プロローグ 4
「妾をこの地に呼び出したのは……お前か」
ドア越しに不穏な空気が伝わる。執務室から彼女は応接間に響くように何度もドアを叩いた。
『神父様何があったんですか! 私にも教えて下さい。私の刻夜に何があったんですか』
彼女は駄目と言われながらもドアノブを回し体をドアにぶつけ無理やり中に入った。そしてすぐ、声を圧し殺すように口元を両手で塞ぎ目に写った息子の姿に涙し崩れ落ちた。
「大丈夫ですから落ち着いて下さい。息子さんが今を乗り越えれば大丈夫ですから執務室の方で戻っていて下さい」
神父はそう言い聞かし、改めて少年の姿を借りたルシフェルに敬意を示した。
老婆は崩れ落ちた彼女を慰めるように身を寄せる。
「畏れながら私のような者が名乗る事をお許しください。私はここで神父をしている天薙と言います。この度は転生おめでとうございます」
「妾はルシフェル。神より追放され世界を造り出したもの。ある者は妾を惑わしの魔王と呼び恐れ、ある者は知識と探求を求める神と崇拝する。妾は姿なきもの原初の竜と恐れ畏れられるものであり罪の象徴として人を造り出したもの。お前の真意を問う」
「異世界とこの世界の変革、新たな神話の構築」
「大きく出たな人間ごとき神にでもなろうと言うのか。なら、妾を憑かせるならお前自信だったはずだ」
「(やはり智天使といったとこか、これ以上の計画を詮索されるとまずいな)ルシフェル様のお力は完全に覚醒を成されていないため、その人鎧にて蓄え下さい」
「妾を謀ったか!!」
神父は剣(鞘から抜かれし黄金に光る炎剣)を何もない空間から顕現させた。現実世界ではあり得ない現象だ。その剣は先程まで炎を纏ってはいなかったものの、マリア像の指先に吊るされていた剣であることは白い柄に黒い剣身で分かる。
戒めの茨の冠を貫くその剣は、転生したばかりのルシフェルを苦しめた。
「どの時代でも世界を統べる者は王であり、王を討ち取る者も新たな王である」
彼女は神父の行動、言動に問い沙汰した。
「天薙神父これはどう言うことなんです? 息子の病を治して下さったのではないのですか? それにその剣はなんですか」
「息子さんは無事ですから、下がっていてください」
神父は聖剣を構え、詠唱を唱えだす。
「黄金の炎を纏いし聖剣よ、邪気を喰らいて名誉を示せ、さすれば黎明の時訪れん」
「よせ、それはミカエルの……バカな真似は止めろ! この人鎧……自由に動かんのか。何故にまた、人間風情がその剣を……あの時も魔女になり果てた女の身体にいた時もだ。なぜ、皆その剣を持つ」
神父が詠唱を唱えだしたとたん。蛇が這う動きをしながらこれまた黄金に光る鎖が少年の両腕両足に巻き付きしめつけた。
聖剣の能力を借りた神父の拘束の魔技による拘束。それにより動きを制限された少年に対し、神父は嫌悪な表情でその剣を手に勢いよく向かって行く。
今のルシフェルには成す統べなかった。剣は確かに少年の胸を突き抜け、炎は少年の身体を包み込む。
「どうしてあなたが私の前に……」
神父の目には黎華の身体があった。
ルシフェルである息子を庇い共に胸を貫かれていた。
「こんなはずではなかったんだ。ルシフェルは封印されるだけで死ぬ事はないが、この子には害もない。勿論死ぬ事もない。君が庇う意味もない」
「やっぱり、この子の母親だからですかね……」
「そうか、この人鎧はこの女の子供だったのか。なんてバカな親だ。この女も妾も神父の手のひらにいたと言うわけか。望み通りしばしこの人鎧で力を蓄えるとしよう。だが、妾を封印した事でお前もまた仮初めでも王の称号を手にしたわけだ。それも魔の王の称号をな……だが、妾は再び力が身に纏った時に世界は変革を迎える。お前の好きにはさせない」
彼女から流れる血は、突き刺さった聖剣を伝わり少年に吸収されていく。聖剣もまた形を持たなくなっていった。
魔を宿さない人間にはこの聖剣でさえ、ただの剣に過ぎない。
「黎華ーーー!!!」
神父は大声で名前を叫びながら倒れた彼女を抱え込む。
ルシフェルは確かに封印された。その証拠に少年の首には聖痕のように刻まれている。部屋の雰囲気も戻り黒いオーラは消失。少年に刺さった傷跡は消えていった。
全てを見守った老婆は神父に言い聞かす。
「神父殿、気を落とされるでない。彼女の魂も神の御許に送られるのだろ?」
「あぁ……」
気を落としていたはずの神父は狂ったように溢れそうな笑いを我慢しきれず、嘲笑いだした。
「神父殿、(もしや……いや、あの異能は……元から神父殿は王だったのか……)神父殿は仮初めだが新たに王になられた。王は異能の力を得られ、世界を再構築する事が出来る。王は望みを叶える術を持つ者。望みを叶えてしまいなさい」
「そうか、そうだよな。今は仮初めそれは分かっている。今日でちょうど十年前になるな。黎華がこの教会を訪れた時だ。俺は彼女が教会に入るのを見た。当時学生だった俺にも分かっていた。彼女が異能力を持ちそれが王になりうる力と言うことも。……そして時が満ちたハァッハッハー今夜は気分が良い」
神父は気の狂った笑いがさらに込み上げた。
「飲まれるな制御できるのはここでない異世界だ。このままだと暴走する事になるぞ」
「俺はすでに黎華を殺めた。彼女の異能は俺が使える。俺とは違う異能。異世界には彼女の能力で開ける。計画には問題ない。少し早まっただけ……俺も勇者に憧れていたんだ」
「神父殿……」
天薙の顔は少し穏やかさと流れる光るものを見せた。
まだまだ 異世界に行けない。
行かせたい。
え? 誰を? 主人公って誰なの? 作者すら困惑 !? どう展開しようかな……。
とりあえず プロローグ 4 張り
プロローグなので前置きなのよね……。
これだけで過去が何年もの月日が経って……。