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82 心中
その昔。
一太郎という若者とお花という娘がおりました。
一太郎は武家の嫡男。
お花は百姓の娘。
あるとき。
一太郎とお花、若い二人は身分を越えて恋に落ちました。
ですが、それは道ならぬ恋でした。
互いの生まれが重い足かせとなり、はなから叶わぬ恋だったのです。
「お花、死んであの世で一緒になろう」
「はい、一太郎様」
二人は互いの手を取り合い、橋の上から川の流れに身を投げたのでした。
葬儀の日。
「二人を夫婦にしてやればよかった」
息子と娘の亡骸を前に、両家の父と母は涙を流して悔やみました。
和尚様がそんな親たちに言います。
「あの二人、幽霊となれば足かせとなるものはありません。二人は、あの世で良き夫婦となりましょう」




