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94 タコ太郎3
海の底にタコの夫婦がおりました。
亭主のタコ太郎がグータラで働かないため、今日は巣穴の中に食べ物がまったくありませんでした。
それまでは隣に住む両親の手を分けてもらって食いつないでいたのですが、その両親の手も、今は一本もなくなっていたのでした。
タコ太郎には女房の手がごちそうに見えます。
「おい、オマエの手を食わせてくれんか。なあ、半分でいい。あとでオレのを一本やるから」
「イヤ!」
女房は首を振りました。
数日前、そんな条件で手の半分をやったら、亭主のタコ太郎は吸盤のひとつしかくれなかったのです。
「なあ、このとおりだ」
タコ太郎は自分の手を差し出しました。
女房が言います。
「その手は食わないんだから」