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76 セミの運命
夏の猛暑のなか。
男は会社帰りに飲み屋街へと向かっている途中、路上にひっくり返っていた一匹のセミを見つけると、それをつまんで街路樹の涼しい日陰に移してやった。
その夜。
男は行きつけの店でへべれけに酔っぱらった。
「ダメよ、こんなところで寝ちゃあ」
女性の声で気がつくと、男は街路樹の下で寝ころんでいた。
女性は近くの飲み屋のママで、これから食事をして帰るところだという。
「よかったら一緒にどう?」
女性が手を引いて起こしてくれた。
ーーこれは恩返しかも。
男はあのセミのことを思い出した。
「ぜひご一緒に」
男は喜び勇んで女性についていった。
その頃。
あのセミは、街路樹にあったクモの糸にひっかかって食べられていた。




