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88 正直な鏡
出かけ前、私はいつものように鏡をのぞいた。
「きれいだわ」
つい独りごとがもれる。
はりのある白い肌。
ふっくらしたほほ。
品のよい小さな鼻。
かわいいくちびる。
すっきりした目もと。
鏡は正直である。目の前のものを、そっくりそのまま映し出すのだ。
この日。
私はルンルン気分で会社に出勤した。
会社から帰る。
――今日も疲れたな。
風呂上がりにビールを飲んだ。
――あー、また飲んじゃった。
アルコールは肌によくない。
私は反省して肌の手入れにとりかかった。
鏡をのぞく。
「きれいだわ」
つい、いつものように独りごとがもれる。
「ウソつき!」
鏡が言う。
――そうよね。
私は大きなため息をついた。
鏡には化粧を落とした残念な顔があった。