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95 次郎1
ここはある裏社会の組事務所。
そこに次郎という名のヤクザがおりました。
次郎は思い悩んだ末、この日親分に頭を下げ、ヤクザをやめたいと願い出ました。
「オレ、組を抜けてカタギになりたいんです」
「組を抜けるだと?」
「実は子供が生まれて……。それでオレ、これを機にまっとうな親になりたいと思いまして」
「そうなのか。それでオメエ、それなりの覚悟はできているんだろうな」
「はい、この小指でオトシマエを……」
「ヤクザをやめるのに、小指一本ですむと思ってるのか?」
親分が次郎に詰め寄ります。
「では、どうすれば?」
「完全に手を切るんだ。二度とこの世界にもどってこれんようにな」
「親分……」
次郎の目に涙が浮かびました。