プロローグ 7
オブリビオン·メモリーの被害を受けた国民。間逃れたにしろその者の家族、友人、知人、恋人。日常生活に関わる多くの人々に多大なる障害をもたらしたこの大災害から早くも七年の月日が経過する。
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新たな社会構成の構築。
オブリビオン·メモリーを引き起こした日本は時代の変革を目指した。
いいや、他国からの軍事政治に支配され始めたのだ。
『我々はこの日本に新たなる光。明るい未来を目指す為に立ち上がったGeneral Salvation Messenger 日本国民達を守る救済の使者 GSM である。この日本は残念ながら死んだ。七年前の悲劇は繰り返してはならない。オブリビオン·メモリーで引き起こされた集団記憶喪失は人生の喪失であり回復の可能性は乏しい。しかし我々は、記憶を持つ者達には未来が残された』
街を歩く者。演説に耳を傾ける者。ホームレスになってしまった者はベンチに横になりながら。
演説は駅前で行われていた。
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SAS療養室内。
「竜胆博士。黒嶺竜胆博士」
「なんだね。俺の眠りを妨げてくれるのは」
「時間ですよ博士」
「時間? なにか重要な会議でもあったかな?」
「何とぼけてるんですか。博士と私の息子の刻夜があれから七年です。やっと目を覚ましましてくれます。博士があなたが頑張ってきたおかげで救えた命が目を覚ますんですよ」
「そうか、雫。良かった。君と俺の研究はきっと人類をこの失った日本を変える。長かった。実に長かった。約二十年以上前だろうか。呪術、魔術、超能力、異能を追いかけ、日本で見つけた少女、黎華を調べる事から始まり、俺達の息子とした刻夜が昏睡状態で約七年。普通なら高校生の年齢だな。俺もすっかり年をとってしまったな。ははは……」
『ICUより連絡が入りました。繋げますか?』
療養室のAIロボットが竜胆達に通達する。
「ああ、繋げてくれ。」
通話はICUにいる藤堂からだった。
「竜胆博士。俺の意識だけ異世界に飛ばします。もし、俺が死んだらその時は弔って下さい」
「もちろんだ。藤堂は新たな可能性。意識だけを飛ばす事を研究してくれた。その成果は必ず答えを出してくれる。君は代表で命をかけて日本を救う英雄となるだろう。俺達の誇りだ。そうだな君に言葉を授けるなら、終わりではなく始まりを告げる不死鳥であれ。藤堂よ刻夜とともに世界を変えてくれ。これからが俺達の祈願、現世に影響を与えたファンタジーな異世界を体験してくれ!」
「はい。行って来ます」
ICU内は着々と実験が進められる。
「これより、黒嶺刻夜、藤堂夏樹両名のコールドスリープを開始します。脳波パルス異常無し、細胞の活性化を確認。血圧上昇。心拍上昇。カプセル内の酸素濃度平均値の二十パーセントより十パーセント上昇。鎮静剤投与開始。細胞の活性化安定。心拍数安定。脳波パルス同調。コールドスリープ成功。刻夜の脳波に逆行パルス確認ノイズ確認。藤堂の脳波にさらに同調を確認。ノイズによる藤堂の心拍の乱れ確認。鎮静剤追加投与し安定。二人の脳波は完全同期しました。」
AIロボットが映し出すICUの現場状況に療養室の二人は安堵した。
ドアをノックする音に気づいた雫は腰を下ろしていたベッドからドアに向かう。
「あなたは、たしかフィリアさんね」
「はい。私は当時、あの教会にいたシスターのフィリアと申します。竜胆博士は……」
「居るわ。入って」
「失礼します」
「竜胆博士の祈願は達成ですね。私は観測者。二人の意識は確かに私の故郷の街に降霊しました」
「そうか。成功したんだな。……これからが物語の始まりだ。俺達もここSASから観測し世界を取り戻す。もう一頑張りだ。雫にフィリアやるぞ!」