プロローグ 3
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夜が更け、辺りは霧に覆われ鬱蒼とした森は、様々な生き物がざわついていた。そんな中でぼんやりと光る一際目立つ教会は異質のようで景観に不釣り合いであり、ましてや恐怖に似た不気味さがある。その教会で暖炉が灯る薄暗い応接間。老婆はソファーによこになっている少年に語りだした。
「これは物語の一片だ。とある世界には魔王が存在し、勇者も存在した。幾年も繰り返される世界の中、魔王は暗闇に身を潜め、勇者は王国を築き王となり新たな力を手にした。やがて迎える終焉に王は魔王を追い詰める。追い詰められた魔王は王が持つ聖剣により魂が封印される。聖剣は魔王の胸に突き刺ささり、奈落の底に落ちていく。だが、これで終わりではなかった。聖剣を無くした元勇者の王。聖剣を手に入れた魔王の魂は時を新しくし幕を開ける……王が悪を葬る異能を身に宿し、魔王は新たな肉体を求める」
母親が見守る中、シスターが少年の傍らで看病にあたっている。
この日、少年の病を他者の霊に写しかえる降霊術を用いた儀式が行われる。
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時は少し遡り約、五年ほど前――。
とある昼下り、少年と母親は商店が並ぶ街角の陽光届かない路地裏でぽつんと光る占い屋を見つけた。
占い師の老婆は囁くように細い声と手招きで二人を呼び止めた。
母親は拒む少年の握る手を振りきった。
洗脳状態のようだ。
「帰ろうよ、母ちゃん。なんかあのお婆さん怖いよ? ねぇねぇってばー行かないでよ、お母さん行かないでよ……」
老婆は目の前に着いた二人に語りかけた。
「そなたの心には綻びが見える。ここでないどこか。光あるいは闇、どちらでもない世界との楔、空間をつなぎとめる調律。この子もまた悲痛の呪いを宿しておるな。それならこの教会を訪れるといい。きっと助けになるだろう」
占い師の老婆はとある教会への地図を母親に手渡し闇に紛れるように二人の視界から消えた。
占い師の老婆が霊体のように姿消して数秒後、母親は自我を取り戻したように手にしていたメモ紙の地図に目をやった――。
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それからも月日が流れ、少年は礼拝堂に運ばれ神台に寝かせられた。
頭上には聖遺物の茨の冠を模した荊冠と、その輪の中を突き刺すように一本の剣がマリア像の指先から吊るされている。
そして、儀式は無事に終えた数時間後、今の応接間にいたる。
「まだ、よくなりませんか」
応接間に入って来た神父は優しげに尋ねてきた。
「はい。いくらか呼吸は落ち着いてきましたが、まだ辛そうで」
「そうですか、わかりました。シスターフィリアあなたは礼拝堂の聖遺物の保管をお願いします。そのうち落ち着くとは思いますので。黎華さんも休んではどうですか?」
「では、私は離れます。黎華さんも休みましょう」
「心使い感謝します。ですがもう少し私は刻夜といます」
「黎華さんは息子さん想いの優しい人です。だから、なおさら体調には気をつけてもらいたいんです。息子さんのためにもね」
教会に電話のベルが奥の執務室から鳴り出した。
「すいません私も少し離れます」
神父が電話に出るや、陰気な表情を浮かべた。
反対に電話先の声は希望を見たそんな感じのようだ。
『天薙よ。儀式の方は順調かな』
『滞りなく儀式は成功しました。今は身体に多少の負荷があったようで、横になっておりますが、そのうち安定するかと』
『そうか、それでいい。君に任せて正解だったよ。ほんと良かった良かった』
『貴方からお褒めの言葉が聞けるとは』
『そんなかしこまらなくていい。頼んだのはこっちの方なんだ。それでだ、今度こっちの集会に参加してくれないか。その後で祝杯をあげような』
『わかりました。その際には伺わせていただきます』
電話の向こうでは、神父が敬意を向けているように聞こえているのだろう。
『そうかそうか。後で連絡またする。要件は以上。今後の経過もしっかりな』
『はい失礼します』
神父は受話器を戻し、執務室のドアを開き応接間の黎華を手招きで呼ぶ。
「黎華さん少し話よろしいですか?」
「はい」
「執務室の中に……今の状況に相応しくないかも知れませんが、息子さんの為ですので伝えておきますね。えーとですね。黎華さんはこの世界の他に別の世界があると思います?」
「天国とかですか?」
彼女の無垢な返答に少し戸惑ったのか、神父はこめかみ辺りを指でかくような仕草をした。
「えぇまぁ天国も我々には確かに存在しますが、ここと似たような他の世界も確かに存在する事を覚えておいて下さい。息子さんはいずれ必ず訪れる事になります」
「……そうなんですか」
唐突な話に気が抜けた返答をした彼女は、意味が分からないようだった。
あたりまえだ。彼女にとって他の世界の話をしても不思議で根拠がない。
老婆は執務室のドアを慌てたようにノックし告げた。
「天薙殿。ルシフェル様がこの現世に再誕された!!」
神の御使いであり、大天使の長であったルシフェルの名を老婆は確かに言った。
「そうですか。すみませんが黎華さん。この部屋で待っていて下さい」
「何がどうしたんですか? 私も」
「いいと言うまで開けないで下さい。こっちに入って来ないで下さい」
黎華は待ってろと言われ、おとなしく待っていられるはずもなく、老婆の言葉が気になりドアに身を寄せ耳を澄ませた。
少年は黒いオーラに包まれながら身体を起こし立ち上がる。いや、立ち上がる言うのは正しくない。足裏を床に着けず、わずかに浮遊していた。
人がなす現象ではない。
少年を中心に部屋は重く深い禍々しさが漂うそんな雰囲気に覆われていく。そして、少年は口を開き言葉を発した。
くそー 本音を少し ……
文章を書くのは苦手
読むのも苦手
でも、ストーリーは浮かぶ
つまり、形にしたいけどめちゃくちゃ脳を使い頭が痛む
流石に 本編に進まなきゃと思っているのにプロローグがまだ続きそうです ヽ(;゜;Д;゜;; )ギャァァァー




