プロローグ 6
「あの物語を現世でやるつもりだ」
「ほんと怪奇物過ぎるだろ。まぁ、ここ十年俺も年取ったよ。認めるしかないのは分かってるし、だからここにいるわけだし」
「藤堂くん君いくつになったの」
「俺っすか。俺は大学卒業してから竜胆さんに声をかけてもらったので、今年で三四歳ですね」
「お前ら今必要な会話かそれ! 天薙はおそらく、中からこの状況を変える。だろう。いったん俺等は外に戻り体制を整えることにする」
「了解です」
アンチフィールドの外に戻った竜胆は部隊に作戦の変更を告げた。
「これより森の中の圧力が治まり次第、教会にいる保護対象の少年ならびに神父を管理下におくため拘束を許可します。これは、日本国の命令と同義である。それまで監視カメラとドローンからの映像を見ながら自分の身の安全第一に待機するように」
この事件は竜胆の予想を越えた。後にオブリビオン・メモリーと呼ばれる大きな災害、伝染病を引き起こす事になったのだ。引き金となったのは言うまでもない。冴島の呪術いや、魔技による影響が大きい。
竜胆達が用意したアンチフィールドはその名と反対に冴島の暴走した魔技が広範囲に影響を与えた。波長の中和ではなく拡散。事例のない事象に根幹から的をはずす結果になってしまった。
防護服を着ていた竜胆達と、そこにいた部隊を含め、地下シェルターへの避難が出来た者達は、影響を受けずに済んだものの、影響範囲内の避難出来ずにいた者達は唐突に記憶を失っていった。
この一件で研究所は当面の凍結を言い渡される事になり、国は結果的に国家機関の研究とされていた事実を隠ぺいするように竜胆達にすべてを負わせると閣議決定された。以後、この異世界と現世についての研究は表向きではなく、国民に秘密裏に進める流れで記憶を取り戻す為に実験を継続する事になった。
「竜胆さんはこの子どうするんですか?」
「唯一、救えた少年だ。俺と雫の養子として保護して育てるさ。天薙があの事件以来姿を見せず、黎華はこの子を守り身を捨てた。言い方が悪いが異世界に関しての貴重なサンプルはこの子しか今はいないんだよ」
「まったく皮肉ですね。災厄な存在と思っていた少年が唯一の希望になってしまうなんて」
『ICUより黒嶺竜胆様。通話をお待ちです』
二階から覗くICUには少年が治療を受けている。
「はい竜胆です。どうかしましたか」
「黒嶺博士。被験者のこの少年の脳波パルスにわずかですが、ノイズを見つけまして」
「そうか。その脳波パルスの間隔に合わせ、外から脳波に逆パターンの波長を流し込み状態の観察をしてくれ」
「竜胆さんこっれってもしかして」
「そうだな。藤堂くんもわかったようだな」
「そりゃ分かりますよ。あの事件の時と同じ波長ですからね。つまり、この少年が黎華と同じくゲートを開けると言うことですね」
「それだけじゃない。今回は少年のゲートを通してこちらの電波を微弱だが送り込む。異世界の情報を現世で視認できるように解析し干渉する。異世界に少年を送り込み現世で起きてしまった記憶障害を解決するように促すんだ」
「なんか竜胆さんが悪魔に見えます」
「それはひどいな。でもマッドサイエンティストなら夢あるけどな」
「いや、もうすでに追放までされてるんで俺たちマッドですけどね。くそー普通の人生も欲しかったっすよ」
「なに言ってるんだ今さら」
「グサッ。竜胆さんの言葉グサリ刺さったんですけど」
「じゃあ。藤堂も異世界行っちゃう?」
「まぁ……そうですね。いいかも知れないですね。そこに異世界あったら入りたいですよ」
「いや、ほんとに」
「まさか?」
「真面目に。だって冴島神父の事知ってる人物が行かないでどうするの」
「まじ竜胆さん悪魔ですね」
竜胆は異世界生活を現世から俯瞰的に観察をする。現世から一種の神になるともいえる地位に身を構えようと考えていた。その為に藤堂を送り込み現世との通信環境の構築の任務を与えた。
異世界は現世と違い時間が経つのが早いか、遅いかそれとも同じ時間なのかが分からない。早いなら現世に都合がいいが同じなら少年が成長するまで現世の記憶障害は伝染を止められない。遅いのはもってのほかだ。
いよいよ! 本編に手を出せる気がします。
やばいよ なんか重いし プロローグだったはずなのにストーリー本編の重要な部分なんじゃないのこれって思ってくれると 実は 狙ってましたーと言い切って誤魔化そうと考えてました。
どんな異世界でも現世でもストーリーは進めるように少し現実的のようで仮想的にプロローグを書いたつもりです。