そこにいきなり、才気煥発な侯爵令嬢が誕生してしまったのだから話が更に面倒になってしまったわけだ。

 この侯爵令嬢とは、言うまでもなくニコールのことである。


「ニコール嬢に関して言えば、才覚は、と言うべきでしょう。こう言ってはなんだが、彼女の性格は王太子妃向きではない」

「それに関しては否定のしようもないですな……彼女は好き勝手させてこそ力を発揮するタイプでしょうし」


 とある侯爵が言えば、プランテッド家贔屓のラフウェル公爵も頷かざるを得ない。

 というか、彼自身もニコールを王太子妃に推すつもりは全くなかった。もちろんニコールの性格が、というのもあるが。


「そもそもプランテッド家から王太子妃を、というのは避けるべきでしょう。

 パシフィカ家を侯爵から落としてその座を奪った上に王太子妃に、など出来すぎにも程があります」

「全くだ、侯爵となったことだけでも出来すぎだというのに。

 これでプランテッド家から王太子妃、後の王妃など出してみろ、内外からは王家が依怙贔屓しているようにしか見えんわ」


 やや乱暴な口調になっているのを、咎める者はいない。何しろ、ここにいる全員が同じようなことを考えていたのだから。

 だが、国王ハジムは微妙に苦い顔である。


「ワシもそう思うのだがな。チェステめ、身分に拠らず政略に拠らず、才覚に拠ってのみ王太子妃を選ぶべしなどと言うておってな。

 親父殿もそこは口煩く言うとるのだ。言われた時はそんなものかと聞き流しておったが、こうなってくると何やら気味の悪いものすら感じるわ」

「つまり、プランテッド家が侯爵となり、ニコール嬢が候補に入ってくることを予見していた可能性がある、と?」

「ああ、その通りだ。だからこそ気に入らんし、言う通りにするのもムカつくんだが……本当に見通しておったとすれば、無視するのも落ち着かん」


 ハジムの愚痴ともとれる発言に、貴族達も困惑を隠せない。

 確かに占い師チェステの占いはよく当たり、だからこそ先代国王も心酔していたのは事実だ。

 だが、もちろん外れることもあり、よく当たる占いの域を出ないものでもあった。

 しかし、こうなってくると気味の悪いものを感じてしまうのも仕方がないかも知れない。


「才覚で言えば、アドウィスティア公爵のところのご令嬢もよろしいのでは」

「能力は確かにあるのだが、なんせカシュバルとは従兄弟同士だ、血が近すぎる。なしではないが、しかし躊躇われる」


 元々王家の血を引くアドウィスティア公爵家に、ハジムの妹が降嫁して生まれた娘であれば普通の従兄弟以上に血が近い。

 血を引くと言ってもしばらく降嫁していなかった遠縁なので、有意な差は出ないのかも知れないが、万が一もありえる。

 ならば、他の家から選出すべきなのだろう。


「もういっそのこと、伯爵家以上の家から候補となる令嬢を推薦させ、競わせて選考しますか」


 とある侯爵が冗談めかして言うが、返って来ると思っていた否定の声が返ってこない。

 見れば、皆が皆、それぞれにそれぞれな表情で考え込んでいた。


「……なしではない、な……」


 全員の内心を代表するかのようにハジムがぽつりという。


「ええ、そうやって競わせた形で選ばれた令嬢であれば、才覚という点をクリアしたと言えるでしょう。

 その際に、ニコール嬢が選ばれなかったとしてもそれは仕方のないことです」


 このラフウェル公爵の発言に、その場に居た全員が少しばかり落ち着いた顔になる。

 元々彼はニコールが王太子妃になることに否定的な態度だったが、こうして選ばれないことを受け入れるとまで明言したのだ、これで政局を不安定にしてまでニコールを王太子の婚約者にする必要性はなくなった。少なくとも王宮内では。


「では、そのように触れを出すこととしよう。……ラフウェル公、念のためジョウゼフにも確認を取っておいてくれ」

「は、かしこまりました」


 ハジムが言えば、ラフウェル公爵が、そして他の貴族達も頭を下げる。

 こうして王太子カシュバルの婚約者は、公募からの選抜という前代未聞の形を取ることになった。



 

 そして、そのお触れが下知された頃。


「本当に、チェステ様のおっしゃる通りになった……」


 一人の令嬢が、自室でソファに腰掛けながら、小さく呟いていた。

 少し赤みがかった、ピンクブロンドと言われる髪が背中の半ば程までしか伸びていないのは、伸ばしはじめて数年しか経っていないからだろうか。

 少し幼げに見える顔立ちだが、しかしその表情は硬く、どこか切羽詰まった真剣なもの。


「これで後は、私が王太子様の婚約者になるだけ……ならないと、いけない……」


 ぎゅっと手を握り合わせ、天井を見上げながら呟く姿は神に祈りを捧げるかのよう。

 ただ、それが向けられる先は一人の占い師でしかなく。

 そしてその占い師が神かそれともそれ以外の何かなのかなど、彼女が知るよしもなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 王子の婚約者を目指すピンクブロンド……? 遂に原作主人公登場かー?
[良い点] おかえりなさい! 新章スタートですね~ 今度はどんなおせっかいが爆発するか楽しみに〜
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